第96話 観察:試行=成果

『―――――――――――――――――――――――』






 お知らせ画面は複数のダンジョンで分ける事も出来るようだが、新ダンジョン:星神の試練は基本的に閉じている。なので、ダンジョン『死の修行場・獄 ※心折れ注意』と統合したままだ。その方が様子を見るのも便利だし。

 という訳で結晶の玉座でぐったりしつつ挑戦者の様子を見る。つっても、星神の試練は内部空間が滅茶苦茶広い。まぁ宇宙を模してるからしょうがないんだけど。何処に誰が居るかどころか、挑戦者がどこに居るのか探すのでもなかなか大変だ。


「とはいえ、今は殆ど外周で死に戻りを繰り返してるはずだから……この辺か」


 太陽を中心とした星系、軌道を線として残したら円盤になる形の、縁の辺りに絞って探していく……と、何とか見つかった。神(ダンジョンマスター)視点だと外周も外周、煎餅の縁についてる塩の結晶みたいな所……まぁつまり、初期地点なわけだが。そこからほぼほぼ動いていないようだ。

 まー配下もとい使徒の皆にもこっちは秘密だったからなー。慎重に探索する分だけ時間はかかるか。中心で待機してるソール? 設定をカスタムした影(シャドウ)相手に模擬戦してるよ。暇つぶしで。


「お、意外と軍が頑張ってる」


 今までは出オチの様に侵入するなり罠にかかって脱落していた軍隊所属の兵士達だが、今回は隊伍を組んだ行動が吉と出たようだ。その人数及び一度のミスでは追い出されないという点を活かして、人海戦術による探索をしているようだった。

 あー、これ侵入地点も良かったな。モンスターメインの広々とした荒野だから、普通の冒険者なら数で押しつぶされるところだ。数に対して数をぶつけられるなら、まぁそりゃ順当に練度の高い方が勝つだろう。

 そうしてモンスターの素材を確保しつつ、枯れ枝だけの茂みに引っ掛かってたり石の下に隠れてたりする鍵を集めて行っている。確かに多少は罠にかかるしそのたびに人数は減るのだが。


「まぁでも、落ちた回数をカウントしてローテーション組むとか、負傷兵が出た時の手順をそのまま使えるもんな。全体の消耗を抑えて広域に展開するのなら得意分野か」


 この分だともうしばらく頑張れそうだ。……同じ初期地点でも樹海のような深い森や、一面水で足場は全て氷とかいう場所もある。樹海の方だったらまずは木々を刈り倒し、場所を開けて、丸太を組み合わせて簡易の拠点として……


「……開拓する様子でも見れたかな?」


 ま、今現在よりも大変なのは確かだろう。

 気を取り直し(?)て視点を変える。今度見つけたのは、一般冒険者と神官グループの混成だ。んー、大分広く作ったつもりだけど、流石に人数が人数だったからか初期地点が一緒になったっぽいな。

 場所は……あー、これは、さっきの逆パターンだな。


「よりによって墓場かぁ……」


 神官が居るならアンデッド相手は有利だと思うだろ。違うんだ。アンデッド特攻は確かにあるんだが、一番いいのはアンデッド専門家疑惑の冥府神で、次点がその妹の生命神。細かい事は省くが、つまり神官だからと言ってアンデッド有利とは限らないのだ。

 いや、一応秩序側だから効果が無くはない。無くはないが……まぁ、気休め? 私も一応神になったから分かるが、正直神としての神聖属性をつけるぐらいなら普通に中級魔法をぶつける方が明らかに与えるダメージがでかい。

 そして予想にたがわず、10回死に戻ったのだろう。ぽつぽつと人数が減っていった。残った数人もじきにアンデッドに飲まれて見えなくなる。


「突入時の位置は運だからなぁ。まぁ、扉を見つければ復活地点を切り替えられるから、そういう意味でも楽になるんだけど」


 まぁその運がある為に、挑戦するだけなら制限無いんだけど。ちゃんと実力さえつけてくればクリア出来るようにしてあるのだ。だってクリア出来なきゃ試練と呼べないから。その辺は通常のダンジョンと一緒だ。

 ちなみに、難易度としてもだいぶ下げてある。……筈、なんだけどなぁ。


「よく見りゃ皆も死に戻りしてるじゃん。大丈夫か、あれ」


 と、画面を切り替えた先に居るのは周囲を警戒しながらも相談中の元配下現使徒パーティだ。規定人数である6人となり、バランスも良し。それでいて初期突入位置は……一番ドノーマルな、石造りの迷宮だ。

 罠も分かりやすい範囲だし、ラートなら解除余裕だと思うんだけどな。別に契約解除した訳じゃ無いから使徒補正もそのまま入ってるし。それでクリアできてないってどういう事だ。

