第70話 想定外^最悪=大博打

『Error!

 The question arose in existence of this space.

 Error!

 The seal of the existence confined in this space is canceled.

 Warning!

 The assimilation to the space connected was refused.

 Substitute space was not discovered.

 This space is canceled.

 Warning!

 This space disappears.

 A content is neglected.

 Warning!

 The place of neglect was searched.

 Public space corresponded.

 A content is moved to applicable space.               』




「っ、ここは……!?」


 ぱっと見には意味を取れない文字列が並んだ、と思ったら、次の瞬間閃光で目が眩んだ。纏っていた結界殻に全ての魔力を叩き込むようにして防御を固め、魔法も併用して即座に視界を回復する。

 まず見えたのは透明な結界殻。そしてその向こうに魔晶の舞台。その先には少しだけ私の領域である何もない空間が広がって、


「土……?」


 その先にあったのは、どう見ても土の壁だった。

 ……いや、壁、というのは語弊があるか。右も左も上も正面も、全てが土で囲まれていた。まるでこれでは


「……私がこの世界に拉致られてきた、あの時と同じ……?」


 思わず無意識に手持ちの能力からアイテムまですべてを確認するが、そこにはここに飛ばされる直前と同じ文字が並んでいた。改めてもう一度見回すが、よくよく見れば土の色がやや黒いようだ。

 どうやら私のダンジョンがある場所とは違うらしい。それはそれで問題なんだが……。警戒は解かないまま、ひとまず配下の皆に念話を繋いでみようとして、


《聞こえるかな?》


 ぞく、と寒気がするほど存在感に溢れた声が頭に響いた。


《うん、ごめんね。巫女じゃない人には負担が大きいから、簡単に言うよ》


 間違いなくさっきお姫様に喚ばれて現れた存在だ。それが何故か私に話しかけてきている。もちろん等号でとんでもない事態と結ばれるんだろうが。


《君を始め、双子世界から同意なく界渡りで送られた人たちの捕捉が終わった。その界渡りの実行者も捕えることに成功した。でも、全ての計画の始まりにして頂点が逃げてしまった》


 ……。つまり、この計画を組み立てて実行に移したトップが逃亡中と。


《うん。そしてそいつは、君が居る場所に向かっている。君が居るのは実行犯の1人が、巫女の召喚を阻止しようとして強引に作り出した空間。半分現実世界と融合している、とても不安定な場所だ》


 何かのはずみで現実の方に影響が出る可能性が高い?


《うん。始まりの始まり、全ての原因は、この自分にある。終わったら全てを話すと約束する。その上で話を要約すると、全ての鍵は今、君が握っていることになる》


 は? 私が?


《うん。色々な要因を考えて、そういう結論になった。計画の始まりにして頂点は、どうにか君を捕えようとするだろう。もちろん君の意思も命も無視した上で》


 ……要は、生き残れ、と。


《うん。死力を尽くして向かうだろうから、一筋縄ではいかないだろう。君にとっては相性が悪いでは済まないだろう。それでもこの世界を司るモノとして、君に負けてもらっては困る》


 随分と筋の通らない話もあったものだ。

 異世界出身のただの子供に世界の命運を託すなんて。

 私に主人公属性は無いぞ?


《うん。だから、ごめん。全てが終わったなら、始まりから全てを話す。その上で、君の選択をこの自分の力の全てを持って叶えることを約束する》


 …………。

 無心で返事をしないでいると、間違いようもなく強大な気配が去って行ったのが分かった。同時に、そこまでは絶対にいかないが、私と比べれば十分大きな気配が近づいて来ている事も。

 どうやらアレ相手に生き残れ、つまり殺し合いを制しろ、分かりやすく端的に言うなら、向かってくる敵を殺せ。そういう事だろう。


「……全く、」


 びきり、とひびの入りだした周囲の土に、ため息を1つ。杖と護剣の状態をチェックして帽子の位置を直し、マフラーを引き上げて、結界殻に包まれた状態で、前を睨んだ。


「何で、私が」




 土の壁を破壊して現れた存在は、不思議な見た目をしていた。

 黒い木の根が絡まったボールのような物を中心に、2本の黒い輪が交差する方向で二重になっているものが浮遊している。大きさは外側の輪が直径で20㎝ほどか。

 よくよく見れば、その球体? を両手で大事に抱きかかえている少女のような姿がうっすら後ろにあるが、あまりにも薄すぎて少し気を抜けば見えなくなってしまう。

 ただ、その存在感は十分に大きい。たぶん相当高位の神だと思うのだが……いまいち、特性とかそういうものが見通せない。とかなんとか考察していると、後ろにある薄っすらした少女? が顔をあげ、首を傾げた。


〈わたしはカーラネミ。きょうだいの名前を形見代わりにもらって名乗る、カーラネミ。あなたはだぁれ。扉を頂戴?〉

(ダメだ話が通じない……!)


 一応対話を、と考えていたのだが無理そうだ。そもそも文章の意味が分からない。単語で考えるなら、扉というのが最高神様曰く取られては困る、私がもっているらしい鍵の事だろう。名前はカーラネミらしいが、きょうだい……兄弟の名前を形見代わりにもらってってどういうことだろうか。

 そもそも、私と相性が悪いじゃすまないって何だ。不吉な予感しかしないけど。


〈カーラネミはカーラネミの為に動いている。もう数えるほどしか手持ちがない。何もかもが分からないことばかり。カーラネミは泣いている? 扉がないとダメになってしまう〉


 意味の分からないぶつ切りの文章を目の前の少女? は呟き続ける。今のところ何も動きはないが……いや? なんだか少女? がちかちかと消えかかっているような?


