話し合いです
応接室には、私とリリス、ジュドーさん、アリス王女と騎士団長のエリックの五人が集まった。
アリス王女は一人だけで大丈夫だと言っていたけど、それでも王族が一人というのは心配だということで、エリックが付いてきたんだ。
彼も麻薬のことでアリス王女の手伝いをしていたらしく、別に話し合いに加わっても大丈夫だろうと判断した私は、このことを他言無用にすることを誓わせ、同行を許した。
エリックは騎士だ。
誓いを破るなんてことはしないだろう。
彼は大柄だけど、顔は爽やかな男性だった。どちらかと言うと美顏なアリス王女と並ぶと、随分と映える。二人は昔からの馴染みらしく、お似合いのペアだ。
でも、私を担いだことは忘れないからね。
冒険者ギルドのギルドマスター、ヴァーナガンドさんは、冒険者達の騒ぎを収めてくれている。
場の収まりがついたらこっちに来てくれるかと誘ったんだけど、「難しい話は俺に似合わねぇ」とか言って断られた。なんかカッコいい風に言っているけど、それはつまり馬鹿ってことだよね?
とは言わなかった、流石の私でも空気くらいは読む。
「──さて、それじゃあ話し合いを始めようか」
私は全員が席に着いたのを見て、話し合いを開始した。
「まずは私が今知っている情報を話すよ。それで、足りないところがあれば補足してほしい」
このことで一番何も知らないのは、間違いなく私とリリスだ。
まずは私の知っている知識から話して、そこから足りない部分を補ってもらおうとした。
「私が薬について聞いたのは、リリスと医者のシュメルからだ。周辺の町や都市で、謎の薬が出回っている。それは一時的に様々な効果が得られるけど、その副作用が危険。その薬のせいで、うちの売り上げが下がっている。これくらいの基本的な部分かな」
「これだけ知っていれば、十分かと思います。……何せこちらもそれくらいしかわかっていませんので」
「え、そうなの?」
「ええ、お恥ずかしながら。まだ噂が立ったばかりで、十分な情報を掴み切れていないのです」
「私の方も、そんな感じだ」
「……なるほどねぇ。目の前の不十分な情報に惑わされて、結果私を罪人扱いする訳だ」
「うぐっ……申し訳ない」
アリス王女が申し訳なさそうに体を縮こませた。そのことでエリックが何か言いたそうに見てくるけど、私はそれを無視した。
まだしばらくはこの件でイジる予定だ。協力を得られるまで、許すつもりはないよ。
でもそうか。思ったよりも情報は掴めていないのか。
王国の騎士団が大々的に動き始めているんだもん。そりゃ相手もそれなりに警戒して麻薬を広めていることだろう。
「犯人は情報を隠すのが上手く、交渉の場には絶対に姿を見せません」
「ならば交渉人を捕まえて情報を吐かせようとしたが、そいつも元凶のことを知らないと言っていた」
「アリス王女も同じような状況らしいですね。一体、何人を囲っているのでしょう?」
「わからない……が、凄まじい人数が絡んでいるのは確かだ。エリック、今の時点で何人捕縛した?」
「現在14名です」
「そんなに居たか……ジュドー殿の方はどうだ?」
「……私の方では、8名ですね」
合わせて22名。
思ったよりも多いな。
「そんなに被害者が出ているとはね」
「困ったものです。それに加えて問題が──」
「全員が薬物中毒になっている。でしょう?」
「……よくわかりましたね」
「大方交渉して売り捌いているのは、同じように薬を買っている人だ。『薬を安く売ってやるから、その代わり他に紹介してくれ』みたいなことを言っているんだろうよ」
薬物を取り入れている人は、薬を取り込まなければ落ち着かない。
しかも、それは服用すればするだけ大量に欲しくなる。
でも、金が無限にある訳ではないので、他のことを犠牲にしようとするのが薬中の怖さだ。
そこで「薬を安く販売してあげるから少し手伝って」と言われたら、誰でも食いつくだろう。
「連絡は……十中八九、手紙だろうね。そこまで警戒が強い人なら、連絡手段も限定されるはずだよ。捕縛した人の特徴や、共通点はある?」
「…………全てではないが、冒険者が多かった」
「冒険者か。思った通りだ。ちなみにどんな状況で捕縛した?」
「怪しいと思う冒険者に張り付き、街中での取り引き現場を抑えている」
「ああ、なるほど。それじゃいつまで経っても証拠を掴めない訳だ」
「どういう意味だ?」
これは私の考えの範疇でしかない。
でも、過去に別の世界でも同じような事件があった時、そのような取り引き方法があったのを私は知っていた。
「本当の取り引きは、街の外で行われている可能性が高い。洞窟、廃れた村、深い森とか……色々な隠れ場所はあるからね。魔物とか危険のある場所は、普通調査しようと思わない。そういう人達にとって、そこが一番の隠れ場所だろうね」
「……随分と、詳しいのだな」
「可能性を言っただけだよ。当たっているとは思っていない。でも、そこを調査していなかったのは、その表情を見てよくわかったよ」
アリス王女が悔しそうに顔を歪める。
「こんな簡単なことに気付けなかった私が、情けない……」
「仕方ないよ。それだけに集中しちゃうと、視野が狭くなる。それはジュドーさんも同じようだったようだし」
「ええ、お恥ずかしい限りです。ですが、ティアさんのおかげで助かりました。早速、その線も当たってみましょう」
そう言って、ジュドーさんはすぐに職員と連絡を取り始めた。
アリス王女も項垂れている暇はないと我に返ったのか、エリックさんと何かコソコソと話をして、何かを思い出したように私を見た。
「そういえば、ティア殿は薬を知っていると言っていたな。それはどういう意味だ?」
「どうもこうも……ああ、少し情報に語弊があるかもしれない。アリス王女様、例の薬は持っていないかな?」
「すまない。城に押収した物はあるが、持って来ていない」
「それならこちらで押収した物があります。今職員に持って来させるので、お待ちください」
そうしてしばらく待っていると、職員が白い粉が入った瓶を持って来た。
これがみんなを困らせている麻薬の正体なのだろう。
大さじ一杯くらいの少ない量だけど、それでも人の人生を壊しているのは間違いない。
「ジュドーさん、これを貰ってもいい?」
「ええ、これは押収した一部なので、好きにどうぞ」
許しも得たことだし、瓶を手に取る。
蓋を外し──口に含んだ。
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