第80話 全快×障害=本気

〈ご、ごめん。本当にごめんだから、その、ものすごく臨戦態勢は解いてくれないかな?〉

「誰が解くかここまで好き放題やられておいて。話を聞き出すのに一戦やらかすのも辞さない覚悟だという事だ」

〈あー……その、この自分は、直接的な戦闘力は……〉

「滅びの力持ってる癖に油断なんかできるか」

〈う、うん。持ってるけど、飼い殺し状態だから、正直使えない……〉

「これ以上は時間稼ぎと取る。私はこれから24時間全力で逃げ回らなきゃいけないんだ。とっとと全部話せ」

〈あ、流石に、危機は感じてるんだ〉

「一回直接殺されといて危機感覚えないとかバカか?」

〈あぁ、そういえば、そうだったね〉


 そういえばじゃねーよこのおっちょこちょい最高神が。あー、絶対これ冥府神様とかのほうが話しやすくて分かりやすいパターンだ。本神は責任があるからって言いだして聞かなくて押し切ったけど適正は皆無のパターンだ。


〈うん。じゃあ、端的に。君の最後の持ち物に、『謎の卵』『不思議な植木鉢』『謎の種』っていうアイテムがあったのは、覚えてる?〉

「何その謎シリーズ的なの……あぁ、卵は地脈龍様から贈られたけどどこにあるか分からなくて、あとのは正体不明の神から戦争神様の試練クリアの時について来てたな。結局何処にあるのか分からなかったけど」


 確か表記は???だった。あの時は忙しかったからそのまま放置してた。そう言えばあと一柱???があって、そっちは時計だったか?


〈うん。全部、一応、アイテムボックスに入ってたんだ。ちょっと、深い所、だけど〉

「で?」

〈……うん。卵と種は、持ち主の願いを叶える方向で、全く新しい種族にもなる、いわば可能性の塊だった。植木鉢は、決定ボタンだね〉

「ほう?」

〈あー、うん。君の婚約し――〉

「断じて違う合意してない一方的な物だ」


 不愉快な呼称が入りそうだったので即行割り込んで否定する。


〈――……。まぁ、うん。契約者が、双子神の片割れを、倒した。その時に、あの不安定な空間は崩壊して、それに乗じて、この自分は君をあの空間に喚びよせたんだ〉

「うんうん?」

〈そしてその時、こ、契約者と共に、その場に、その3つが残されて……あー、何と言うか、その時点で、植木鉢が、その土地と――同化した〉

「……は?」

〈この自分を含めて、原因は、調査中だ。ここで重要なのは、そこじゃない。その現象により、種と卵が、それぞれ、目覚めの準備に入った、ということが、重要だ〉


 ……。

 えーとつまり? 何故か土地と……世界とアイテムが同化してしまって? それにより可能性の塊が決定ボタンを押された状態になって?


「つまり、その時までに読み取るなり学習した私の願いを叶える方向で発芽及び孵化した結果、あの世界をまたぐダンジョンの形式を取った木が生えたと?」

〈そう。正確には、『謎の種』から『世界間回廊大樹』が。『謎の卵』から『******』が、生まれた〉

「……聞き取れなかったんだけど、卵から何が生まれたって?」

〈あぁ、そうか……。そうだね。君の世界の概念で行くと、ウロボロス、と、呼ばれている存在が、一番近い、かな〉


 ウロボロスっていうと……確か、自らの尾を銜えている大蛇だったか。世界どころか宇宙を取り巻ける大きさで、永遠とか不老不死とか、世界の限界とかの象徴的存在だった筈だ。

 ということは、木とセットで考えるに。


「私の世界を越えて帰りたいという願いを、第零位の前に汲み取って叶えてくれた訳だ? その割に何故双方向で接続されてるのかが謎だけど。それも恒久的に」

〈……〉


 ここまで聞いて、仕方が無いので杖だけ肩の上に引き上げた。しかし本当に謎だ。こちらの世界で生まれた存在であるなら、魔力の全くない向こうの世界は恐ろしく負荷がかかっているだろうに。

