第40話 挑戦<備え=返討ち

『――――――――――――――――――――――』




 やってきたのは大剣を背負った大柄な男冒険者、クラウドと同じ双剣スタイルの女冒険者。短剣の鞘が体のあちこちに見える男冒険者、そして黒くボロボロのローブにすっぽりと全身を覆った4人だった。

 短剣を山のように装備している彼が盗賊系の職業なのだろう。一番消耗が酷そうだ。そして黒ボロローブの誰かは……どうやら、前を行く3人の後をつける形で転移してきたらしい。


「……できてるんだから可能なんだろうけど、無断でパーティに入るとか有り?」

『普通はねェよ。まァその分使えば正体は割れるがなァ。ダンジョン“昏き深淵への道”の配下、【宵闇の同行者】ヌーララスで間違いねェだろ』

『ダンジョンの概要としては、全く見通しのきかない闇の中の迷路で、ダンジョンマスターと同じ暗殺者クラスのモンスターや配下が不意打ちを仕掛けてくるというものデス。『無明の』という枕を冠するスキルかアビリティの所持が無いと厳しい場所デスね』

『気配察知系のスキルかアビリティが上級まで育っとらんと、まず何が起こったか分からん内に首を刈られるのう。途中までは松明に火もつくのじゃが、奥の方は光魔法のランプですら闇に塗り込められると聞いておる』

『出てくる奴が配下もモンスターも即死属性と隠密を軒並み持ってんだもんなあそこ。その分罠は無いって聞いてるけど、今じゃ『無明の』のスキル育てたい求道者が通うだけになってる筈だ』

『だってめんどくせーんだもんあそこ。あんさつぎるどぬけるときに、うめあわせのやつつかまえにいったっきりだけど、てきとうにつかまえてたらいきなりやみのなかからかんゆうとかしてくるんだぞ』


 ソールが見破り、ショウヨウ、クウゲン、クラウド、ラートの順にダンジョンの詳細を教えてくれる。ふむふむ、それはまた中々意地の悪いダンジョンだな。

 ただ、真っ暗より微妙に明かりがある方が見えずらいんだけどなー。見えているようで見えないのが一番じゃないか。

 …………って、さらっと流しちゃったけど、ちょっと待て?


『……今、何だか聞き捨てならない程度には弄りがいのある情報が無かったかしら……?』

『あッたなァ。ラートてめェ、暗殺ギルド所属だッたのかよォ?』

『なんだよ。もんくあるのか。いまはきっぱりあしあらってるんだからな』

『通りで気配が希薄過ぎる筈じゃと納得したわい。しかし、それで行くとおぬしが居るのがバレるのはまずいじゃろうな』

「だね。ラート、ちょい後ろ引っ込んでて。んで、アレを仕留めたい人?」


 やはり聞き間違いでは無く、イメージ的にも間違いなさそうだ。クウゲンの言葉に同意を返し、ラートの居場所を示す点がダンジョン管理画面の中で奥へと向かうのを確認しつつアンケートを取ってみる。


『相性で行きマスと……クラウドさんでは?』

『……そうね……速さには速さ、隠密には隠密だもの……』

『りょっかーい。主、誘導の方よろしくー』

「分かった。この階層抜けれたらの話だけど、出来るだけいたぶってやってねクラウド。関わるのも嫌だと思うぐらいに」

『うわー主が微妙にイラついてる。まぁ俺も嫌いだけどあの粘着野郎は』

『たのむぞくらうど。まんがいちにもいるのがばれたらまちでれなくなる』

『あァ……陰に潜んで攫うぐらいの事はやりそォだなァ』


 基本的に手段を選ばない相手のようだ、という事を確認しつつクラウドにゴーサインを出した。そしてまたごっそりと罠を作り、管理画面をさっさといじって回避型の人が通りそうな進路、その先にある転移魔法陣をクラウドの担当階層に確定で繋がるようにした。

 と、そんな事をやっている間に進む進む。速い速い。

 でも。


「……いつか見たソール対クラウドの時よりかずっと遅いか。まぁ移動するだけだからトップスピードではないにしろ」

『いや、けっこうすぴーどだしてるとおもうぞあいつ。つぎのはいかっぽいやつもきたし、せんちゃくのあどばんてーじをさいだいげんにゆうこうかつようしたいんだろ』

『あれならラートどころか下手すりゃ愚息より遅いかもな。よゆーよゆー。一応他のに備えんのにさくっと仕留めとくよ』

「クラウド、油断大敵。さくっと仕留めるのは賛成としても気は引き締めてね」

『流石主、手加減も驕りも無いと来た。りょうかーい』


 予想通りの進路を行く黒い影を目で追いながらそんな会話をする。その裏で『成程、通りで難易度がおかしい筈デス』『……どれだけ修験者の道に進んどるんじゃ』なんていう会話が聞こえた気もしたが気のせいだろう。

