第93話 就任+祭り=多忙
そして結局大して休んだ記憶が無いままに1年が経過し、私は名称が“魔法世界”と固定した世界へ、正しくは第零位に昇格の儀式をしてもらってから自らへのダンジョンへと引っ越した。
以前に話をした通り華楽と真野花は私の配下入りし、そのまま使徒へと昇格していた。妙な感じがするーなんて言っていたが、さほど違和感は無いようで何よりだ。
ただなぁ。
「神になって最初の仕事が書類整理ってどういう事だ」
「ごごごごめんなさいこれでも収めた方なんですごめんなさいごめんなさいぃぃ~」
「いや、ピーティに非が無いのは分かってるから」
まだ自分と言う存在が別物になった違和感も消えないうちから、私はこの数年の間溜まりに溜まったアンケートの集計結果と格闘する事になった。
華楽ことカグは歌魔法が気に入ったようで修行中、真野花ことノーカも同じく薙刀振るって感覚を確かめているところ、ショウヨウに至っては未だに両世界を奔走中だ。後は総じて書類仕事に向いていない。
頭痛を耐えながら目を通していく。内容はダンジョンに対する要求だ。宝箱にコインに魔石の出現率を上げてくれ、罠の出現スピードに階層難易度を下げてくれ、見学ツアーやらせてくれ初心者用ルート作ってくれボス部屋見せてくれ等々。
「アホか。それを自力で越えてこその宝だろうが。そんなほいほい大盤振る舞いしたらすぐ欲しがらなくなるだろお前ら。で、今度は武器くれ防具くれになるだけだろうが」
それでなくても神になって初めての制限開放日があと2週間の所に迫っているのだ。世界規模で停戦協定が組まれてウチに突入してくるらしいという情報をラートが持って帰ってきたから、本当に忙しいんだぞ。
というかそろそろ相性を学習したらどうだ。そんな大人数が来たところで侵入者側が不利になるだけなのに。もしかして罠切れを狙ってるのか? あーもう面倒な。
実際のところ、ボス部屋はソールの剣の素材として丸ごと使ってしまったから、今は入り口の小部屋と斜め上方向の通路があるだけだ。私は飛べるから私視点からの戦いは成立するが、そんな状態で勝てる訳ないだろ。
却下却下とクレクレ意見を文字通り投げ捨てながら今後の事、とりあえず目先の制限開放日をどうするか悩んでいると、その思考の途中、文字通り、ぴーん、という感じで閃いた。
閃きを逃がさないよう手を止めて即行で案を煮詰める。神格を得た事で与えられた権能をざっと確認して、
「――そう言えば、まだ私の通称ってついてなかったんだったっけ?」
にやり、と口角を釣り上げ、呟いた。
「――おい、知ってるか。帰ってきたダンジョンマスターの新しい動き」
「あぁ、聞いたぜ。何でも配下……今は使徒か。街の拡張計画を聞いて回ってるんだってな?」
「俺も聞いたぞ。新たな第一位神の誕生だって湧き立つ中、ひっそり聞いて回ってるとか」
「街外れに生えたあの『世界間回廊大樹』を中心に作るつもりなんだろう? 聞き返しても、理由は知らない、としか言わないそうだ」
「それでなくてもかつてない規模での『巡礼』だ。街の方も忙しいから調べている余裕が無いのが悔しいな……」
「それだけじゃない。街をつくる最前線で、ダンジョンマスターの方から注文を付けているそうだぞ」
「何? どういう事だ?」
「あぁ、俺言われたな。大通りから道をどう伸ばそうかって計画していたら、広場をぽつぽつ、住民の邪魔にならない距離で作ってくれないか、とか」
「さぁてどういうつもりなのか――、でも責任者に話は通っているし、変更のための資金も出しているから拒否できないんだよな」
「結局裏道が大幅に減るんだろう? そのせいで、妙に浮いたっていうか、下に空間がある感じの建物が増えるらしいじゃないか」
「あのダンジョンに挑むには、まず【エグゼスタティオ】で迷子にならない程度の認識能力を持っておくこと、ということか」
「…………これは噂話なんだが――拝謁用のダンジョンを新しく開く、とかいう話がある。確証はない。誰が言い出したかも知らない話だが」
「なにぃ? いや、だが、それが本当だとすると……妙に色々符合しないか? 道の広さにしろ、街の構造にしろ……」
「大人数専用の……しかし、あのダンジョンマスターを象徴する、新たなダンジョン、か……」
「ここだけの話、主、通称が付かないの相当気にしてたっぽいからな」
「あぁそれで…………おい、今使徒混ざって無かったか!?」
「探せ!! 捕まえろ!! 本当の事を聞きだすんだ!!」
『疲れた』
『もううごきたくない』
「お疲れ2人とも。首尾はどんなもん?」
『様子を見る限り上々じゃの。早速『命占士』が呼ばれておるわい』
『……これでいよいよ、マスターも通り名もちね……』
新たなダンジョンの第一階層にする場所を、今のダンジョンの最奥で編集しながら念話で現状を確認する。間に合いそうになかったから、ご飯だけスキル使いながら食べて、寝ずに編集する事にした。