 釈然としない私を、第零位は何とも言えない目でしばらく見て、そこだけは神らしく余裕のあるというか見通せないというか、そんな感じでお告げのように言葉を吐いた。


〈彼らは、君の、本当に望まない事は、やらないよ。流石に姿までは、変えられないけど……でも、多少の解釈の変化ぐらいなら、自ら行う。良かったね。愛されてるよ、君は〉


 そして私が何か言い返す前に、結界のようなものを出して依り代のお姫様ごとどこかへ消えた。纏っていた結界殻を隠蔽重視の物に切り替えながらため息を吐く。


「私は平穏な平凡がいいんだ。何が悲しくて命のやり取りをしなきゃいけないのかさっぱり分からない」


 さて、24時間逃げ続けるとして、待ち伏せされると厄介だよな。……その場合は強行突破するしかないか。電波塔も基地局も無いから携帯は使えないとして……一応今のうちに確認しておくか。

 一番内側に『共鳴結界』というのを内張りし、華楽たちの居る方にも同様にする。モールス信号の要領で杖で軽く叩いてみると、


『――“りゅうせい”さん、ですの?』


 驚いた事に、声がそのまま返ってきた。……一応もう少し設定を弄り、全ての魔力負担を私に振り向けておく。


「華楽。聞こえる?」

『えぇ、聞こえますわ。こちらは少々暗くて狭いくらいで、時間経過で帰れると話したら大人しくしておりましてよ』

「それは何より。体調がおかしい人とかもいないね?」

『大丈夫ですわ。それより、“りゅうせい”さんこそ大丈夫なのですの?』

「問題ない。時間の流れは向こうもこっちも変わらないから、時計はそのまま使えると思う」

『それは幸いですわね。残り時間は……まだ20時間も切りませんわ』

「さっき聞いたところだと、他の人もそんなに時間が離れてる訳じゃなさそうだったから似たようなものだね。ただ、向こうに帰る入口は木の上だからな……まぁ、その時は木ごと覆えばいい話か」

『改めて思いましたけれど、本当に何でもありですわね……』

「そんな事は無い。言っただろ、私が規格外なんだって」


 魔法はそこまで万能な代物では無い。向こうでの科学と全く一緒だ。手間もかかれば融通も利かない面倒な技術の1つでしかない。

 それじゃあそろそろ本格的に逃げにかからないと。


「華楽、ごめんけどしばらくそっち頼む。こっちの世界に厄介な奴がいて、ちょっと逃げないと大変な事になるんだ」

『分かりましたわ。……思いましたけれど、どうやって連絡すればよろしいんですの?』

「なんとか定期的に今使ってる術を張り直してみる。連絡が無かったら暇がないと解釈してもらっていい。24時間経って戻らなかったときは……先に帰っててくれ。その護りは向こうから来た人なら通り抜けれられるようにしてあるから」

『そのときは他の方を逃がして、私(わたくし)と遠近さんは木の上で待っておりますので、早めにお戻りくださいね?』

「…………分かった。善処する」


 実質自分と真野花を人質に私を脅しているようなものだ。早く戻らないと本気で餓死寸前まで待ってるからな2人とも……。


「……さて、と」


 共鳴結界を切り、改めて結界殻を把握しなおし、ステータスをざっと流し見て、杖をさらに追加で作り出す。

 それを終えて、私は空へ向かって声を上げた。


「第零位!」

《なんだい?》

「この場所に、世界の果てへの転送陣出して。あとその場所で暴れる許可と一時改編の許可」

《あ、一応納得のいく形にはしてくれるんだ?》

「きっちりノしておかないと24時間が安全じゃ無い」

《…………。うん。分かった。出しておくよ……》


 理由を断言すると何故だか頭を抱えているような数秒の沈黙。あ? 暴れるとなったら本気で戦るに決まってるじゃないか。


《ついでだから、100km四方に結界を布いて、その中を君のダンジョンと同じ条件にしておくね。もう、好きにすればいいよ》

「もうひと……いや、二桁」

《まだ要るのかい!?》

「要る。ダンジョンの外だから土に含まれる魔力が比較して少ない。その分沢山使わないといけない。あと四方って事は深さに関しては無制限で良いの?」

《……。うん。一応、勘弁してもらえないかな。一桁は増やしておくから、上下方向にも、その距離で区切りって事で》

「チ」

《…………今やっと、皆の忠告が身に染みたよ……》

「じゃあ世界に魔力を放って満たす分で今までの条件を引き換えって事で、それ以外に見物料で+一辺1000km」

《君は本当に逞しいよね……。うん。好きにすればいいよ。そう言ったのはこの自分だよね》


 そんなやりとりから数秒後、目の前に転移陣が現れる。周囲をもう一度警戒してから、木の方に掛けた結界を固定式に変え、魔力を最大まで補充してから転移陣に乗った。

 転移後に見渡せた景色は、風も吹かない荒れ地と言う何とも寂しい物だった。こういう場所をまず作って、世界から魔力を回し、植物が根付く事で精霊を呼び元素を満たして生きていけるように改変していく、だったか。

