第55話それぞれ9

 かえではもう私が銀行を辞める気でブログですみれと専業で漫画描くよと言っている。二人の絵物語は課金にしたが思わず人気だ。これは従来の漫画と言うより私の文章を前に出した童話の世界になっている。かえでのパソコンの中にはすみれが書いている小説の挿絵がどんどん挿入されている。

「今夜は退職祝いをおかんの店でしようよ」

 この調子で朝送り出された。それで妙に融資の件は腹が括れた。本店で否決されたらされたら辞表を出して会長に謝りに行こうと決めた。

 午前中に午後の分も頑張って集金を済ませる。3時から1時間半を串カツ屋のために空ける。代理は融資の件から顔を合わせようとしない。一人で謝りに行くしかない。静江とグリルで約束のように1週間に一度昼食を奢る。いつものように私が早く戻ってきて両替の袋を鞄に詰める。

「おい、融資部長からだ」

 次長が呼ぶ。あまり何度も稟議が出るので判を横に押して次長と支店長が本店に稟議を送った。次長が受話器を差し出す。稟議の説明ができないのだ。

「この融資期間1年は守れるだろうな?」

「はい。建物の解体と表示登記が済めばメインバンクが長期融資で」

「決裁だ」

「融資してもいいのですか?」

「そうだ。この件では常務にお礼の電話をしておくんだ」

 常務?教えられた常務の内線に入れる。

「君か?よくできていた。平さんの後輩だそうな?また夜の平さんお店で飲もう」

 夜おかんの店でかえでに伝えると、

「なんだ」

と失望した声を上げた。でも握手を求めてきた。



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