第49話 話-真実=偽り
『ダンジョン:死の修行所・獄 ※心折れ注意 に、最高神が印を送りました
ダンジョンとマスターに対し、以下の機能・制限が開放されます
・侵入者に対する個別難易度設定
・侵入者に対する階層侵入制限機能
・侵入者に対する階層別使用スキル制限機能
・侵入者に対する階層別使用アイテム制限機能
・フリーエントランス階層
・階層ループ機能
・『
・階層拡大上限
・設置罠難易度制限
・配置モンスターランク制限
・カテゴリ:巡礼者の特殊スキル『神降ろし』『神下し』
・カテゴリ:吟遊詩人の特殊スキル『
・カテゴリ:???の特殊スキル『領域設置』
・限定ユニークアイテム制作能力
・限定ユニークモンスター召喚・進化能力
生命神がお祝いを用意しています
精霊神がお祝いを用意しています
¦
¦ 』
ちょっと失礼して覗いたお知らせ画面には、随分と久しぶりにずらずらと大量の文字が並んでいた。うちに遊びに来る・関係が大きい(らしい、含む)神様たちが軒並みお祝いを用意しているらしいが、いっそ怖いなオイ。
「……前言を撤回しよう。次の休止期間で、普通の人相手の難易度は元に戻すよ。お詫びに参加賞も最初の3日だけ個数限定先着順で出す」
「あぁ、それは何よりですな。……おや、全員ではないので?」
「たかだか1人の人間に何を期待しているのか、聞くのが怖いな」
「ほっほっほ。ご冗談を」
あながち冗談でもないんだが、アズルートおじいさんは笑って取り合ってくれない。臨戦状態だった空気が元に戻り、
「――まぁもっとも、返してもらわなければそのままだが」
私が追加した一言で、再び凍りついた。お茶に手を伸ばしていたアズルートおじいさんはその動きをピタリと止める。
「おやおや……これは、困りましたな」
切れ長の目の奥、
「予想外とは言え、望外の成果を持ち帰れると喜んだのですが」
「配下の心配をして何が悪い?」
「ほっほ。真、身内には甘いですなぁ、マスター殿は」
故にこそ、弱点となる――
そんな声が聞こえてきそうだ。全く持ってその通りだが、本人から辞めたい意思があるとは聞いていないから暫定続投決定。であるなら、連れ戻すのは雇い主の責任だろう。
ここでまともに腹の探り合いとなれば敗北だろう。対
「私は、した約束は守るよ?」
「…………ほう」
そもそも勝負に持ち込まないように持って行くしかない。
「ちなみに。座右の銘は因果応報だ」
あまり良い意味では使われない四字熟語を明言する。今度こそアズルートおじいさんは全身の動きを止めた。おや、そんなに妙な事を言ったかな?
数秒その硬直は続き、おじいさんは音も無く本日最大に深いため息を吐いた。極々小声で呟く。
「…………成程、通りで…………」
うん。聞こえてるからね。表には出さないが。何が、通りで、なのかな?
「ちなみに尋ねますが……言い換えると?」
「自業自得」
「……何の躊躇いもありませんな……」
「座右の銘だからね」
やはりあまり良い意味では使われない四字熟語だが、おじいさんが再びのため息とともに言ったように躊躇いは無い。ここで躓いていてここまで振り切ったダンジョンが構築できるか。
ま、ここまでやってダメだったら負けの決まっている口勝負に挑むしかないんだけども。さて、どう出る?
開かない右目はスルーして、左目だけでじっと観察する。右腕の動きはまだ鈍いから、攻撃はソールに丸投げする事になりそうだ。戦闘に入らないのが最上なのだが、多分そうも言っていられないだろう。
「ふむ。つまりは、このダンジョンの在り様こそが、マスター殿の目指すところである、と」
「性格が色濃く反映されているのは否定しないよ」
「因果応報とは、しかし、何とも……」
コトリ、とおじいさんはカップをテーブルに置いて、
「分かりやすい事で」
テーブルの上で手を組み合わせ、にっこりと微笑んだ。じっと不動の姿勢で控えていた少年少女が、すすすっとその背後に移動する。私は私で、組んだ腕の下、左手の指先に力を入れて柄を少し引き寄せた。
感情の見通せない蒼い目に威圧を感じるが、それは最初からの事。魔力が渦巻いてるから戦闘まで秒読みか。全く、せっかく話し合いの為の場所だっていうのに、結局いつもの侵入者対策と同じ結末とか。ここを作った苦労を返せ。
「結論、吾は一発マスター殿に殴られねばなりませんなぁ」
……ん?
