第20話 再襲来×本気=激闘

『冒険者たちは侵入を諦めました

 ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の学者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 【エグゼスタティオ】に大掲示板が設置されました

 ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 【エグゼスタティオ】に『万雑貨と薬に道具』の支店が建設されました

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに1人の吟遊詩人が侵入しました

 ダンジョンに1人の研究者が侵入しました

 ダンジョンに1人の従属希望者がやってきました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 空間神の神殿の基礎が完成しました

 【エグゼスタティオ】に『届けるにはココ!』の支店が建設されました』




「だから、何だ、従属希望者って…………!」


 思い切り拳を握りしめ、心の底から声を絞り出す。前の灰兎さんといい今回の空亀さんといい、一体、何なんだ……。

 しかも恐らくっていうか絶対自分で自分の身を十二分に立てられる人だよ! 自活できてるなら自活を続けようよ! なんでわざわざ不便な方に来るの!!

 ちなみに従属希望者、というのは、ダンジョンマスター生活半年突破の時に解放された、契約能力によるものだ。説明をざっと見たが、まぁはっきりいって、どこの奴隷契約要項だよ、という突っ込みをせざるを得なかった。


 ・マスターに危害を加える事は出来ない

 ・マスターの命令には従わなければならない

 ・ダンジョンに不利益をもたらす行動は出来ない


 というのはまぁしょうがなくも当然としたって


 ・マスターから許可された言葉以外は発言できない

 ・マスターから許可された物でなければ所持できない


 とか、どう見てもやりすぎだ。不利益をもたらす行動は出来ない時点で、侵入者の手引きとかできない訳だし。万が一通信できるダンジョンだったとしても何を喋る事もできないだろう。

 というか、ダンジョンマスター生活半年でやっと解放された能力なのだから、灰兎さんの方は考えるまでも無くフライングである。


「……なんだか、ここにも認識の違いがあるような気がするなー。もしかしたら、ある程度地位を築いちゃった人が、鍛える側として手ごろなダンジョン探してるのかもしれないし」


 それなら道場でも開いてくれという話だが、今の所私自身が【ダンジョンマスター】という職業にメリットを感じていないのだからしょうがない。いずれ調べないといけない、と心のメモ帳に要注意事項を書き加え、ダンジョンの罠を設置しなおし、景品づくりに戻った。

 ダンジョン内限定で【武器職人】があるので、作っているのは武器関係。と言ってもそこまで大仰なものが作れる訳では無く、今のところ剣ばかりだ。

 何を参考にしているかと言えば、それはもちろん冒険者の人たちが落として行った装備類である。後は、監視映像の録画を一時停止したりとか。


「全く同じだと色々まずい気がするから、流石に細部には手を加えておこう。【細工師】とか【装飾職人】とかあったらもう少し様になったりするんだろうけども」


 相変わらず鍛冶道具なんて使わず、ぐにぐにと金属の塊をスキルでこねながら独り言。そういえばドワーフのおっちゃんが落として行った携帯鍛冶道具一式があったな……、使い方が分からないから埃を払うだけになってるけど。

 ちなみに、レア度が高すぎる問題は素材をダウングレード変換する事で解決する事にした。ミスリルだの超純魔石だのだから悪いんだ。ただの鋼や魔力を抜いたスカスカ魔石なら問題ない筈だ。


「ただ、ランクを落としても謎マテリアルは怖いから指輪ぐらいにしておこう……」


 謎マテリアルは、『多種合成』で出来上がる金属+魔石の合金……合金? だ。あれは、うん、武器として世に出したら大変な気がする。なので、鉄のチェーンに通した鋼の指輪に、一粒つけるだけ、ぐらいで混ぜる予定。


「うっかり解析されて弱点なんかがあったら、一気に触媒破壊のリスクが上がるし」


 鋼のシンプルなロングソードを一本仕上げ、ダンジョン管理画面でぽちぽちと景品に設定。左手に持っていたロングソードは光を放ちガチャポンのあの球体になると、ふっ、と残光を残して消えた。

 横に積み上げておいたインゴットの山からまた鋼の塊を1つとり、同じくぐにぐにと整形していく。出来上がったククリ刀は、同じく景品に設定。確かに金属オンリーで作った筈の武器に、握り皮が巻いてあったり鞘と剣帯までがついていたりするのは【武器職人】の恩恵だろう。

 そんな訳で黙々と景品を作っていると、


 ビィー―――――――!!


