第58話 化物/規格外=削り合い
『ダンジョンマスターが試練:限界突破(討打)に挑戦中です
試練を達成した場合、以下が与えられます
・アビリティ【神殺し】の限界突破
・アビリティ【神殺し】の成長速度2倍
・上限Lvの限界突破
・習得中スキルの限界突破
試練を達成できなかった場合、以下のペナルティが課せられます
・『******』神に対して10年間【神殺し】無効
・『******』神の使徒に対して5年間【神殺し】無効
・『******』神に3年間500kg/半年の魔石の献上
試練の達成条件は、使徒名『******』に対し、
・3度致死ダメージを与える
・声・翼・腕・足を完全に破壊する
・所持神器『******』を再生不可能状態まで破壊する
以上のうち、いずれかの条件を満たすか、
・奴隷の首輪、隷属の腕輪を着用させ、弱者の枷を翼に嵌める
・一度も致死ダメージを与えず、特殊スキル『隷属化』を発動させる
以上のうち、いずれかの条件を達成する必要があります』
で、10分後。
〈ふ、ふは、はははっ…………切り札を切って、なお勝ちを掴めないとは……ダンジョンマスター、貴様、特大の不運の持ち主だな〉
堕天使風使徒さんは、ぜぃはぁ肩で息をしながらも口調だけは余裕綽々で私に言う。うーん、腕とか力入ってないし足もぷるぷる震えてるんだけど、突っ込まない方がいいのかなアレ。
そんな見るからに限界ですという状態の堕天使風使徒さんなんだが、まだ強がる余裕があるようだ。うーん、何かが壊れたような音も聞こえなかったし、
「降り爆ぜろ――」
〈はは……は?〉
ここはやっぱり、
「――『メトラーシュート』」
〈お、おい待て、切り札と言うからにはアレ一発で終わりだろう? 何でまた次を撃とうとしているんだ?〉
念には念を入れて、
「重ねて輝け、」
〈しかも詠唱が追加されていないか!!? クールタイムはどうした!!〉
きっちり追撃を入れておくべきだよね。
「――『ツヴァイ・シュトーネ』」
追加したのは降ってくる星の数。
クールタイムなんてある訳ないじゃん、アイテムもとい施設消費型の大仕掛けなんだから。しいて言うなら詠唱時間だけど、耐えてる間に済ませたし。
〈ちょ待っ、貴様バカか!? バカなのか!? いや、バカなんだな!!?〉
「心外だな。しかも一神教の狂信者に言われるのは理不尽だ」
〈何だと!!?〉
「言ってる間に備えなくていいの? さっきより落下スピード上げたからすぐに来るよ」
〈き、貴っ様ぁあああああああああああああああああ!!??〉
堕天使風使徒さんが吠えているが、それを無視して流星はやってくる。先ほどと同じように、しかし今度は簡単に壊せないよう表面に防御用の結界を追加して、今度は炎と氷の極太レーザーが発射された。
流石の魔法適性で、炎には水を、氷には火をぶつけて相殺していく。障壁も張っているがその面積は倍、さすがに落ちるかなー?
あ、やっぱり本体の結界を攻撃してる。でも残念、防御力は強化済みだ。……ってあれ? 相殺するのを諦めて防ぐのを障壁だけにして本体破壊に集中しだしたか。
「いい判断だねー……魔力切れで倒れてくれれば楽なんだけどなー」
威力の落ちている魔法ではなく、刻み込んだ魔法陣で強化してある訳でもない結界に徐々にヒビが入るのを見つつ、聞こえないようにぽつりと呟いたのだった。
で。
「さすがだね。あそこから1時間も耐えるとは」
もはや強がったり喋ったりする余裕も無くなり、ほんの少しつついただけで崩れ落ちるだろう様子の堕天使風使徒さんに呆れ半分感心半分の声をかける。
結局落とした星の数は合計10個。1・2・3・4と増やしていった結果だ。しかも防御力の方も徐々に上げていっていた。本当に、よくもまぁ耐えきったもんだ。
(ショウヨウ、もしくはラート、この人、神器まだ2つ持ってる?)
