第26話再会の時1
久しぶりに大阪に戻ってきた。私は思わずオレンジ色空の駅に降りてふらふらホームの端に歩き出す。長らく私の心の中に眠っていた景色だ。今もあの病院の非常階段が見える。あれから12年が経ったのか。まるであの1年2か月の空白が夢のようだ。
私は高校で浪人をして東京の私立大学に入った。妹は同じ学年で国立大学に入り、これを契機で家族は大阪から東京に引越しした。父は母に説得されて役所を辞め警備会社に転社した。その妹が同じ大学の男と学生結婚して男の故郷に帰ってしまった。私は大阪の地方銀行に希望して就職をしたのだ。
母はまた男の故郷の新潟に行こうとして父と揉めている。私は蚊帳の外で飛び出すように大阪に出てきたのだ。1週間の研修が終わって明日には配属が決まる。
あれから1年ほどかえでの夢を見て、よく魘されていたが時があの日々を遠いものにしていった。非常階段の周辺には桜が咲いている。今7人ほどの子供がいるようだ。もちろん今でもそこにいればかえでは24歳の大人になっている。不思議にかえでは今でもあの頃のままで記憶の中で眠っている。
橙の電車が来て再び鞄を手に乗り込む。まだ配属の支店が決まらないので天王寺のホテルに泊まっている。この鞄の中にはあの頃の画帳も入っている。ホテルに戻ると背広を脱いで夕食に出る。新しいマンションの中を抜けると通天閣に出るとガイドブックに出ている。
この辺りは飛田の花街がある。店の名前の看板が両側に続く。それぞれに入り口に若い女の子が座っている。ここを抜けたところに研修中に何度も来ている店がある。
「配属決まった?」
女将が声をかける。
「いや明日に決まる」
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