突然何でそうなる。今にもガチバトルの火蓋が切って落とされようとしたとこなのに。……あれか。私に先に攻撃させて、正当防衛という言い訳を……。
「いや、実はですな……。吾ら、マスター殿の配下殿には手を出しておらぬのです」
「はぁ?」
思わず不機嫌全開の声になったが、仕方ないだろう。つまり、このおじいさん達は今まで私をだましていた訳なのだ。それも、念話に割り込むなんて手間のかかる事をして。
「配下殿にお願いしたのは、このダンジョンへの案内とその間の説明役でしてな。いやはや、直接お話しするにはこれが一番手っ取り早かったもので」
「最初の毒吐きといいこの手段といい、あんた本当に聖職者か」
「綺麗ごとで全てが済ませられれば、この世はもう少し平和でしょうな」
「あっ、そう…………」
もちろん本気で疑っている訳では無いが、言い回しという奴だ。それすら気に留めず、ほっほっほ、と笑っているおじいさんに、精一杯の抗議を込めて短く返す。うん。確かに殴りたい。
という事は、2人が後ろに立ったのは吹き飛ぶおじいさんを受け止める為か。ほほう。いい度胸だなオイ。
「……危害を加えていないならいい。必要な機能と同時に解放された他の部分で十二分に報酬にはなってるし」
「おや。先ほどの声、随分と苛立ちが込められておりましたが」
ため息を吐いて緊張を緩めれば、こともなげに挑発してくるおじいさん。そうかそんなに殴られたいのか。改めてイラっとするが、そこも含めて思惑通りだろう。
なら意地でも乗ってやらん。つーか乗せられて手を出したら痛い目を見るのはこっちだし。立ち上がりながら言葉を続け、私から見て左手側の扉を指して帰りを促した。
「それだけの重防御、しかもダメージに応じて後遺症を残すタイプの術を重ねておいてよく言う。……話は終わりだ。帰りの転移陣はそっちの部屋にあるから、勝手に帰ってくれ」
そのまま振り返らずに背後の扉へ。全く、後で片づけるのも私なんだぞ、この部屋。教育中の子供らには今後話し合いに来る可能性があるから見せられないし。
思考の一部を大改装計画に割きながら扉に手をかける。ソールには見えない位置に移動するよう契約を通して言ってあるから、あとはおじいさん達が帰るまで電車でぐったりしてよう。精神的に疲れた。
「吾らを信用する、と」
なのに、背後からそんな声がかけられる。振り返らないまでもその場で立ち止まり、次の言葉を待つ。
「嘘の可能性もありますぞ?」
まぁ確かに。ショウヨウと連絡はついていないのだ。安全を確認したとは言い切れない。
だが。
「だとしても、何ら問題は無い」
左肩越しに顔だけ振り返り、姿勢は変わらず、しかし纏う空気だけが鋭利になったおじいさんと目を合わせる。心持ちうっすらと左の唇の端を持ち上げて、目を細めた。
「その場合は、ダンジョンの難易度が下がらないだけだ」
そして今度こそ、扉を開いて通り抜け、部屋を出た。
……あー疲れた。慣れない精神戦なんてするもんじゃないな。引きこもりに対人能力を求めるなっていうんだ。まぁ引きこもり出してまだ1年ちょっとだけど。
とりあえず一息ついてから、まずはエントランス階層と特殊スキル対策を考えるとするか……。
「……大神官様」
「どうしましょう……」
「……。どうもこうも、大人しく帰るしかないでしょうな。ふむ、しかしこのお茶は吾でもめったに飲めない高級品。2人も今のうちに味わっておきなさい。大丈夫、毒など入ってはおりません」
「「……はぁ、はい」」
「食道楽という噂も真のようす。配下殿に手を出していないのは本当の事。あのマスター殿であれば、約束は守り、難易度は下がる筈。これ以上は贅沢という物ですな」
「あ、おいしい」
「……お茶菓子もおいしい」
「こちらもさりげなく高級品。味わっておきましょう。……それに、マスター殿は意図しておらぬようですが、とても良いお土産も頂きました。これでもう少し道楽の気の強い神々を諌められますな」
「「?」」
「ほっほっほ。まさしく因果応報の体現者。まるであれでは鏡そのもの。ダンジョンマスターという職業がそうさせたのか、それとも本人の資質がこの状況で花開いたのか、実に興味深い所ですが……」
「鏡……」
「あ、殴らなかった」
「その観察眼と看破力もなかなかのもの。……とはいえ、まさか手加減に応じてかかる祝福を、ダメージに応じての後遺症と言われるとは思っておりませんでしたなぁ」
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:5
マスターレベル:3
挑戦者:41124人
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