『……、は、えぇ、少々お待ちくだサイ』
『お、おう、ちょっとまってくれあるじ』
何で2人とも返答に時間があるのかな。ぼーっと眺めてた訳でもないだろうに。
『ダメージ軽減効果の神器は破壊済みだと判断しマス』
『おなじく。あとはあのけんだけだな』
(おけ、仕上げにかかるから一応救急用意しておいて)
『了解しマシタ』
『わかった、やっとく』
さて、試練達成まであと一息。とはいえ、ここまでボロボロになってるのにまだ立てるっていうのは正直異常だ。魔力の使い過ぎもさることながらレーザーだって完全に防げてた訳じゃないんだぞ。
という事は、と思って目を凝らしてみれば、
(やっぱりか。あの剣を中継して操り糸が体の各所にくっついてやんの。ピンと張ってるからもう本人は限界だな)
これ以上の直接攻撃は致死ダメージだと判断して真っ黒いレイピアに照準を定める。操り糸は健在、という事はきっと体の疲労を無視して全開で動き回るな。
耐性が高いと言っても、無理にでも動きを完全に止めてから破壊しないとヤバイか。下手に足だけとか手だけとか固定したら引きちぎって攻撃してきそうだし。
んでもって、出来れば物理系の、攻撃がピンポイントでなおかつ寸止めが出来る方法がいいかな。死んでも神器を守るとかいう行動に出る可能性も高そうだから。
「しょうがないな」
呟いて、杖を左側に振りかぶる。堕天使風使徒さんはその動きを見て一瞬体をこわばらせ、しかしレイピアをこちらに向けて迎撃態勢を取った。
その動きに小首を傾げ、呟くように答える。
「もう一枚切り札を切るか」
言って同時、杖を、結界殻の右側面に叩きつけた。ドガァン! と魔法同士の衝突で結界殻に衝撃が走り、表面の数枚が割れ砕けて剥がれ落ちる。堕天使風使徒さんは、一見意味不明な行動に目を丸くしていた。
「割れ砕けた魔力の殻の破片たち」
それらの欠片が空気に溶け消える前に、やや早口で詠唱を口にする。
「守る為に分厚く硬く、堅牢に強固に作り出された魔力の結晶よ」
カツン、カツン、と固い物同士がぶつかるような音がした。固定された結界殻の破片が、魔晶の床に当たった音だ。
「お前たちにもう一度姿を与えよう」
今度はその欠片に、ふわりと光が宿る。
「本来の物とは対称ながら、変わらず守る為の姿と役目を」
光を宿して再び浮かび上がった欠片の数はいちにぃさん、30ぐらいか。まぁ良しとする。
「その断面は鋭く、その身は固く、故に与える」
堕天使風使徒さんは、この間に攻撃する魔力も残っていないらしい。じっとこちらの様子をうかがうのみだ。
「盾では無く、剣の姿を。防御では無く、攻撃の役目を」
……いや、目の色がちょっとおかしいから、黒幕に視られてるな。せっかくの切り札なのに早々にバレてしまうとは……。
まぁいいか。また改良なり新しく開発しよう。
「変じて漂い、なお従え――『ストレイフ・エッジ』」
宿っていた光が爆発するように輝いて、その後には、複雑な文字列で構成された大小様々な刃が浮かんでいた。杖の動きと意思1つで自在に動き回る、まぁファン○ルみたいなものだと思ってくれれば。
今はその照準を、全てあの真っ黒なレイピアに固定する。再生不可能というからには、恐らく台座から何から何まで鉄くず以下に変えなければいけないという事だろう。
別にある程度壊して一部を亜空フロアの足場の外へ放り出して落としてしまえば再生は出来ないのだが、あんなのが私の持ち物に入るなんて断固拒否だ。徹底的に粉々にしてやる。
『えーと、な、主……。一応言っておくと、神器っていうのはな? 核となっている宝玉なり芯材なりがあるから、それさえ割るか砕けば再生不可能だからな? 別に、砂鉄レベルに砕ききらなくても大丈夫、だぞ……?』
『ちなみに、神器が剣の形をしておる場合、大概刀身を折れば十分再生不可能じゃからな。保険で持ち手を破壊しておけばまず間違いないわい』
なんだ、そうなのか。再生不可能、なんて書いてあったし、神器って基本桁外れだからまともな塊が残ってたら神の力で再生できるのかと思った。
『そんなむちゃくちゃな……あくまでどうぐだからあるじ。かみがあたえたってだけで、かじしんいがいはてずからつくったわけでもないし』
『……加護がかかっているとしたって、それは耐久性や切れ味、装備中の能力アップに限るわね……スライムみたいな神器なんて、聞いた事ないもの』
結局、とても上等な武器ないし防具もとい道具っていう認識でいいのか。
『そうデスね。上等のランクが一番上というだけで、神の格によっても上下がありマスし。神器そのものもピンキリという奴デスし』
そういう認識でいいらしい。
ともかく、まだ動きを見せない堕天使風使徒さん、その手にある真っ黒なレイピアに向けて、私は30の刃を差し向けたのだった。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:6
マスターレベル:3
挑戦者:42219人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます