第54話それぞれ8
支店長は融資に二の足を踏んだ。リスクを負いたくないというタイプだ。銀行員に多いタイプだ。そうして定年前にようやく小型店舗の支店長となった。代理も歯切れが悪い。それで私の名前で稟議を上げることになった。それでこの3日間は9時半まで残業している。
今日は次長に稟議の判も押されずに机に戻されてきた。
「断るならもう限界だ。謝って来い」
次長も輪をかけて新しいことを嫌う。書類を鞄に入れて仕方なく集金に回る。さすがに一度串カツ屋の会長を訪ねようとも考えた。昨夜その話をかえでにしたら辞めたら私が食べさせてあげると言われた。これでは情けない紐だ。
「どうした暗い顔をしているぞ」
平さんが入ってきた私の肩を叩いた。平さんは退職してから逆に元気になっている。それで今回の融資の話をした。
「会長が融資の話をしたのは初めてやな。書類を見せてくれるか?」
平さんが書類を見ている横に父が集金から戻ってきて洗い場に入る。かえでは何度かこの店で父と会っている。かえでは父が気に入っているのか店に来てほしいと言っている。
「一度本店の常務に話してやろう」
「常務?」
「同期なんだよ。同じ店で働いたこともある。この店にも時々飲みに来るわ」
その夜また稟議を書き直して次長の机に置いて帰る。
「どう?」
おかんの店に行くと先に来ていたかえでがそう聞く。
「少し意地になってきた」
「今日抱いてあげるよ。そうお昼にお父さんと話をしたよ」
「まさか?」
「下の口の話じゃないよ」
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