 黒い影が狙い通りの転移魔法陣へ飛び込み、クラウドの状態表示が“戦闘中”に変わったのを確認して視点を戻す。ざっと見ただけで、確かに動きが数段違う数人が混じっているのが分かった。


「その数人がそれぞれ十分すぎる距離を離してるって事は、やっぱりバレると色々マズイのに変わりはないのか……」

『じゃな。むしろあ奴らにとっては仕留められたときが一番危険じゃろう』

『同意デス。何せ冒険者・神官・軍人の群れの中に放り出される訳デスから』

『ま、来てる理由が理由だし、どんなバカでも戦闘だけは回避しよォとするだろォよ。ダンジョン前が血まみれ、なんて事態は少なくとも起こりえねェ』

「で、それぞれ誰を取る?」

『ならば儂は【爆砂の眼球】ワーラルバーグと仕合おうかの』

『……マスター、【黄昏の聖者】スークフックをお招きして……?』

『では相性で言って、【挑み続ける罪人】ウィスリアさんとお話しさせていただきマショウか』

「いや、どれが誰よ」


 名前じゃなくて位置情報で報告してほしい。分からないから。




 とりあえず上記個人で来ていた数人はそれぞれの担当階層へ送り込み、それ以外はもう1つのクッション階層へ送り込んだ。こちらはシンプルに全面継続ダメージ地形の溶岩地帯。たまに足元とかすぐ横にある出っ張りサイズの火山が溶岩を噴き出すから要注意だ。

 ちなみにこの階層には、モンスター自動湧きシンボルを設置してある。何だっけ、溶岩と同化して動くゴーレムタイプの腕の奴と上半身の奴と、岩と見分けつかないけど自爆技持ってるのが黒と白の二種類。

 ちなみにダメージ回避の策として浮き上がる程度なら問題は無いが、鳥タイプの超高コストモンスターが高高度を巡回しているから、空を飛ぶのはお勧めしない。途中で局地的にすごい風が吹く場所があって、浮いていると上空まで吹き飛ばされるけど。


『あるじ……あいかわらずなんてきちくな……』

「最短ルートで行けば軽い火傷で済むよ?」

『全面溶岩で軽い火傷だァ? ……いや待て嫁? まさかとは思うから一応聞くがァ、最短ルートッてのはどこの事だァ?』

「転移魔法陣で階層移動したのに、背後に扉がある不思議」

『……ふっくく、あ、あはは、あっはははははは、ははっ! お、おなかが痛いわ!!』


 早くも侵入者を下したらしいレポリスがその説明で大爆笑していた。いやまぁ、私も画面見ながらにやにやはしていたが。


「ちなみにこの階層はレアモンスターあり。鳥モンスターの餌として召喚してるけど」

『緋衣イタチかァ……まァ、普通は血眼になッて探すわなァ』

『それをたべるねいざーあくいらはもっとれあもんすたーだけどな』

『レアじゃが、それ以上に危険じゃからのう……』

「環境がばっちりだったのか、驚く勢いで増えてるんだよね、2種類とも」

『あの悪名高き絶望鳥がわらわら空を舞っているのデスか……』

『まさしく獄の名がふさわしい階層だね主!』


 その後、次々と皆が復帰。ざっとお知らせ画面の▽を押してみれば、なるほど確かに落としている。うんうん、なんとか今の所順調だね。

 そんな事を言いながら画面を眺める。一応フル装備に一瞬で換装できるように小細工とか考えてたんだけど、これは無駄になりそうか。良かった良かった。

 って。


「うわぁ」

『あるじ、どーした?』

「4-7参照。いるんだ、軍にも。奴隷使う奴」

『ん? うわー、人数を頼んでとんでもない数連れてきてるな』

『これは……まぁ主の事じゃから1人残らずすくいあげるじゃろうが、何とも言えんのう』

『蘇生アイテムの方は十二分に余裕があるとはいえ、ここまであからさまとは……って、おや。セイントブラッドじゃないデスか』


 大量に過ぎる侵入人数を見て思わず突っ込むと、あちこちから声が上がる。その最後、ショウヨウの言葉に、鎧に刻まれた国旗を確認してみれば……なるほど確かに見覚えのあるデザインに色に紋章だった。