 という音が鳴り響いた。『冒険者予報』では常連さん達と金鬼さんの襲来は告げられていなかったため、特に警戒する事なく『お知らせ画面』に目を向ける。


『ダンジョンに1人の△@★◇*が●&+∥ました』

「は?」


 その画面は、何故だか今に限って激しい文字化けを起こしていて全く読み取れない。しかし唯一読み取れた情報である人数、1人、というその数に嫌な予感がして、ダンジョン管理画面を開いてから監視画面を開いてみる。

 瞬間、思わず、顔が引きつった。


「……ちょっと待て、なんで予告なしで踏み込んでこれた……!?」


 そこに居たのは、冒険者最強、全身をマントで包む、悪夢の再来を約束する人物だった。




「……さて、相も変わらず気持ちいいくらいの殺意なわけだがァ」


 その後、ドバタタタ、とインゴットの山を片付け呪印綿毛たちに避難指示を出し、全身真っ黒に着替えて護剣とワンドをそれぞれ持って、特殊仕様の部屋に引っ込むまでを超速で終わらせた。

 ぜいぜいと息を荒げながら眺めた画面では、いまだぼーっとしていたらしい金鬼が発言したところ。地味にぼやくような、あーあ、と疲れの滲むようなものであるのは気のせいか。


「あいにく仕事なんでなァ、今日はそンな楽しんでる暇ねェんだわ。ついでに言っとくと、お前の顔確認すンのが仕事だから、そこまで引かねェぞ?」


 えー……?

 引かないの? マジで? ……本気そうですねハイ。つまりはあれか、罠の情報をせめて与えまいと思うなら、そっちから出てこいとそういう事か。

 ……うん、抵抗しても無駄だろうなー。出ていくしかないかー……。


「ンじゃ、首を落として確認しなくていィよォに、とりあえず顔だけは晒しとけやァ」


 さり気に怖いこと言うなこの化け物様は! あ、つかこっちに来てもらえばいいんだ。せっかく部屋だけは作ったんだから。

 またポイントが減るがこの人相手にはしょうがないと割り切る事にして、今いる部屋直通の移動陣を『精霊神の別邸』があるフロアの真ん中に設置。ついでに最初の通路の変身を一段階目に戻して、新しい罠も大体回収した。

 そして『結界術』を発動し、護剣の方を基準に待機状態へ。本気の多重結界を念のため保険込みで仕掛けておいて、杖の方も魔法を待機させていく。

 監視画面に目をやれば、予想を裏切らない動きでノンストップ進行。あとは移動陣を信じるかどうかだが……まぁ、まず間違いなく見破ってくるだろう。何せ要求したのはあっちなのだ。


「性別が完全にバレるけど……まぁ、噂で広がってしまってるんだ、今更と言えば今更と言えなくもないか」


 順調に縦廊下を進んでいく金鬼を見ながら独り言。マフラーと帽子は一応つけているが、これはどちらかと言うと不意打ち狙いである。できれば外した瞬間、チケットの入っているアイテムボックスに放り込めればいいのだが、いまだに使い方がよく分からない。

 とりあえず、そう念じるだけ念じながら外す事にしよう、と決めた時、金鬼が縦廊下をクリアした。当然ながら移動陣は視界に入る。さてどうするのか、と大して期待もせずに眺めていると――まぁ予想通り、何の躊躇いも無く踏み込んだ。

