第5話橙の電車5

 朝ごはんが済んでもう画帳を持って非常階段にいる。常連の子供達の他に年寄りも出てきている。桜がもう散りかけている。かえでと桜を楽しみにしていたのだが今年はもうお終いだ。せめてクレヨンで見せてやろうと橙の電車と桜を描いている。すると白い指がにゅっと出てきて花びらを貼り付ける。

「やっと解放されたよ」

 かえでが楽しそうに笑っている。

「でも個室に入ると今回は帰れないという恐怖があるわ。家族はいつものことで見舞いも来ないよ」

「何度も部屋に行ったよ」

「姉さんが彼氏が毎日来ていたと言ってたわ」

 私の顔が赤くなったのでかえでが笑ってる。

「でも私を心配してくれる人ができたのね?」

 だが少しやせたようだ。それに肌が透き通るように青白い。

「私が漫画描いていたのを聞いたよね?読んでくれる?」

 ベットの棚にあった画帳だ。

「これね、病院に入った頃から描き始めた。1冊で終わると思っていたけどもう5冊目よ。でも誰にも見せたことがないの」

 二人で話していると周りが声も聞こえない。

「私は話す友達もいないので、この画帳にいろいろ話しかけて来た。この中にいるのはだからもう一人の私なの。この子は私の代わりにどこにでも行けるし彼氏もいる」

 かえでの目が輝いている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る