第81話 謀将×支援=規格外

 突入者たちは、しばらくの間は様子見のようだ。その間に私は次々飛んでくる魔石を集め、時々‘星’に変えて上空に打ち上げながら、まずは触媒の改良を行っていた。

 最終決戦と同じ、とはいかないまでもせめて次点ぐらいの性能は欲しい。自動回復で戻る分の魔力を『晶属性適正』に回し、それを魔晶化して合成していく。うちのダンジョンの元配下の皆が来たら一気に事態は動き出すだろうから、それまでにどれだけ良い物に出来るか。

 あ、ちなみに罠の方は全部魔法陣に変わった。職業ポイントでないと物理罠は作れないらしい。もちろんその攻撃力の基準は私なので、一撃必殺は変わっていない。


「手のひらサイズの圧属性魔法とかな。2・3人入る大きさの土属性魔法とかな。もしくは、小さな部屋一杯の水属性魔法とかな」


 順に、足の骨が砕ける、生き埋め、水浸しである。後は鎧のツナギ部分だけが溶けるとか息苦しくなってカマイタチとか何かに躓いてズドン! とか。

 ちなみにこれだけの物を展開しておいて何故魔力が削れていかないかというと、

1.蕾は何本もの支えがあって地面に支えられている(罠満載なので登るのは恐らく不可能)。

2.全ての罠と結界殻は固定式なので維持魔力が要らない。

3.現在私のステータスはダンジョンの中にいる状態になっているらしい。

 という理由だ。迷路が壊されたらどうするって? 壊せばいいよ、私の中で分けてあるブロックの8割が壊れたら丸ごと作り直すから。その分魔力となって回収できるんだ。収支は黒だけど?


「……ん?」


 しかし幾ら何でも魔石の欠片の飛んでくる速度が速くないか、と周囲を見回してみれば、遠くでの破壊活動は複数個所で行われている事が分かった。どうなってんだ、と思ったのと同時に、ダンジョン内で散々見ていた、お知らせ画面のような物が表示される。

 それによると、突入者達の調査を受けた【エグゼスタティオ】の住人が、入り口を増やしてくれと解説者をやっている神に進言したらしい。それで、8方のいずれかに飛ばされるランダムスタートになったようだ。

 また前々から私のダンジョンに挑戦してみたいと言っていた配下の皆も突入準備中。全面協力という事で、採取するだけして溜まりまくっていた緑ゾーンからの収穫物が大盤振る舞いされているようだ。


「じゃあ私にも、せめて残り耐久度のブロックごとの表示プリーズ」

《よう。空間神だ。一応初めての接触になるな》

「あぁ、これはどうもご丁寧に」

《それだけでいいか? 他にも設備を融通したりも出来るが?》

「じゃあフルオプションの自動湧きシンボルで。あとこれ、お知らせ画面から侵入者の様子見るのってできる?」

《分かった》


 なんか直接応対された。そんなに魔力不足だったのか。


《お前が今撒いた魔力だけで拡張計画が300年は前倒しできるからな。全力でバックアップするからむしろもっと派手にやってくれ》

「じゃあ直接召喚禁止で。侵入回数制限は既に撤去されているようだし、人数制限も撤去で。映像無しならギルド通じて各国に通達してくれていいよ。転移の魔力も貸した方がいい?」

《俺らの力は魔力とはまた別なんで問題ない。そういえば軍はカモだったな。間違いなく国庫には響くだろうが、最近どこも物騒だ。消耗させるには丁度いいだろう》

「万が一その国所属の兵士が結界の一枚も破れたら、私が手ずから軍全部に行きわたる数のダマスカス鋼製の武器作るって餌ぶら下げてやればいいと思う。もちろん冒険者を臨時雇用とか配下の皆はノーカウントで」

《ソールだったか。あいつの剣がお前の代表作だったな? アレ一本で国どころか大陸がひっくり返せる性能だからな。信じられる程度に情報をぼかして通達しておこう。おい、情報の!》