〈何もかもが既に遅い。扉が無ければリセットです。カーラネミはどこにいるの。扉があれば終末だから。これで全て無くなった。扉によって全てが決まる〉


 今度は黒い球体? の方に動きがあった。浮いている円環が、ゆっくりと回るように動き始めたのだ。私から見て外側が右斜め、内側が左斜め方向に傾いているまま、外側は奥へ、内側は手前へ。


〈扉はあってはならない物。扉はカーラネミの扉なの。扉が壊れてしまうと大変。扉は滅ぼすべき存在。扉は扉であって扉ではない。扉は杖でも剣でも盾でもなく扉でしかない〉


 その回転の動きが、言葉が重ねられるほど徐々にだか加速している。それに伴い、少女? のちかちかとした明滅も激しくなっていった。


〈扉は、扉が、扉も、扉で、扉と、扉を、扉へ、扉に、扉、扉、扉扉とびらとびらとびらトビラトビラトビラトビラトビトビトビトビトビトトトトトトトトトtttttt――――〉


 壊れた機械を連想させるような加速する声。円環の回転はさらに加速し、少女? の明滅は激しくなり、やがて消えているときの方が長くなって、


〈――――******〉


 意味不明な、しかし何故か文字としては見覚えがあるような、謎の呟きを残して完全に消えた。円環の回転は停止と見分けがつかない速さになり、既に独りでに浮いている。

 念のためにリジェネポーションを飲み干して、集中力を高めて眺める先。


〈**、〉


 それは、泣き疲れて涙も枯れて、その果てに零れた乾ききった笑い声に聞こえた。見え隠れしていた狂気が完全に表に出た呟きに、ぞっとした感覚を覚えている暇もあればこそ。


 完全にノーモーションでしかも周囲全域に、先ほどの魔法合戦を上回る威力の魔法が、乱射された。


 即『同時展開』を最大限活用した上で思考詠唱と口頭詠唱を併用して結界殻を強化、または飛んでくる魔法の狙いを逸らす。さっきの私対お姫様ではないが、どう考えても掠っただけでただじゃすまない威力だ。

 狙いが無差別と言っていいレベルなのでなんとかしのげているが、この乱射はいつまで続くのだろう、と周囲を調べる魔法の結果と魔力消費のペースに注意を払い、


(――――いや違う!!)


 隙間など無い程に魔法の行使と詠唱で埋まった頭の片隅で、閃くようにそんな思考が弾ける。瞬時に足元の魔法陣の役割を結界補助から魔力接続に切り替え、足元の魔晶の舞台を自分の一部と認識する事で、最大値×%で計算される魔力の自動回復量を跳ね上げた。

 同時に舞台そのものが私の一部という認識になったので、身に纏った結界殻が、魔晶の舞台そのものを覆う大きさに拡大された。当然半径が大きくなるという事は分厚くなるという事で、防御力の方も跳ねあがる。

 もちろんダンジョンの侵入者は舞台の上に乗っているのだからやったところで隙を晒すだけだ。対神戦専用に、想定だけしておいた運用法。これをやると後で反動が怖いのだが、多分、やらなければその後そのものが無くなる。


〈***〉


 またしても意味不明な言葉。見えた幻影は、虚ろな目であらぬ方向を向いて零される掠れた笑い声。ギリギリで凌いでいた防御の中、周囲全域から合された狙いに肌が泡立った。

 逸らすのに放っていた魔法を全部キャンセルして、亀が手足を甲羅の中に引っ込めるように、防御力の一点強化へ魔力と思考を集中させる。反射を多分に備えた結界の殻が一気に膨れ上がるように成長して、


〈**、*〉


 先程乱射された、極大を上回る魔法。

 それら全てが、着弾点から私に向けて放たれた。


「――――っっ!!?」

〈**、**〉


 全力を込めて支えている結界殻があっという間に割れて砕けて引き剥がされていく。集中する中で見ると、球体? の魔法の乱射は終わっていない。相変わらず狙いは全く定まっていないが、その後反射するように放たれる狙いは正確極まりないから精密なのと同じ事だ。

 『ストレイフ・エッジ』を形成してもあっという間に撃ち落とされる。内張りに重ね掛けと次から次へ結界殻は張り直し続けているが、それでもギリギリ追いつかない。

 そこでやっと、私は相手の戦い方がどういうものか理解した。


(そうか成程、確かにこれは相性が悪いじゃ済まない……!!)


 つまり――私自身と、全く同じなのだ。


(……最悪だ)


 戦い方が同じ、しかもこんな持久戦型同士であるなら勝敗の決定打はキャパシティになる。そして相手は神なわけで、一応既存の生き物である私が太刀打ちできるかというと、絶対に不可能。

 戦いが始まった時点で負けが決まったと言っても過言じゃないだろう。何をおいても逃げるべきだった。世界への影響なんて無視してとっととこの空間を破壊して、逃亡するべきだったのだ。

 だが…………今さら何を想定してみても、もう、遅い。


(最悪だ、最悪過ぎる、最悪の想定外の中でも最悪だ)


 ガリガリとやすりを掛けるように結界殻が削られる中、ぐるぐると回った思考はそんな方向に向いて紡がれる。底辺の底辺までこの後の想定を出し尽くして、


「だっから、博打は嫌いなんだってのに……っ!」


 吐き捨てるように呟いて、右目を塞いで右手の動きを悪くしている、不思議で緻密な文様に意識を向けた。


「――――ソール!!」




名も無き?ダンジョン??

属性:異次元?位相?

レベル:【存在しません】

マスターレベル:【存在しません】

挑戦者:1人

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