第56話 変身=本気モード
『ダンジョンマスター専用スキル『
侵入者に対する全ての補助魔法が解除されました
侵入者に対する全ての増幅魔法が解除されました
侵入者に対する全ての監視魔法が解除されました
侵入者に対する全ての制限魔法が解除されました
侵入者に対する全ての操作魔法が解除されました
侵入者には『******』により軽度の加護がかけられています
侵入者の加護が解除されました
侵入者には『******』により軽度の洗脳がかけられています
侵入者の洗脳が解除されました
『デューノスカーナ』のクールタイムは3日です
以後この戦闘中、他のダンジョンマスター専用スキルは発動できません』
監視、制限、操作に洗脳……やれやれ、どの神だか知らないが、随分好き勝手やってくれてるなオイ。仮にも同郷だ、腹くらい立つ。
あー驚いてる驚いてる。って、そうかこの画面見えてないんだった。単にあふれ出るような力が唐突に遮断されて驚いてるだけか。
まぁせっかく操り糸は切れたのだし、繋ぎ直されても面倒だから、とっとと隔離もとい保護しておくか。
「…………っ!!」
「クーロ、来ちゃダメだよ!!」
「させんって」
アルビノの女の子の手が届く前に、4人を分厚い結界の殻で包む。そのままふわりと持ち上げて自分の背後、魔晶の巨大な塔にも見える結晶の、この広場全体が見渡せるあたりの高さに埋め込んだ。
……表現がおかしい? いや、あってるよ。ここはダンジョンの内部なわけで、私はダンジョンマスターな訳だ。地形と自分の魔法を融合して簡易的な檻を形成する事ぐらい訳ないのさ。
「さーて、茶番も決着がついたところで、そろそろ正体を現してもらおうか」
口調を地に戻す。「へ? ちょっ、魔王がそんなのじゃダメだよ!?」なんて混乱した声が聞こえるが、無視だ無視。
「それさぁ。白いんじゃなくて色が無いんだろ。無色とは御大層な偽装だね。んでもって……世界間拉致の主犯格の使徒だと判断するが、異議は無いな?」
「…………………………」
沈黙を返すアルビノの女の子。顔を伏せているから表情は分からない。
まぁ、顔を伏せている時点で黒だけどね。何も知らなかったらいきなり言われても訳が分からないって顔する筈じゃん。
ところがそんな素振りはない。どころか、こっちが散々逆ハー勇者(仮)を苛めている間は十分距離取ってたのに、かかってた魔法を一緒くたに引っぺがした途端走って近寄って来るとか、どう考えても魔法の中継・維持係としか思えないんだけど。
さて、お返事は? つーか沈黙は肯定と取るぞ。
「………………ふ、」
おや。
「ふふ、ふふふ、うふふふ――」
ほう?
「――あっははははははははははははははは!!」
数秒開け、我慢しきれないというようにアルビノの少女は哄笑を爆発させた。ガランとした亜空フロアはよく音が通る。心なしか周囲の魔晶も共鳴してそうな程の声量での笑いは5秒ほど続き、
「――――貴様、何者だ?」
ブツン、と何かのスイッチを切り替えたかのように、突然無表情になってこちらへ問うてきた。怖い怖い。使徒ってやっぱりオカシイ生き物で合ってるんだなこの分だと。
「何者とは失礼な。このダンジョンのダンジョンマスターだよ。分かって挑んできたんだろ?」
「そういう意味ではないわ戯け」
「いや、たわけってそれもそれでどーよ。つーかそれ以外に何の肩書があるっつーの」
とんとん、と杖で肩を叩きながら、結界殻の内と外で会話する。うん。会話が微妙に成立してないなこれは。まぁ敢えて肝心なところを口にしてないのは私の方だけど。
「有り得ぬ、と言っておるのだ。気づいた事自体もそう。それに輪をかけ、一切合財を解除だと? そして茶番と言う割に随分と誤魔化すその態度。もう一度だけ問うぞ。――貴様、何者だ?」
「ダンジョン名、死の修行所・獄 ※心折れ注意のダンジョンマスター」
「ふん…………話すつもりはない、そういう事か……」
気づくのが遅いよ使徒さん。
初めからお前に与える情報なんて一欠けらだってない。
「ていうかさぁ。こっちが最初にお前誰って聞いたのに、それスルーして一方的にこっちにばっかり聞くその態度もどーなの。むしろその一点だけでまともに答える気が失せるんだけど」
「カッ。貴様ごときには過ぎた正体よ。どうせ理解できんのだ、話すだけ時間の無駄でしかないわ」
「さいで」
何処まで行っても会話が成立しないぞコイツ。頭大丈夫か。
「あ、そうか。お前があの悪名高き一神教信者だな? 突き抜けて頭イっちゃった可哀相な人なんだね。初めて見たー」
まぁ信者じゃなくて使徒だろうけどな。さらに言うなら人間でもないだろ。
『うわぁ主マジ容赦ねぇ……』
『だれもがおもっててもくちにださないことをあっさりと……』
『また癇に障るというより逆鱗を踏み抜くような言葉の選び方じゃし……』
思わずと言ったように念話越しに色々と声がかかる。嫌だな。敵に対してしか本音のノンブレスでなんて喋る訳ないだろ。それ以外にはちゃんと考えてから喋ってるさ。
『という事は、マスターの素の思考方向がそれという事デスか……?』
『……鬼畜冷血なんてものじゃないのも納得ね……』
ちょっと。なんでそこで納得が増えるの。
「は、ははは、可哀相、だ、と?」
あれ。放置してた使徒が何だかぷるぷるしてるぞ?
