悪魔退治です
「攻撃をしても意味がない。……いや、逆に攻撃をしたら全てがバレてしまうから、攻撃出来ないんじゃないの?」
リリスは何度も私に魔弾を向けてきた。
でも、それは全て真横の木に当たっていた。ちゃんと私に向けて撃ったのは、最初の一撃だけ。それ以外は、全て外れていた、別に回避行動を取った訳じゃないのに、リリスは全て外していた。
彼女は魔法型だ。魔法での精密射撃なんて朝飯前だろうに、どうしてこんなにも外すのか不思議だったんだ。
「…………」
「沈黙は肯定と捉えられる。……もう良いよ。こんな嘘の世界は、もう良い」
この世界は現実じゃない。
全て、夢の中だったんだ。
はぁ……相手が幻魔だからって油断していた。
まさか幻魔の作り出す夢に囚われてしまうとは、我ながら情けないと思うよ。
「…………どうして、わかった」
姿はリリスのまま。
だけど彼女の口から出た声は、聞いたことのない男性の声だった。
「どうしても何も……こんなにヒントがあれば普通気づくでしょ」
出口のない森。
感じない痛み。
疲れない体。
最初は混乱して逃げることだけを考えていたけど、よく考えると異常だ。
「早く元に戻してよ」
「そうはいかない。バレた以上……お前をこの世界から逃さない」
「あ、そう……じゃあ、ボコすね」
「は──ぶっ!?」
私は一気に距離を詰め、リリスを形取った悪魔をぶん殴った。
良いところに入ったおかげで、悪魔は盛大に吹き飛んだ。
ガツンと木にぶつかり、同時に私を閉じ込めていた夢が霧散する。
「ティア様!」
私は地面に横になっていた。
どうやら私は、リリスに膝枕されていたらしい。目を覚ました瞬間、彼女の顔が視界いっぱいに映り込んだ。
「やっと目を覚まされたのですね! 大丈夫ですか。お怪我はされていませんか。夢の中でナニをされたのですか!?」
後半になるにつれて、やや興奮気味にリリスの声が大きくなる。ついでに呼吸が荒い。
「何もされていないよ」
「…………そうですか」
おい待て。なんでちょっと残念そうなんだ?
「それで、こいつが件の悪魔ですか?」
リリスの雰囲気が変わった。
まるで、人類最大の敵『G』を見つけた時のような、こいつだけは絶対に殺すという殺気を感じる。
でも、その悪魔からは何の反応も返ってこなかった。
それは当然だ。奴は白目を剥いて気絶しているのだから。
「……ティア様、あっち側で何をしたのです?」
「特別なことは何もしていないんだけどなぁ。元の世界に帰してってお願いしたのに断られたから、ちょっとぶん殴っただけだもん」
「おそらくそれが原因なのでしょうね」
「何で?」
「ティア様は自覚無い系でしたか……」
「何が?」
「まぁ、良いです。──そろそろ、起きなさい下衆が」
立ち上がって悪魔に近づき、その顔面を思い切り蹴り飛ばすリリス。容赦がないね。
「……ぅ、ここ、は……」
「ようやく起きましたか小童。小心者らしい鈍感さですわね」
「おまっ──ぐぅ!」
リリスは悪魔の前髪を掴み、力任せに持ち上げた。
「雑魚の分際で、私のご主人様に手を出しましたか? この
──ん?
「良いですか? よく聞きなさい。私のご主人様に手を出して良いのは、この私だけです」
「待って? お前もダメだからね?」
「それなのに、ティア様をお前だけの空間に誘拐するなんて羨ま──んんっ! 断じて許せません!」
「おいコラ。今何を言いかけた?」
「屑は生きている価値がありませんわ」
こいつ聞いてねぇな?
「…………ですが、私を出し抜いたその度胸だけは認めてあげましょう。その褒美に、一瞬で魂さえも消滅して差し上げます」
「──それだけは! それだけは許してくれ!」
「いいえ許しません。私のティア様に手出しをした瞬間、あなたの消滅は決まっていたのです」
「い、いやだ。消滅だけはい──っ、────」
悪魔を掴んでいない方の手元に、蒼炎が出来上がる。
それを慈悲なく悪魔の腹に叩き込んだ。
悪魔は悲鳴をあげることなく、一瞬にして炎に包まれて消滅した。
「ふぅ……最後まで醜く五月蝿い愚物でした。──さ、帰りましょうティア様」
「いや、何良い感じで纏めているんだ。雰囲気に騙される私じゃ無いんだよ。お前の私じゃ無いし、手出しも許さないから。というか、やったらまじで解雇するからね」
「そんなっ!? 一生のお願いですわティア様! どうか私にお恵みを!」
「いーやーだー! 絶対に嫌だからね! ほらっ、帰るよ!」
「あぁんっ……! そんな厳しいティア様も素敵ですわぁ!」
「うっさい! あと発情すんなこの
こうして私達の悪魔退治は、何とも締まらないまま終了したのだった。
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