 ……ここまでくると流石に適正レベル判定ミスったか? と思うレベルなのだが。


『でー、死に戻りするけどしないっていうんで体験してみたけど、この大幅なマイナスについて言い訳は?』

『……ペナルティがある事は、分かっていた事でしょう? ……承知の上で、試してみたんだと、思ったのだけど?』

『じゃあさきにそれをいっとけっていうか、もんすたーをけしかけてぜんいんいちどにおとすひつようはなかっただろ! どーすんだ、ばんかいのしかたもわからないのに』

『レポリスじゃからのー……ワシらのこの反応が見たかったのじゃろうが』

『まぁ、マスターのことデスから……一応、そこまで致命的なものではないと思いたい所デス』

『救いというか何というか、鍵は本当にたくさん見つかりますしね。いかにも鍵を使いますよーって感じの扉もありましたし』


 ってレポリスの面白がりの悪乗りが原因か。これは私悪くないな。一安心だ。ちなみにうちの使徒であってもペナルティに変化はない。そうだな、しいて言うなら減俸で支払いに替えられるぐらいか?

 まぁしばらくすれば本格的に進み始めるだろうし、例の臨時ダンジョンもクリア寸前まで行ったんだ。多分大丈夫だろ。

 えーとそれじゃ、ある意味大本命のハイランカー常連さん達は……っと。


「お、流石。星を渡る方法の確定まで行ってる」


 兄貴さん達が星(階層)を渡る扉を通り抜け、その先で何やら話し合いをしている場面が見えた。位置としては一番外側から4つ目の星。鍵を使って扉で移動したのだろうし、探索の仕方が何か目標を探している感じである。

 その合間に鍵もきっちり無理のない範囲は逃さず手に入れているし、実に理想的な正規ルートの進め方だ。会話を聞く限り撤退の方法にも当たりを付けていたようだし。


「グッジョブ、というべきか。用意したルートを想定した通りにちゃんと通ってもらえるっていいね」


 他所の神の使徒みたいなアレはほんっっっっとに勘弁である。何回思い出しても腹立つわ、特にあの一番最初の2組。好き勝手しやがって。

 まぁ兄貴さん達はそんなことないからある意味安心して見ていられる。今回は通れるように、っていうか通ってもらえるように作ったから、進んでくれなきゃ困るのだ。ただし運要素は除く。


「今までのパターンとかから考えて対策してちゃんと地力を鍛えてれば、チェックポイントまでは辿り着けるはずなんだけどな。そのチェックポイントにしたって、欲しい加護の方向を選ぶくらいは出来るようにしてあるし」


 なおチェックポイントとは、中心でソールが待機している恒星を含む各惑星だ。え、今攻略中の場所は何だって? ほら、代表的な惑星とか随星とか彗星とかの他にも、その軌道の間や近辺に岩や氷の塊がばらばら散ってるじゃん。あれと同じ。

 ……だから、広さとしてはそれぞれは然程でもないのだ。現に、軍が今も頑張っている星(階層)はマッピングが完了しそうだし。部屋数に直すと大体10部屋前後と言ったところだろうか。その分だけ階層(星)が多いんだけど。


「本来なら、惑星それぞれに使徒が待機してるはずなんだけどなー」


 なお使徒の皆は以下略。なので現在そこには代役として、能力をカスタムしまくった本人達の影(シャドウ)が待機している。それでも撃破ないし設定された合格基準を満たせば、星神の使徒の加護がゲットできるぞ。

 うちの使徒は皆それぞれ力の方向というかステータスが見事にばらけているので、上手い事星を移動すれば目当ての惑星に狙いを絞って移動することも可能だ。やろうと思えば惑星を全スルーして恒星(ソール)の所まで行くことも出来る。例外は、ソールの正面突破が必要条件の私だけである。

 とか考えている間に、兄貴さん達が一番外側の惑星(使徒になった順番に並んでいるので、リオの担当)に到着し……少し探索して、回れ右して撤退していった。んー見事な撤退タイミング。


「……てことは、そろそろこっち(死の修行場・獄 ※心折れ注意)に挑む人も出始めるか」


 多分兄貴さん達なら気づいてる筈だ。例の鍵が、譲渡可能だという事に。そう、別に禁止はしてない。出来れば自分で使ってほしいし仮にも神器だが……星神の試練では助け合いも重視される。譲渡不可では、そこに支障が出ると思った。だから、禁止はしていない。

 とはいえ、使えるなら使うだろう。つーか私なら使う。禁止されてないんだもの。むしろ鍵調達班と裏面挑戦班で役割分担するまであるわ。人数揃えてわいわいできるなら。

 そこまで考えて息を1つ吐く。そのタイミングで……いつものサイレンが、鳴り響いた。










死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:7

マスターレベル:6

挑戦者:566605人

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