第41話 棘=円満-問題

『ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに1人の吟遊詩人がやってきました

 ダンジョンに3人の巡礼者がやってきました

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 『謎の卵』は成長しています

 侵入者の撃退に成功しました▽

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 【エグゼスタティオ】に第二防壁が建設されました

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました

 ダンジョンに2人の学者が侵入しました

 ダンジョンに2人の研究者が侵入しました』




「……………………」


 大連合+他ダンジョンというどこの戦争だよという規模の大攻勢は、中ボス階層を抜かせることなく終了。つまり、私たちの全面勝利と言ってもいい結果に終わった。

 大量の経験値が入ったので、次の休止時間中にダンジョンレベルをまた上げる。今度は、ダンジョン内でのマスター及び配下へのボーナスが目立った。ダンジョン内であれば、今まで以上にブーストのかかった状態で戦えるという事だ。

 新たに開いた階層は配下全員に1つずつ解放し、残りは私が編集する事にした。皆楽しく取り掛かってくれているようで何よりだ。キラクスの食いつきが思いのほかよかったのが驚きだったのだけど……レポリスに変な事吹き込まれてないだろうなあの子。

 ただ、そのままいじるのでは面白くないので、階層を既に持っているメンバーには面積を3倍以上に拡大しないといじれないようにと制限をかけておいた。それプラス、新しい階層は私が手を入れた階層より難易度をあげるように、と。

 何故だかその条件に反論が飛び交ったのだけど、新しく作るんだから今より簡単だったら意味ないよね? と聞き返すと揃って沈黙してしまった。……いや、皆揃ってじゃないか。ソールは満足げだったしレポリスは大笑いしてたな。

 で、今現在ダンジョンマスターである私が何をしているかというと。


「………………ひ、卑怯だぞ、魔王め……」

「声に力がこもってないし涎が止まってないけど大丈夫ー?」

「お前のせいだ、この、性悪魔王……」


 たくさん、本当にたくさんセイントブラッドが連れてきていた奴隷。その中に混じっていた1人を厳重に捕え、その目の前に料理の試作を並べて降伏を迫っていた。

 空きスロットはまだまだあったので、【調合】と【料理】を取ったのだ。スキルをあげるには実際に使ってみる事。という事で料理を大量に作ってみたのだが、配下の皆には少なくとも好評な辺り、スキル補正は偉大である。

 で、そんな料理を並べられれば当然匂いもすごい事になる訳で、目の前の元奴隷さんは少なくとも2日は何も食べていない筈だ。1日強も持っている現状に驚くばかりである。


「だから、魔王じゃなくてダンジョンマスター。呼び名はまだない」

「お、同じだろうが……」

「残念ながらこの世界に魔王はいない。そして世界を滅ぼそうとか支配しようとか思ってないから魔王という定義には当てはまらない」

「き、詭弁だ、そんな、もの……っ!」


 とかなんとか口で気丈な事を言いつつ目の前の料理の群れをガン見する目は動かない。涎なんて、それだけで脱水症を心配するレベルなんだけども。……うーん、何で納得してくれないかな。

 しょうがないから一旦料理下げるか? そろそろ冷めてきておいしく食べれる限界だし。引いてダメなら押してみるのもまた一手、うん、一度下げよう。


「全体放送。皆ー、料理の試作できたから運ぶの手伝ってー」

「っっ!!」

「……あら、今日の料理もまたおいしそうね……♪」

「香辛料のお店ができたから、ちょっと冒険してみた」

「…………!!!」

「ほう。以前食べたかれーという物に香りは似ておるが、今回は揚げ物かのう」

「うっまそー! 主、先に1つ食べても――」

「食べた数だけ全種類制限するけど?」

「――うー、我慢する!」


 何やら背後から凄まじい目で見られている気がするが、気にしたら負けだ。さっさと皆の階層進捗条件を聞きつつご飯にしよう。

 と。皆から一瞬遅れてやってきたキラクスが、私の背後で拘束されている元奴隷に気が付いたようだ。きょろきょろと一切気にしない私たちと元奴隷の間で視線を往復させて、


「……」


 ててて、と元奴隷に近寄ってしゃがむと、その頭をなでなでして戻ってきた。さりげなく防音結界を張りながら元奴隷の様子をうかがってみる。


「――――いっそ殺せぇえええええええ!!」


 予想は違わず――私と同じ黒髪黒目の彼は、テンプレを心の底から叫んだのだった。




「だが断る。というか餓死するような状況にしてるのはそこから生き返らせる事が出来るからだし。という事で、もし万が一覚悟を決めて舌を噛み切ったとしても蘇生させて無限ループだから」

「鬼! 悪魔! やっぱお前魔王以外の何者でもないだろ!!」

「だからダンジョンマスターだって」

「そんな可愛い存在なわけあるかこの冷血非道鬼畜がー―――!!」

「残念だがそれは褒め言葉だ」

「1ミリも褒めてねぇよ全力で貶めてんだよ!!」

「要するに効かないって事。学習しなよ、ご同輩。長生きできないぞ? まぁ少なくとも確実に1回死んでるけど」


 料理を運び出した後、彼の目の前にしゃがんでそんな会話をする。ちなみに足が治った訳では無く、あまりのソールの接触を何とかしようと【防具職人】で作れるものを検索、魔力を通して体を動かす類の装備を応用して、すね当て部分だけズボンの下に装備しているのである。

 防御力をあげる事にもなるし、靴の中敷きと合わせてギミックもいじくった。やり過ぎて機動戦も出来そうなぐらいだが、出来ないよりはマシだろうと思う。

 ちなみにソールたちも彼の様子をうかがっているのだが、その周り中に疑問符が浮かんでいるところを見るに言語は理解できていないのだろう。

 そう。目の前の珍しい黒髪黒目の、おおよそ同年代と思われる青年は、私と同じ日本人だった。黒髪黒目は数が少ないながらこちらの世界にも存在している。それを何故特定できたか、というと。