 地味にお互い酷い事を言っているが気にしない。むしろこのヒトが神様連中の中で一番気が合うかもしれない。互いに自分の事しか考えてなくて、その為なら相手に利益を持たせて協力を持ちかけるのも、卑怯な手で嵌め落として搾り取るのも平然とできるって意味で。


《凄まじい勢いで参加者が集まるな。もし耐えきったら自力で戻るのか?》

「の、つもりだったけど、この状態だとなぁ……力貸してもらっても?」

《だろうな。準備しておく》

「どうも。あ、私があの世界渡る木に入れるようになるまでの時間、転移陣の入口の上とステータスの視界端に表示するとかできる?」

《それはいいな。転移陣はやっておく。ステータスは……生命の》

《はーい、了解しましたー》


 そんな声が電話の向こうのように聞こえて数秒後、お知らせ画面(仮)の右上に刻々と減り続ける数字が表示された。あと22時間ちょい、まぁ何とか耐えるとするか。

 とりあえず人間に戻っている以上このまま戦闘に移るのはよろしくない。先に杖を何本か作って護剣と杖を自動合成状態にして、アラーム対象に元配下の皆基準の強さを設定。

 自動湧きシンボルには一度蕾を経由してからの魔力伝達を指定し、各ブロックに30ずつの変身を登録し、罠術式の自動生成を設定して、私はひとまず仮眠を取る事にした。




「うーわ、うーわー、主本気で容赦なしだなーあれは」

「本当にどういう頭をしているのデショウね。半時間も無かった筈デスが」

「……だから面白いんじゃないの……」

「それはお主だけじゃと言うに。しかし、これはまた何とものう」

「あのみちのごうりゅうしてるひろいところ、ぜったいなにかおおじかけがあるぞ。はいりたくないなー」

「うーん、でも多分無理だと思いますよー。周囲は丁寧に飛行禁止エリア指定されてるみたいですし」

「まァ安定の嫁だわなァ。どォせオレらが思いつく程度の対策ならとッくに潰して跳ね返して連鎖するよォになッてンだろォし」

「それは確かに。って、ん? ……あ、これは本気で俺らでもヤバいかも知れない……」

「……あー、あれか。あれだな。むしろあれしかないな。じどうわきしんぼるのつかいかたがまちがってるとしかおもえないあれな」

「一体どれの事で…………あぁ、理解しマシタ。あれデスね。よくあんな運用を思いつくものデスよマスターは」

「……しかも、広場の所ときっちりリンクしているようね……。……これは、足を止めて戦ってるような暇すらないかしら……?」

「あっ、皆さんごめんなさい。今、向こうの方でダンジョンの一角が破壊されつつあったんですけど、そこが一気に崩壊すると同時に再構築されるのが見えちゃいました」

「つゥ事はァ、何か。あのダンジョンは壊されることが前提として構築されていてェ? 下手に暴れると諸共アウトッて訳かァ?」

「むしろどうやって攻略しろと言うのじゃ、という構成じゃのう。元のダンジョンが主の部屋含め可愛く見える日が来るとは、流石に思わなんだぞ……」




 くぁ、と欠伸をして体を起こす。魔晶基準の硬さの蕾の中で寝ていたので体中が痛い。半分無意識にお知らせ画面(仮)に目をやれば、何ともまぁ他愛のない事で。やる気が削がれるレベルで楽勝だ。

 残り時間は、と見ると、本気で寝てしまったようで残り14時間程度。双つの世界の時間はリンクしているようで、空の色が変わりつつあるところだった。

 眠り過ぎのせいで目は冴えている。柔軟をして体の調子を戻しながら臨時ダンジョンの調子を確認し、ちょいちょい思いついた事を追加。‘星’の数をカウントした後、自動強化状態の護剣の状態をチェックした。