神化の影響で睡眠欲も随分と小さくなっている。1ヵ月ぐらいなら余裕で動きつづけられそうだ。それでも間に合うかどうかはギリギリと言ったところだが。
「問題はやっぱセイントブラッドか……うちが巫女を奪ったってのは誤解な上、今お姫様が【エグゼスタティオ】に留まってんのは本人の意思じゃん。何で八つ当たりの矛先がこっちに向くんだよ」
『セイントブラッドが躍起になっておるとみて、ブレイブグロリアスもちょっかいを出してきたようじゃ。互いの同盟国や友好国を巻き込んでとんでもない人数になっておるのう』
『半分予想しちゃァいたが、やッぱりか……。あァ、ブレイブグロリアスッてェのはセイントブラッドと同じぐらいの大国なンだが、何かにつけてセイントブラッドをライバル視してる国なンだよなァ』
『……あの国の王族は代々、自分たちこそが大陸の統率者にふさわしいと思い込む病気にかかる血筋だから……。……同じぐらいの大国があるっていうだけで、腹が立って仕方がないのよ……』
『下手に大国だから潰せないし』
『しかもしせいしゃとしてはもんくなしにゆうのうだし』
「なるほど。すごく面倒なのはよく分かった」
問題なのは、そんな大国2つが本気で参加してるせいで【エグゼスタティオ】に入りきらない程の人数が挑戦してくるという事だ。全く面倒な。
まぁダンジョンマスターとしては相変わらず世界のルールにのっとらなければならないのだから、職業ポイントは欲しいんだが。それにしたって、
「神殿はそんなに人数出してないにしたって、合計で10万オーバーとかそれはどうなんだ。明らかにやり過ぎだやり過ぎ。下手したら【エグゼスタティオ】の人口上回る勢いとか」
『まぁのう……』
『……あれ、今思ったけど、主、信仰の方はどんな感じ?』
『あぁ、ちょっとおれもきになってた。もとどれいのやつらはじめ、かなりあつまってるとおもうんだけど』
『……元々の期待や人望がすごいものね……ソールはオマケだからどうせそうでもないでしょうし……』
『オマケッてオイ。一応それでも色々集まッてはいるンだがなァ?』
『どうせかちにげはゆるさないとかばくはつしろとかそんなんばっかだろ』
『武神としては他にすごいのがおるじゃろうから、他には主とセットで守護神とかそんな感じじゃろ』
『でー、主、どんなもん?』
なお私の神格は『星神』。双子では無く夫婦神という扱いのようだ。それに合わせネクタイをつける辺りに刻まれた神印がある場所から流れ込む力に、ほんの少し注意を向け、ははは、と笑いを添えて返答する。
「正直苦しい」
『うぬ?』
「前の成長負荷とはベクトルが違うけど、ぶっちゃけ暴れ出さないように抑えるので精一杯」
『……それはたいへんだなあるじ』
『既に現時点でどれだけ信仰されているんですか?』
『……いえ……それだけかしら?』
「うん……。むしろさっきから舞台作るので権能合わせて力使いまくってるのに、しかもそれで経験値が入って私自身の器の大きさも広がってる筈なのに、ずっと表面張力バンザイ状態ってどういう事」
『え? は!? っちょ、神殿どころか正式な神官も、生み出した種族も加護を与えた存在もいないのに!?』
「しかも、半神にして半身にしか過ぎないのに、私個人……あ、個神か。に寄せられる信心だから、皆どころかソールの方にすら流せないし」
『……。オレちょっと第零位ンところ行ッてくるわァ』
『ワシも行くかのう』
ぜい、と荒くなる呼吸を宥めながら発言した内容に、ソールとクウゲンが行動を起こした。第零位の所に行っても何をどうする事も出来ないと思うけど、まぁ止める理由もないので放っておく。
ついでに今の皆の心配で更に流れ込んでくる量が増えたから、それを逸らすためにもう一度念話に言葉を投げた。
「とりあえず、私に対する心配とかも変換されるみたいだから、なんか関係ない話するか、ダンジョン編集のアイデアとか出してくれるかな」
『どんだけはばひろいんだあるじ……。あー、じゃあ、やたいらんきんぐのはなしでもするか?』
『……そうね。……向こうのお店も来るみたいだし、更に激化するみたいね……?』
『あー、食べ物を持ち歩く技術だったっけか。きかい? をこっちで作るのは無理だけど、持ち込んだきかいを動かす事は出来るから、大手がそれを買い上げて逆転図ってるって聞いたぞ』
わいわいといつもの連携を見せて脱線していく会話。それに耳を傾けつつ編集を続け、時々悪乗り発言が出ては仕掛けに流用し、2週間は過ぎて行った。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:7
マスターレベル:6
挑戦者:566556人
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