『はい、これで奴隷さんの復活コンプリート?』

『あー痛って、やっとストーリーのメインイベントの開始……ってうわ、魔王に囚われるとか最悪パターンじゃねぇか!』

『……嫁、今こいつ何つッた?』

『えーと。一応聞くけど言語的な意味で? 単語の意味的な意味で?』

『げんごてきなほうだな。こんなことばおれもきいたことないぞ』


 まぁ、この会話が全てを表している。

 どうやらこの様子を見る限り、異世界テンプレの1つ、ゲームだと思っていたら異世界でした、のパターンだろう。問題は未だにここがゲームで、私すらNPCだと思っている事か。

 同じ異世界への拉致被害者として同情しない事もないので、特別に私の奴隷のまま現実を認識するまで保護している。現実を認めさせる手段が少々乱暴なのには目をつぶってほしい。

 なので、正確には元奴隷ではなく現在進行形で奴隷だ。所有者は違うが。


「そろそろ現実を認めるべきだと思うけどね。私は人間で、彼らもちゃんと生きてるから。もちろん君も。今回はたまたま助かったけど、殺されると死んじゃう現実だよ、ここは」

「そ……そんな訳、こんなファンタジーが、現実な訳が、ないだろう……」

「じゃあ何で飢餓感なんて物が制限なしでかかるのさ。殴られた時の痛みは明らかに許容範囲外だったんじゃないの」

「く……空腹システムなんて、最新のゲームじゃ、珍しくない……。新作の、テストプレイだから……ペインド制限が上手くいかない事もあると、事前説明があったしな……!」

「反論出来たところ水差して悪いんだけど、私がNPCだとしたら今の会話おかしいよね。ファンタジーの住人がシステムの話をプレイヤーに振るなんて正直バグですらあり得ないと思うよ?」

「お、お前は、魔王だから……! チュートリアルが、システム寄りなのは、当たり前の話だ……!」

「だから、魔王じゃなくてダンジョンマスターだって。しかも魔王なんて存在はいないし」


 少々乱暴なやり方を行使したところで、頭が固いというか何というか……一種の現実逃避でもあるんだろうが、面倒な事この上ない。

 さてどうした物かと目の前にしゃがみ込んだまま膝に頬杖をつく。その瞳が質問のたびに揺らいでいるから、本当はおかしい事に気が付いてはいるのだろう。ただ、現実を認めたくないが故に必死に否定しているだけで。

 と、考えていると、ふと念話が入った。


『主? 今取り込み中か?』

「どしたの、クラウド。別に急ぐような問題でもないからいいよ」

『いや……なんかお客が来てるんだけど……どうする?』

「相手は?」

『いやーそれが…………サクスンが加護持ちで、その繋がりで今本神が鍛冶場に来てる』

「あー……。……魔石ガチャから適当な武器見繕ってお供えしといて」

『あぁ、うん、さすが主、手抜かないんだ。了解したー』


 ……。何が流石で何が手を抜かないのやら。お供え物をするという習慣はあるようだが、神官でもなんでもない人がやるのは珍しいとかそんなんだろうか。

 さて、と目を戻すと、先ほどまでこちらに噛みつかんばかりだった彼がぽかーんとした顔をしている。おや?


「どした」

「いや……突然独り言を……」


 あー、そうか。念話だから彼には聞こえないんだったか。


「ダンジョンマスターの能力だよ。配下といつでもどこでも会話できるっていう」

「……は? い、いや……そんな、チャット……?」

「残念ながらストレートに念話なんだなこれが。システムには違いないけどゲームじゃなくて世界の」

「で、でも……知らない、言葉……」

「私は意識してないけど、配下の皆も日本語分かってないみたいだね。さっきこっち見ながら不思議そうな顔してたし」


 ついいつもの癖で、念話に声を出して応答していたらしい。どうやら私の話す言葉は完全に自動翻訳されているようだ。いわゆる言語チートか……なければ真剣に死んでいるから感謝はしないぞ拉致犯。

 まぁ、話すだけじゃなく、聞く方も自動翻訳されてこそ、だが。文字は自力で習得しなければいけない様だったので気づくのが遅れた。自然に侵入者の人たちの言葉が理解できている時点でおかしいと思うべきだったか。


「とりあえず、少しは真剣になった方がいいと思うよ。ここは、日本よりも少し死を含めた色々なモノが近い。生きていきたいんだったら、抗わないと」


 特に神様とか。とは、言わなかったが。

 ワンドを取り出して拘束具を彼に傷がつかないように破壊して、作っておいたおかゆを目の前に置く。彼が何を考えているかは分からないが、現在私の奴隷である以上、勝手に倉庫の隅に作ったこの小部屋からは出れない。

 意固地になっている考えにヒビは入ったようだ。なら、あとはもうひと押し。できるならその一歩は自分で気づいてほしい。面倒だからとかじゃなくて、その方がこの後の覚悟含む色々スムーズに行くからだ。


「……まぁ、問題はここからだったりするんだけど」


 ダンジョン内ワープで一度電車に戻り、戦利品を倉庫へと転送しながらぼそりと独り言。

 彼が来たことで何が一番問題だったか?

 そんなもの、決まっている。


「完璧、異世界出身ってバレたな、あれは」


 ソールはじめ、勘の鋭い人ばかりが集まった配下達の、敢えて何も聞かないよ? という顔を思い出し、思わず重っ苦しくため息を吐いたのだった。




























死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:5

マスターレベル:3

挑戦者:40078人

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