見るからに役目とかその他諸々忘れて爆発寸前だな。追撃いっとくか。
「ん? それ以外だと憐れとか残念とか痛い人とか? つーか見るからにただの術式の中継係程度の小物に何言われても退屈なだけだし。ていうか喋り方が既に負けフラグ満載のかませ役以外の何者でもないんだけど自覚してる? あ、してないか。頭が可哀相な人だもんね。ごめんね?」
『酷い! ひたすらに酷い!』
『あるじもうやめてやれ、なみだめだ!』
『よくそれだけ地雷を踏み抜くような言葉を思いつけるのう……』
『しかもノンブレスで一気に言い切ってマスからね……』
『……単語ごとに突き刺さる矢印が見えるようだわ…………』
いやだって、コレ敵だよ? 容赦する必要が何処にあるの。
『……まァ、無ェわなァ』
『いや無いけど、無いけど主これはちょっと……!』
『たしかにようしゃするひつようはないがおーばーきるすぎるだろ』
『実力での勝負以外でここまで叩きのめす必要はあるか、ちょいと疑問、かの……』
戦いは最初の一撃で半分が決まるんだよ。その一撃を開始前に与えられるんなら出来るだけ大きいのを与えておきたいじゃない?
『……あれデスね。マスターはマスターという事デスね』
『……そうね……正々堂々なにそれおいしいの、それが私達のマスターだったわね……』
だから何でそこで納得が増えるの。
とはいえさ。
(つーか何で皆こいつが使徒、その上一神教信者っていう超危険人物だっていう事実をスルーするのかな?)
『…………あ』
『いや、一応分かってはおったのじゃが、それ以上に主の突っ込みどころが多すぎるのじゃ』
明らかに忘れてたクラウドの発言はともかくとして、クウゲンが言うならある程度仕方ない……のか?
いやいや、それでもどうだよ。
「いいだろう……至高たる我らが神、その力、存分に味わうがいい……!!」
とか何とか表面的には沈黙して反応を待っている間に、完全に使徒はキレたらしい。ふは、ふふはは、なんて不気味以外の何者でもない笑い声を付属品として、そんな呪詛に近い声を吐き出した。
それを受けて気持ちを切り替えると同時に、素早く指示を下す。
(あ、すまん皆。使徒が本格的にキレたから戦闘に入る。クラウドとラートは戦闘の隙とタイミングを見て自称勇者(笑)一行の安全な牢屋への移送、ソールはこの戦闘に限り同じ階層に居る事を許可するから備えておいて)
『主の本気の戦闘に割り込め、だと…………!?』
『ちょ!? なにげにむりなんだいだぞそれは!?』
『りょォかい、ちッとでもマズイと思ッたらすぐ喚べよ、嫁』
クラウドとラートの悲鳴に近い叫びとソールの喜色が隠せていない声を両方黙殺。ずるずると染まるように色が変わり、ゴキバキと聞くからに痛そうな音を全身で立てて、少女だった筈の使徒は、骨格からその姿を変えていく。
魔法のある世界にしては随分と生々しい『変身』は、およそ1分ほどで終了した。
足元までの長いストレートの髪、ドレスのように裾の広がる神官服、背中から生えた大きな鳥の翼は2対4枚、手にはいつの間にか美しくも邪気が漏れ出るようなレイピアが握られた。
ただし。
「堕天使かよ……つーか、真っ黒って。かぶってんじゃん」
艶消しの真っ黒に全てが塗りつぶされていなければ、もう少し素直に敵意を向けられたのにと思わないでもない。
〈クク……四肢末端まで神の力が行き渡る……〉
『変身』が完了した元少女の使徒は、寒気がする程度には整った顔に、にたり、と病み切った笑みを浮かべた。年齢も上昇して、妖艶な美女という言葉がぴったりだ。
〈我が神と第8の使徒である我を愚弄した罪、存分に悔いながら地獄に堕ちるがいい……!〉
「あ、やっぱ8番程度なんだ。しかも愚弄したんじゃなくて正直に思った事言っただけだし? しかもさ、1回死んだからわかるけど地獄なんてないよね。冥府だけだよね、逝く先って」
しまったついうっかり。
……な訳がない。挑発は出来る限りやっておくものだ。特に冷静さを失う相手であるなら念入りに。
狙い通り、堕天使風使徒の頭から、ビキリ、という音が聞こえた気がした。ひくひくと病んだ笑みを引きつらせつつ、だらりと下げていたレイピアを持つ手を持ち上げる。
〈…………楽に死ねると思うな……!!〉
「そりゃこっちのセリフだよ」
肩に乗せていた杖を堕天使風使徒に向ける。
これにて前座はおしまい。
リミッターも何もない、本気の戦闘の始まりだ。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:6
マスターレベル:3
挑戦者:42173人
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