激おこです
錬金術は、もう使われていない?
それは何の冗談だ?
だって私は、あれほど広めろと……なのに────!
「なんで! どうして錬金術を誰も使っていないの!?」
私の怒号がギルド全体に響き渡る。
内部にいた人達が、気になって視線を向けてくる。
でも、そんなことに構っている余裕は、今の私には無かった。
「どうして錬金術が廃れているのさ!」
バンッ! とカウンターを叩き、私は受付のお姉さんに問い詰める。
「どうしてと言われましても……錬金術は古い技術。素材を錬成するのも精密な作業が必要ですし、その程度のことなら調合師でも簡単に出来ます。
新しい物を創り出すことは出来ず、他のクラフタージョブに劣る。だから錬金術は、随分と昔に廃れてしまったらしいですよ。今では、錬金術師というだけで馬鹿にされるくらい──って、ティアさん! 大丈夫ですか!?」
あり得ないと数歩後ろに下がり、力なくその場に座り込む。
受付さんが心配して駆け寄ってくる。
他の冒険者も何か言っている。
でも、それに反応する気力は、私になかった。
「嘘でしょう……? 何で、どうして私の錬金術が……」
きっと、数千年の時が過ぎたガイアでは、錬金術の技が栄えているのだろうと思って疑わなかった。
錬金術師の悲願『賢者の石』はまだ生み出すには至っていないだろう、でも人為的な生命体『ホムンクルス』を作り出す技術くらいにまではなっているのだろう。
そんな予想をしていた。
もしかしたら神に至る技術と、その頭脳を持った錬金術師と出会えるかもしれない。
そんな人と錬金術について議論を交わし合いたい。
でも、まさか廃れているとは予想していなかった。
だって、私がお告げを下したんだよ?
世界を創った創造神にして最初の神──ララティエルが、直接神託を与えてあげたのに、結果がこれなの!?
──原初の民は何しているんだよ!
──何を間違えたら錬金術が廃れるんだ!
──どうして魔族が敵対しているんだよ!
素材を調合するだけ。新しい物を創れない。他のクラフタージョブに劣る?
なんでその程度の技術で止まっているんだ!
「っ、ざけんなーーーーーー!!」
「──きゃあ!?」
私を中心に、怒りの嵐が吹き荒れる。
近くにいた受付さんと冒険者達は、その風にバランスを崩した。
近付こうとしても、風圧と圧力で足がすくんでいるのか、誰も私に近付けない。
「お、落ち着いてください!」
そんな声は、掻き消された。
「──おい、落ち着けって」
今も荒れ狂う怒りの嵐の中、私の方にポンッと手が置かれた。
それで我に返った私は、どうにか怒りを収める。
「──だれ」
それでも興奮は収まりきらず、微かに肩を上下させながら首だけを動かす。
あの嵐の中を悠然と歩いた人物。
その人は、戦士風の格好をした男性だった。
「俺はヴァーナガンドだ。この町の冒険者ギルド、そのギルドマスターをしている」
ギルドマスター。
この厳つい男性が、このギルドを代表する人なんだろう。
「騒ぎを聞きつけて下に来てみれば、これは一体どういうことなんだ?」
「……別に、何でもない」
「何でもないで済む騒ぎじゃないだろう。ほら、見てみろ」
そこは、荒れに荒れていた。
人には影響が無い。でも、床は私のせいでボロボロだった。
「たとえ何があったとしても、これは損害賠償もんだ。ちょっと上に──」
「直せば、それでいい?」
「あ?」
「全部元通りにすれば、損害賠償は払わなくていい?」
「……あ、ああ。そうだな。嬢ちゃんは初顔だからな。元通りに戻せるなら、今回の件は問題にしない」
ギルドマスター、ヴァーナガンドはそう言うけど、疑いの目を私に向けて来た。
──錬金術師にそんなことが出来るのか。
そう言いたげな視線だ。
……馬鹿にしやがって。
いいよ。我が子達がいらないと捨てた錬金術の技。ここで見せてあげるよ。
私は手に魔力を込める。
イメージするのは、傷一つ無いギルドの床。
材質はオークウッド。そこら辺で採れる耐久性のある木材だ。
これを無から創り出す程度──楽勝だ。
私の魔力と引き換えに、木材を生み出す。
これが錬金術の奥義『創成』であり、わかりやすい等価交換だ。
傷付いた床の上に新たな木材を置き、床に魔力を込めて形状を変化させる。
これが錬金術にある技の内の一つ『錬成』。
この錬成が錬金術の基本と言えるくらい、重要な役割を担っている。
「はい、終わり」
パンッと両手を合わせる。
すると、床は元通り……いや、新品のように綺麗な床となっていた。
「何だ、これは……」
一瞬の出来事、ヴァーナガンドは驚いて、新品同様となったギルドの床を触っていた。
「おい嬢ちゃん。何をした?」
「何って、錬金術だよ。壊れた物質を造り変えた」
「錬金術だと……? 信じられねぇ」
「あっそ……でも、約束だよ。私は床を直した。だから、今回のことは水に流す。忘れていないよね?」
「……それは約束する。だが本当に、今のが錬金術なのか?」
彼の驚きも仕方のないことなんだろう。
錬金術は廃れた技術。
そういう認識なのに、一瞬で物を作って修復もした。
……この程度の術も、過去の我が子達は編み出せていなかったのかと、私は呆れた。
こんな基礎も出来ないくせに、錬金術を廃れた技術にしたのか。
「迷惑を掛けたのは謝るよ。次からは気を付ける。じゃあ私は──」
「その技術、詳しく教えていただけませんか?」
私の声を遮り、柔らかな男性の声がギルド内に響き渡った。
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