 ここから先、監視画面の意味は無い。その上ダンジョン管理画面で操作しているような暇も無いだろう。なので、ペンダントから起動していた2つの画面を両方閉じる。

 両手に護剣と杖を持ったまま自然にたらし、目の前で広がり、収縮する光の方をただ見つめる。やがてそれが収まると、そこには、


「やァっと直接会えたなァ、ダンジョンマスター?」


 全身をマントで包んだ男が立っていた。フードの下からのぞく目は獰猛な金、直接相対してみると、やはり相当背が高い。あの大きな剣は見えないが、恐らく左腰に差しているのだろう。


「ッて、顔晒しとけっつったよなァ。首とって確認しなきゃいけねェんだから、命は大事にしろよォ」

「……どの口が」


 できるだけぼそっと呟いて、杖を持ったまま、右手でマフラーと帽子のつばを掴む。それを何かの予備動作ととったらしい金鬼は、左足を軽く下げてやや前傾姿勢に。警戒の体勢だろう。

 わざと一拍溜めて――金鬼の警戒が爆発する前に、マフラーと帽子を、自ら勢いよく剥ぎ取った。伸ばしっぱなしになっていた長い髪が引っかかってばさりと音を立てる。

 まさか本気で顔を晒すとは思っていなかったのか、金鬼の目が見開かれた。


「な――!?」

「全術式起動!!」


 その隙を逃さず短く叫ぶ。左手の護剣を体の前に、帽子とマフラーの感触の無くなった右手を後ろに構え、重ねに重ねた結界が周囲を取り巻いて、足が地面からふわりと浮いた。右手からはバチバチと紫電の散る音が聞こえている。


「なンっつか、ホント容赦ねェなお前!」


 構えただけでこっちの魔法のヤバさを察したのか、金鬼は素早く大振りな剣を引き抜いて飛び退っていた。同時に叫ぶ言葉にはこう返しておく。


「はっ! 卑怯陰険は敗者の戯言、鬼畜冷血は褒め言葉な私に今さら何を言っているのかな!?」

「そういう次元ですらねェのか!!」

「でなければあっさり殺されるから――だよ!!」

【スキル『水属性適正』水弾×25】


 語尾に合わせて右手を大きく振り、金鬼の周囲に水の弾丸をばらまく。当然ながら何重にも雷エンチャントがかけてあるから、うかつに剣で弾けば感電する仕様だ。金鬼相手という事で本物の雷レベルまで電圧と電流をあげている。

 まぁ当然ながら直線の魔法なんて当たる訳がない。金鬼は軌跡を見定めて回避しつつ突っ込んで来ようと姿勢を一段と落とし、


【スキル『水属性適正』水弾×25】

「ッっ!!?」


 そこで再度放たれた水弾に動きを変更。私の左に回りこむように足を踏み出した。

 だが――その動きは予想済みだ!


【スキル『結界術』反発結界】

【スキル『結界術』重ね掛け 対象:反発結界】

【スキル『結界術』重ね掛け 対象:反発結界】


「ッち!」


 足元の違和感をすんでの所で感じ取ったのか、踏み込んだ勢いをギリギリ殺して飛び退った金鬼。あのまま踏み込んでいたら、その勢いの3乗で足が跳ね上げられていた筈だ。そうなっていたら当然、


【スキル『水属性適正』水弾×25】


 間髪を入れず発動したこのスキルも当たっていた。ざざざざざっ! となんとか最初の位置に戻り、ふー、と息をつく金鬼。

 こちらも再度連射の準備に小声で連続詠唱。杖を囲うように円環が浮いては吸い込まれていくのを目では確認せず、護剣のナックルガードで半ば顔を隠すようにしながら金鬼の様子を見る。


「あー、やっぱいィわお前。本気出すなんて何年ぶりだろォなァ」


 くっくっ、と愉快そうな声で紡がれるのは純粋な闘争心。あれで手加減してたんですかそうですか。確かにあのマントその実動きにくそうだなとは思ってたけどね!

