荒野の決闘☆策謀の源

暗黒星雲

第1話 緊急の招へい

 ここはアルマ帝国の帝都リゲル。


 その中心部にそびえる皇城。いくつもの施設が立ち並ぶ帝国の中枢部である。その一角に石造りで大きな建物があった。アルマ帝国軍総司令部である。


 門の脇には白色の鋼鉄人形が起立している。

 輝くばかりの純白色に黄金のレリーフが施された式典用の機体であり、通常のカラーリングとは異なっている。これは親衛隊用に配置されている特別仕様である。


 その脇を三名の士官が通り過ぎる。


 銅像のようにピクリとも動かないゼクローザスだが、その眼球は三名の動きを確実に追っている。


 そして、玄関前には親衛隊のメンバーが歩哨として配置についていた。


 えんじ色の軍服を着た親衛隊が何故ここにいるのか。

 門の脇で起立していたゼクローザスもそうだ。


 平時であれば親衛隊直下の近衛兵団が務めるべき職務なのだ。


「ララ隊長。やはり何かおとがめがあるのでしょうか?」


 口を開いたのは同じくえんじ色の軍服を身に着けている黒猫の獣人、コウ・エクリプス少尉だった。


「ふん。親衛隊専用のゼクローザスを二機大破させたのだからな。査問会にかけられても当然だ」


 返事をしたのはまだ幼い風貌の女児で金髪を短めのツインテールにしている。彼女もまたえんじ色の軍服を着ている。


「ララ隊長には私の機体を使用していただくべきでした。それならば敗戦の責はすべてそこの野良猫に押し付けられたのに」


 悔しそうに眉をひそめる赤毛のグラマー美女。彼女もまたえんじ色の軍服を身に着けていた。


 そうこの三名は親衛隊のメンバーだった。彼らは先日、異世界の地で手合いを行い撃破された。二対一で敵に挑み完璧な敗戦を喫したのだ。


 ララは敬礼をし、また、衛兵も敬礼を返す。


「ララ・アルマ・バーンスタイン准将である。総司令よりの招へいでここへ来た。取次を頼む」


 玄関前の衛兵はすなわち親衛隊員であり、ララの部下になる。内心、思う所があるだろうに彼は表情を変えなかった。


 玄関の大扉が開く。観音開きの巨大な扉の操作は中から人力で行う。朱色の正装をしている近衛兵がその操作を担当していた。そして中から一人の黒人男性が歩み出る。

 青色の軍服。それは帝都防衛騎士団である証。彼は団長のドレッド・ノーザン大佐だった。


「お待ち申しておりました。ララ隊長。私がご案内いたします」


 踵を返しドレッドが歩き始める。ララ達三名もそれに続いた。

 広いエントランスホールを通り抜け奥の廊下へと進む。そして総司令の待つ執務室へと向かう。


 ドレッドは扉を二度ノックした。


「入れ」


 中から直ぐに返事があった。ララにとってあまり聞きたくない声だった。


「失礼します」


 ドレッドが扉を開きララ達三名を招き入れる。


 そこはアルマ帝国軍総司令、セルデラスの執務室だった。


 ララは何度もここへ来たことがあったが、いつも無駄にだだっ広いと思っていた。立派な執務用のデスクとその傍に秘書用のデスク。そして豪勢な応接セットがあり、またちょっとした会議ができる大きな長方形のテーブルも備えてあった。


 そのテーブルに鎮座しているメンバーを見て、ララは眉をひそめる。

 そこには得体のしれない道化師が一人いたからだ。


 テーブルに着いていた人物は以下の通りである。

 まずは直毛の金髪を総髪にしている碧眼の偉丈夫。アルマ帝国軍総司令のセルデラス・アルマ・ウェーバーだ。彼はララの実兄である。

 その右隣りに座っているのがダグラス・バーンスタイン大将。現在は司令部付きの顧問を務めている。白髪頭を短く刈り上げている老人だがその巨躯は見事で、未だレスラーのような体形を維持している。ララの祖父である。ダグラスの右には、あの得体のしれない道化師が座っている。

 セルデラスの左に座っているのは獅子の獣人。その体は極めて大きく、身長は2.5メートルほどもある。彼の名はレグルス・ブラッド。帝国第一軍、すなわち北方軍の司令官で階級は少将である。現在、帝国最強のドールマスターと呼ばれているのはこの人物である。


 そして黒人のドレッドがララ達に下座の席をすする。この中においては小柄ではあるが、もちろん小さな体ではない。身長は180センチ程あるだろう。


 ララ達三名が下座の席へと就いた。それと同時にダグラスの隣に座っていた道化師が立ち上がり、クルリと一回りしてから深くお辞儀をした。


 そして満面の笑顔で自己紹介を始めた。


「ララ皇女殿下。お会いできて恐悦至極に存じます。私はトッシー・トリニティ。異世界よりご挨拶に参りました」

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