「だいぶ近づいたかな。耐久度とかその辺はやっぱ金属が少ない影響か。ん? 限界突破の為には素材が必要です?」

《自分の魔法で生み出した素材を使っているだろう。この世界で出来た天然の素材を使わねば、鍛えるにも限界が出てくるという事だ》

《そもそもアナタの製法は基本的に限界が無いって時点で意味不明ですがね! ところでご注文ならこちらにどうぞ!》

「残念ながらお金は全部ダンジョンの倉庫に入れてたから持ってない」


 ナチュラルに話しかけてくる神様たちをスルーして、仕方ないか、と蕾の一番内側の花びらを一枚分剥がして合成した。すると一気に伸びるステータスに消える限界表示。

 再び護剣を自動強化状態に戻して、今度は杖にかかる。とはいえこちらも自動強化状態にしてあったのをチェックして、護剣と同じことをするだけだ。こちらもだいぶ近づいたと思っていいだろう。

 ‘星’の数と属性を調べて、配置を若干変更。モンスター自動湧きシンボルの方も確認して、思いつきがうまくいっているのを確認する。途中の関門の大仕掛けもアクセスしてみて、よしよし、と1人ごちた。


《ところで……さっぱり仕組みが分からないけど、一体何が、どうなっているんだい?》

「教えたら解説席で喋るよね」

《しょうがないナー。本当にしょうがないから、ボクが直接確認をし》

「自動湧きシンボルで増殖能力付きの魔物を指定して共食いさせた揚句の突然変異を狙ってる」

《て》

「ついでにその増減に攻略者が巻き込まれてくれれば儲けもの完全に放置しても魔物を倒した扱いだから魔力は回復する若干でも経験値は入るという大変おいしい仕掛けです」

《こ、ウソだろ言い切っただト!?》

《あー……とりあえず、今までの用途からは、大外れした上、果てしなく頭痛のする運用、だと言うのは、よく分かったよ……》

《世界が吸収する混沌やら第零位の力を消費してくれてんだから万々歳だな。そのままもっとやってくれ。この調子なら500年と言わず千年ぐらい早回し出来そうだ》


 盗賊神様が突貫してくるよりは仕掛けバレの方がまだマシだ。肝心なのは罠であってモンスターは保険だからな。とりあえず今のところ突然変異は20体ぐらいのようだ。おおよそ3基に1体といったところか。

 もうちょっとペースが伸びないものかとも思うが、とりあえずはこんな物だろう。挑戦状況を遠目に眺めながら罠の配置を弄る。ついでに上下方向に新しいブロックを付け足して編集し、落ちた時痛いように通路の間にピアノ線(状の魔晶)を張っておいた。


《痛いどころか細切れね~》

《切れ味はいいでしょうから逆に痛くないんじゃないですかー?》


 まぁそれは些細な違いだ。どうせ自力蘇生アイテム持ってるんだし、使用したら強制離脱だし。頑張ってリトライするんだ、道は大幅に変わってる可能性があるけどな。


《第零位》

《うん。何かな?》

《この臨時ダンジョン、魔力の収集効率が尋常じゃない。もうこのまま空中に浮かべて世界の縁をぐるぐる放浪させてていいか?》

《……うん。それは持ち主に聞いてね》

《構わないかダンジョンマスター》

「相応の対価さえもらえれば調節もするし追加で作るよ」

《あと3つ程頼みたい。そうだな……とはいえ釣り合いそうな物はお前の望みとは真逆の方向だし、正直あの世界をまたぐ木は俺じゃなくて、喪われた双子神の管轄に近いから干渉できないし……》


 と、悩んでいる空間神様。

 その悩む声を切り裂くように、懐かしい気さえするサイレンが響き渡った。

















開放型疑似ダンジョン

属性:世界開拓拠点

レベル:1

マスターレベル:3

挑戦者:――――――(カウント中)

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