『いよいよ訳が分かンねェな。聖国の肩書をかなぐり捨ててまで手段を選ばねェとは相当だぜェ?』

「…………よっぽど私が気に食わないみたいだね、あの国は」

『いやこれ、気に食わないってレベルの話じゃないだろ……国主の気が触れたとしか思えないんだが』

『これ、わりとまじめにしらべたほうがいいかもしれないぞ。ほんとにこころあたりないんだな、あるじ?』

「無いよ。そもそも侵攻された時点で初めてセイントブラッドって国があるっていう事を知ったぐらいなのに、どうやって恨みを買えっての」

『それはそれでどうなんじゃという返答の気もするが……まぁよいじゃろ。今の問題はセイントブラッドじゃ』

『……そうね。……実はマスター、セイントブラッド王家の隠し子だったりしないの?』

「有り得ないと言っておく。……あぁいや、でも相手にそう思うだけの心当たりがあったら一緒か」


 継承権争いとか隠し子とか王家の闇部分とか、なんて面倒な。


『はんぶんわかってたけど、めんどうですませていいもんだいじゃないからな、あるじ』

『そうなると、主の特徴……黒髪黒目か? 確かにそれなりには珍しい色だけど、あの国のしかも王族にはあり得ない色だろ。多少野良の血が混じったとしても出る訳がない』

『お主のその言い方も大概じゃぞクラウド。しかし、色が出る訳ないには同意じゃな。加護によって色が変わる部分もあるとはいえ、黒だけはありえん』

「ちなみに理由の方は?」

『黒ッてェのは夜神始め、今は見ねェ神々が持つ色なンだよ。セイントブラッド王家は篤い加護を受けるだろォ? つまり、居ない神の色は混じらないッて事だなァ』

『……さらに言うなら、そうね……。……暗い色を象徴とする神々の加護を、少なくとも現王家は誰一人として受けていないの。……暗い色同士の加護が重なって黒に見える事もあるけれど、それも無い、という事よ』


 冒険者の皆さんの中にはちょくちょく黒髪を見かけていたから、珍しいには違いないとしても異様な色ではない、と思ってたんだけど……なるほど、神様が絡んでくる事情で黒っていうのは珍しいのか。

 あ、そういえば神官さんで黒髪って見た事ないな。黒目もしかり。そういう事だったのか。


「とすると……もし万が一仮に、突然変異か何かで真っ黒いお姫様なり王子様が生まれてしまった場合――しかもその“忌み子”が、何らかの干渉で外に出ちゃったら、こういう事になる……?」

『まァ、有り得るとしたらそォいう事になるだろォが……』

『……主にしては、嫌に強引な理屈ね……?』


 強引。まぁ確かに、何の根拠もない上に万が一億が一の話だ。こじつけと言ってもいい。

 が。


「…………そっちの線だと心当りあったりするんだなぁこれが……」

『うーわー……マジで主。マジか、マジだなその嫌そうな口調』

『厄介事というレベルで済まんぞい……』

「あるんだからしょうがないと誰か言って。特にショウヨウ。絶対心当りあるでしょ今の今まで沈黙してるんだから」

『ばれていマシタか……』


 あまりにも大量なため、ただそこに居るだけであっという間に落ちていくセイントブラッド軍及び奴隷の人たちを眺めつつ、声を放る。返ってくるのが降参したような声だったので当たりのようだ。


『いえ実は……マスターが課せられていた契約なのデスが、その契約先が……まぁ、セイントブラッド王家に連なる者になっておりマシテ。その後一応調べてみたところ、どうも、主が縛られていた相手は存在しない、という結果になり……』

「ちなみに私の心当りは、何だっけ、契約の一部ぶっ壊した時か。悲鳴とも文句ともつかない声が聞こえたんだけどー。その声の先に、髪も目もドレスまで真っ黒なお姫様が見えた気がしたんだよね」


 あくまでも、見えた気がした程度の根拠だけども。心象世界、つまりある意味の現実だというならば……そんなに荒唐無稽な話でもないんじゃないかな。


「神の加護で色が変わる事ってあるんだよね? という事は、黒い色を持ってる神様が、ピンポイントで余計な事してくれちゃったら髪も目も染まるっていうのもありなんじゃないの?」

『まーじゅーにぶんにありうるな。というか、かごうけてぜんしんすっかりいろかわったやつおれしってるし』

『ただ問題は、何故そこまで強力な干渉をしたのかという事デス。マスターが関係ないのは有り得ないとしても、これほどの干渉、下手をすれば最高神様からのお叱りレベルデスよ』

「え、お叱りで済むんだ!?」

『いやいや主、お叱りのレベルが違う。言葉こそ可愛くお叱りだけど、その実態は数百年単位の謹慎の一部権利&権威剥奪だから』


 思わず突っ込めばクラウドから本当の事を教えられてクールダウン。うん、だよね。めっ、で済んでいたら逆に大変だ。

 しかしそれにしても、過干渉、か。

 思いつく理由なんて一つしかない。一つしかない、が……。


「………………」


 わいわいと侵入者そっちのけで議論するみんなの声を聞き流しつつ、新たな階層に来る一部の冒険者達&他ダンジョンの配下達の様子を眺め、考える。

 多分、信じてはくれるだろう。話すのはストレートの方がいいと思う。問題は、私の方の覚悟が足りない、という事。

 通信をミュートにして、ぽつり、誰にも伝わらない様、小さく小さく零す。


「……だから余計に、配下は作りたくなかったんだよ」


 世界が全て敵であるままであれば、帰る事に躊躇いなど持たなくてよかったのに。……別れが辛くなる。


























死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:4

マスターレベル:3

挑戦者:――――――(カウント中)

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