 その魔力を満たす分を代わりに働いてやる上、面白い物を見物までさせてやるんだ。それなりの対価は要求するに決まっている。結論だけ言えば神の方に得があるようにちゃんと調節しているのだ。

 なんて思っている間に飛ばした自動杖が結界のそれぞれの角に到着したな。魔力を染み込ませる作業はさっきからやっていて結構な範囲になっているから、さて気合を入れて、いざ、スキル発動。


【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『結界術』威力拡大結界】

【スキル『結界術』範囲拡大結界】

【スキル『結界術』設計結界“増倍球”:対象 同時発動術】

【スキル『魔力操作』過魔力発動 100倍】


 何度も繰り返しかけて最終決戦の時並みの結界殻になったのを確認して、素早く次を発動。


【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『土属性適正』土類自在操作】

【スキル『変性生成』土・砂→魔晶・金剛白金】

【スキル『多種合成』異種合成】

【スキル『結界術』設計結界“刃鏡壁”:対象 周囲魔晶】

【スキル『結界術』設計結界“狭籠殻”:対象 周囲魔晶】


 いつかのソールとの戦い。お姫様の横やりで中断されたあの時と同様に、あの時以上に分厚く堅牢な結晶の蕾を構成する。文字通り全力で構成したその蕾に、私は更に術と魔力を纏わせた。


【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『魔力操作』過魔力発動100倍:対象 同時発動術】

【スキル『結界術』設計結界“倍増球”:対象 同時発動術】

【スキル『結界術』設計結界“代晶幕”】

【スキル『魔力操作』術式(To3Slot)付与 条件:魔力5千以上/0.1秒】

 【Slot1=スキル『魔力転換』魔力結晶化】

 【Slot2=スキル『魔力操作』術式封刻:術者保持最大威力魔法】

 【Slot3=スキル『魔力操作』指向添加:自動制御 行動:高高度浮遊】

【スキル『魔力操作』術式(To3Slot)付与 条件:魔力5千未満/0.1秒】

 【Slot1=スキル『複合属性適正』(四大)エレメンタルエッジ】

 【Slot2=スキル『結界術』設計結界“刃鏡壁”】

 【Slot3=スキル『魔力操作』指向添加:自動制御 行動:迎撃】


 固く閉じた蕾が半ば開いたように、ひらりと花びら一枚一枚の間から魔力の幕が舞う。もちろんただ袋叩きにされるつもりもないので(それでも多分勝てるが)、更にスキル発動。


【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『土属性適正』土類自在操作】

【スキル『魔力操作』記憶内図面転写】

【スキル『変性生成』変形形成】

【スキル『罠生成』 消費対象変更:職業ポイント→行使者魔力】

【スキル『魔力操作』術式(To3Slot)付与 対象:全迷路全障害】

 【Slot1=スキル『結界術』設計結界“代晶幕”】

 【Slot2=スキル『魔力転換』魔力結晶化】

 【Slot3=スキル『魔力操作』指向添加:自動制御 行動:結界殻合流】


 思い起こしたのは、崖下に作っていた迷路と冥府のゴーストを閉じ込めてある立体迷路とプレッシャーゾーンの迷路と屋外だけど屋内にもって言ってた階層の迷路。

 もちろん魔力は相応、というか足の封印を解除してまだくらっとくるぐらい持って行かれた。

 しかし持って行かれただけで、自動回復する分は別にきっちりと残っている。じわじわと回復していくのを待ちながら、遠くに見える転送陣から次々人影が吐き出されるのを眺めていると、脳裏に僅かにこんな声が。


《……うわー》

《わ~すご~い、本気の本気だ~》

《そうですねー。足を踏み入れただけで魔力を回復させてしまいますねー》

《ひゃっひゃっひゃっハひゃっわわ笑うの止まらないゾひゃひゃひゃ!!!》


 盗賊神様笑い過ぎ。


「楽しんでもらえるのはもう対価だからしょうがないけどさぁ。集中散るから繋ぎっぱなしは勘弁してほしんだけど。つーか【エグゼスタティオ】に流して突入者募ると同時に解説ぶって見てればいいじゃん」


 ……。

 呟いたらぴたりと止みやがったよ。





























開放型疑似ダンジョン

属性:世界開拓拠点

レベル:1

マスターレベル:3

挑戦者:――――――(カウント中)

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