 更に念には念を入れ、こちらも様子見の為にOFFにしていたこの部屋の機能を起動させる。元々明るい白の壁が一瞬だけ淡い光を放つが、気付いたところで何をできる訳でもない。


「そォいやァ、一応世間話の方を先にしとこォか」


 バチン、と大きな音に続きジャラリという金属のこすれる音をさせながら、上機嫌な声で金鬼が言う。筋力トレーニング用の鎖帷子でも着てたのか? と思いつつも軽く返答した。


「世間話?」

「まァなァ。このダンジョン、1年が経ったら国が何が何でも潰そうとしてくンぞォ」

「軍でも動かすっての」

「じゃァねェかって噂話の類だが。まァ信じる信じないはお前の自由――」

「信じるなら、対超大人数フロアを作っとけとか、兄貴さん達に忠告してきてくれとでも言われた?」


 マントの襟元に手をかけた金鬼の動きが、割り込みの一言でぴたりと止まる。護剣の陰に隠して笑みを形作り、せいぜい淡々と聞こえるように言い放った。


「安心して頂戴って言っといて。あと数週間で入口の場所が切り替わるから、お楽しみに、とも」

「――つまり、もうほぼ出来上がッてるって事かァ、いやいや、やるじゃねェの。いィわ、お前。最ッ高」


 そんな極悪な悪知恵部分を絶賛されても欠片も嬉しくないから。しかし、万に1つのつもりで作った物が、予想通り使われるのは……何というか、複雑な気分だな……。


「用事はまァ、後は個人的なのが1つあるだけだから――仕切り直しといこォか、ダンジョンマスター」


 ふーむ、という感じで、かけた手をそのままに考えたらしい金鬼。その纏う空気が変わったのを感じて、こちらも杖に待機させた魔法の起動に入る。

 金鬼は右手一本で大きな剣をだらりとたらし、左手をマントの襟元にやっている。さてどうするのか、と見ている前で、


 バサリ、と先ほどまさに私が金鬼の意表を突いた時のように、マントを自ら脱ぎ捨てた。


 その髪は思ったより長く、腰ぐらいまではあるだろうか。首のところで一つにまとめてこそいるもののあっちこっちが跳ねているが、顔に浮かんでいる好戦的な笑みと合わせてライオンの鬣のようにしっくりきている。

 その顔はというと十二分に美形。見た目年齢は私と変わらない。長身と相まってさぞかしモテるに違いないだろう。邪悪極まる戦闘狂バトルジャンキーな笑みを浮かべていても絵になるのがなによりの証拠だ。

 人間じゃねぇ! と散々思いはしたものの、その背中にある大きな翼と腰辺りから伸びた鱗に覆われたうねる尻尾を見て、正真正銘人間ではなかったと判明。

 ただし。


 髪も、翼と尻尾を覆う鱗も、そして、完全に爬虫類の物へと変じた眼も――その全てが光り輝くような黄金だとは思わなかったが。


 真っ白い壁だからか余計に後光が差していそうなその姿に、思い出したのは太陽。長らくご無沙汰している大きな光を重ねて幻視している中で、バスターソードを両手で正眼に構え、金鬼は言い放った。


「オレはドラゴン種、太陽竜の末裔。その中で現在、最も先祖の血の濃い者。お相手願おうか、ダンジョンマスター」


 ここまで正当な名乗りをあげられては乗らない訳には行かないだろう。まともな喋り方もできるんじゃん、という突っ込みはそっと心の中にしまって、私は逆に笑みを消し、姿勢と展開中の術はそのまま、心持ち上から言葉を返した。


「死の修行所・獄 ※心折れ注意――通称心折ダンジョン、ダンジョンマスター。平穏な生活の為に、お帰り願う」




 ……あの野郎、こっちの口上の最後のところで吹き出しやがった。そっちに合わせてやったのになんて奴だ……。
















死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:2

マスターレベル:1

挑戦者:2739人

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