スローライフが戻って来ました

 悪魔との戦いがあった翌日。


 私は疲れを癒すため、ベッドの上で自堕落生活──もといスローライフを楽しんでいた。


「ティア様! 早く起きてください! もうお昼過ぎていますよ!」


「んーーーー、後五年……」


「規模が大き過ぎます! せめて五分にしてください!」


「じゃあ、五分……」




 ──五分後。




「五分経ちましたよ! 起きてください! お昼ご飯を用意しましたから、早く食べましょう」


「…………んぁーー、テーブルまで、運んでぇ」


 私はのろのろと起き上がり、両手を万歳する。


「んふぅ……! し、仕方ありませんね。今日だけですよ。…………変なところを触っても、不可抗力ですわよね。ウヘヘ……」


「あ、変なところ触ったら解雇するから」


「それだけはお許しをっ!」


 リリスに壊れ物を扱うように担がれ、食卓まで運ばれた私を待っていたのは豪華な昼食だった。


 私これ知ってる。貴族の食卓って言うんだよね。

 どうしてこんな辺鄙な町に、そんな豪華な食事が並んでいるんだろうか。


「……ああ、なるほど」


 私はあることに思い至り、ポンッと手を叩く。


「リリスが幻影を使っているのか。匂いも再現しているとは凄いなぁ」


「ちゃんと一から作りました! いつまで寝ぼけているのですか全く……」


 そんな漫才のようなやり取りをしつつ、私達は昼食を食べる。気分は朝食だけどね。


「ティア様。頼まれていたポーションは、もう出来上がったのですか?」


「まだだよー、半分は出来上がっているんだけどねぇ……やっぱり最初から作るとなると、時間は掛かるものだね」


「またティア様の……創成でしたか? それを使えば良いのでは?」


「それは本当に間に合わなくなった時の最後の手段。たまには自分の手で作らなきゃ、腕が鈍っちゃうでしょ?」


「……あなた様ほどの腕になれば、作り方を忘れていても自然と手は動きそうですわね」


「まぁ、そうかもしれないね。……でも、それで最高品質の物が作れるかと聞かれたら、それは否だよ。創成でも

最高品質の物は作れるけれど、手でやった方が良い場合もある。後はそうだなぁ……気分?」


「最後だけ適当ですわね」


「ま、否定はしないよ」


 最終的に自分のやりたいようにやれば、それで良いと思っている。


 ──これでやらなきゃダメだ。


 ──このやり方は間違っている。


 基礎を覚えるためには必要な言葉なんだろうけれど、全てそのやり方が正しいとは限らない。むしろ、本当にそれだけが正しいと思い続けているならば、その人はそれ以上先へは進めないだろう。


 時には頭を柔軟に。これだけが正しいのだと決めつけずに、自分のやりたいことをやる。


 それは気持ちの面でも同じだ。


 日々続けることは力になる。それは間違いではない。でも、だからって休んでいけないという訳ではない。


 休みたいと思うなら、その日は休めば良い。根気を詰めるために無理をしたいと思うのなら、倒れない程度に頑張れば良い。


 だから私は、今は手作りの気分なので、こうして気ままに作業を進めるんだ。


 これぞスローライフって感じがして──良いね!


「……まぁ、ティア様がそれで良いと仰るならば、私が文句を言う筋合いはありませんわ」


 そうやって話しているうちに、テーブルの上に並んでいた料理達は、綺麗に無くなっていた。


 リリスは本当に料理上手で、いくらでも食べることが出来た。


 今は一緒にリリスと片付けをしている。ご飯を作ってもらったのだから、それくらいは手伝わないと。

 と言っても、私が発明した『洗浄機』の中に食器を入れるだけだけど。


 洗浄機は他の世界で使われていた便利道具だ。それを見よう見まねで作り、実用可能までに持っていった。

 ボタンを押すだけで自動的に中の物を洗浄してくれるという物だ。


 多分、この『ガイア』ではただ一つしかないだろう。


 ジュドーさんがこれを見たらどんな顔をするんだろう?

 ……面白そうだから、後で見せてみよう。


「今日は冒険者ギルドからの依頼も無いようですし、暇です。何か手伝うことはありますか?」


「え、うーん……じゃあさ、私のポーションを売り歩いて宣伝して来てくれるかな?」


「宣伝ですか?」


「ほら、ここって経営を始めて少ししか経っていないじゃん? まだ知名度が完全じゃないんだよね。まだ町のほとんどの人達にも知られていないんだよ。だから、少しでも私の店を知って欲しいんだ。私って人前に出て宣伝するのが苦手だからさ。リリスならそういうの上手そうだなって思ったんだけど、ダメかな?」


「……かしこまりました。どうか私にお任せください。ティア様から頂いた任務。必ず遂行してみせますわ!」


 ドンッ! とリリスは胸を叩いた。


 気合十分って感じだ。

 これなら今日の宣伝は彼女に任せても大丈──


「一先ず、全ての住民を持って来ますわ!」


「いや、そこまでしなくて良いからね!?」

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