“普通”の錬金術師 現代の普通は異世界では異常《チート》みたいです

桜守成

0、プロローグは穴だらけ?

第1話 

 人の夢と書いて儚いと読む。


 別段、将来なりたい職業や、目指すべき目標がある訳では無かった。

 ・・ただ、このまま時間が過ぎれば、どこかの大学に進学し、卒業後は会社に就職するのだろうな、と俺はぼんやりとは考えていた。


 現代の社会では多くの人がそんな感じの人生を送っているのが“普通”で、才能がある人や確固たる意志を持つ人が“普通”とは、少し違った人生を送ている。


 ああ間違えて欲しくないのは、“普通”の人が才能が無く、意志が弱くて他者に流されやすく、立場が下に見られるとか言いたい訳じゃ無い。

 だってほら、大学に入る為にもそれなりの学力が必要だし、会社に入って働く為にもしっかりとした志望動機とか答えられなければ面接で落ちるだろう。

 

 “普通”に成るのにも結構努力や自身の意志が必要と言う事。

 

 しかも、昨今ではその“普通”になる事さへ難しくなりつつあるのが現状だ。

 だから俺が望む将来の夢は、しいて言うなら“普通”の人生を謳歌する事なのだと思う。


 ――そんな夢も儚く消えた訳だけど。


 

 高校の課外授業で山奥にあるキャンプ場で1泊2日のキャンプをした帰り、バスで移動中に事故が起きた。

 山を降りている途中で地震が起こり、バスが急停止するも側面の山肌が崩れ落ち、落石がバスを崖下へと押し出し、乗員を乗せたままバスは崖下へと落下し大破した。


 バスの中に居た運転手と学生、クラス担任を含めた36名は全員死亡。

 勿論、俺もその中の一人だ。


 つまりは俺、冨井 夏樹ふじい  なつきは、17と言う短い年齢で生涯を終えてしまった。

 

 未練とかは・・・少しはある。

 新作のゲームをやりたかったとか、死ぬ前に美味しい物をお腹いっぱい食べたかったとか、割とどうでも良いレベルの物ばかりだ。

 

 けれど、突発的な事故だった訳で、その事故を回避する事なんて不可能だったし、死んでしまった事に文句を言う相手もいない、駄々をこねれば蘇れるはずも無い。

 もう、しょうがない事なのだと割り切って諦めるしかないのだろう。


 ――なのだけど、どういう訳か俺の意識は消える気配が無い。



 通常、死ぬと言う事は体の身体機能が停止して、意識も無い状態の事を指す言葉だと俺は思っていた。

 

 確かに俺の意識は一度、バスが落ちて地面に激突した瞬間に途切れはした。

 しかし今は、眠ってから目が醒めたみたい意識が覚醒して、しっかりと物事を考えられている。


 もしかして、実は生きていた?とか一瞬考えはしたけど、すぐにその考えは無いと解った。



 真っ白な空間に様々な色が付いた光の玉が浮かぶ不思議な場所に今いる事に気が付いたからだ。しかもだ、よくよく見れば俺の身体もその光の玉になっていて2度びっくりだ。


 ・・・ここは、あれだ。世間一般の人達が死後の世界と呼ぶ場所に違いない。

 自分の身体がいつの間にか光る球――魂だけに成っていて、事故で死んだ記憶も存在している事から俺は、すぐにそんな考えが浮かんだ。


 生きていた時は、その手の話は信じない方ではあった俺だが、こうして自分自身の身に起これば話は別だ。


 多分、この俺の周囲に浮かぶ魂たちも、あの時同じくバスで死んだクラスメイトなんだろうか?

 数はざっと見た感じ、クラスの人数と同じ位の魂が浮かんでいる。

 

 ここが死後の世界なら、もう少しすれば閻魔様に裁かれて地獄か天国にでも振り分けられるのだろうか?

 それとも、輪廻転生があるのなら今の俺の記憶や意識とかは消えて、別の誰かへと産まれ変わるのか?

 そんな感じの事をぼんやりと考え始めていた時だった。


 カラーン、カラーン。と商店街の福引とかでよく聞くハンドベルの音が鳴り響く。


 「大当たり~!お~めでとう!!」


 そんな陽気で男か女か解らない中性的な子供ぽい声が上の方から聞こえた。

 

 俺は驚いて声の主を探そうと上の方を観てみるが、そこには何も存在などしておらず、ただ白い一色が何処までも続いているのみであった。


 「は~い!皆さん混乱している様子ですが、すこ~し、落ち着いてね!」

 

  再び同じ声が上の方から聞こえて来るが、声の主らしいものは存在しない。


 「ああ、ボクを探そうとしている人達。悪いんだけど、その状態の君たちの前にボクが現れると君たちの魂が壊れちゃうから、今回は声のみで失礼するよ!」


 こっわ!何だそれ、怪光線を放つ化物かよ!


 「あ~、なんか失礼な事を考えている人もいるから、ボクの正体から先に説明させて貰うけど、ボクは君たちの所で言う神様さ。し・か・も、今回君たちの転生を担当する事に成った神様だよ!あがめたまえ~!!」


 神? 転生? 担当?

 気になるワードが幾つかあったが、こんな不思議な状況だ。

 今は取りあえず、この神様?の話に集中した方が良いだろう。


「うんうん、ボクが神だと解ってくれたみたいだね!それじゃあ、本題だ!君たちには、これから異世界に転生して貰いま~す!は~い、拍手。パチパチ~!!」 


 はぁ?


「あれ~反応がないな。って、魂だけだと何もできないか!あっはははは」


何が楽しいのか解らないが愉快そうに笑う神様。

そんなテンションが妙に高い神様に圧倒されて俺はうまく話が把握できていなかった。


 「あらら。ごめん、ごめん!話が唐突過ぎたかな?

 おっほん、簡単に説明するとね。君たちはこれから異世界――君たちが今まで生きていた世界とは違う別の世界に転生して貰う事と成りました!

 つまりは最近、アニメや漫画、ラノベでお馴染みの展開になって来ているヤツをやって貰う事に成ったよ!・・え?アニメや漫画を見てないから知らない?

 そっかぁ・・・でも!もう決まった事だから知らなくても諦めてね!」


 おいおい、何だか説明が大雑把すぎるのだが――

 しかも、こちらに拒否権も無いのか。


 「うん!確かに君たちに決める権利なんて物は無いけど、君たちが行く事に決まっている異世界は、正にファンタジーの定番の様な世界だ。

 魔法は普通に存在していて、君たちと同じような普通の人もいれば、エルフとか色んな種類の獣人も居て、とても賑やかだよ!

 それと、レベルやスキルとかもあってゲーム感覚で楽しむことも出来ちゃう面白い世界なんだ!!

 ・・・あっ!あと、それなり特典もあるのだ!」


 ――特典?


 「そうそう、特典!普通に転生って言ったら、記憶を無くして赤ん坊スタートだよね!――でも、今回の君たちは少し違う。

 記憶を持ったまま、赤ん坊では無くこちらで新し身体を作ってそこからスタートして貰います!!」


 え?何で?


 「ふふふ、何故っと思う人もいるよね。ほら、ボクは最初に言ったでしょ大当たりだって。君たちは運が良くてそういう感じの転生になった――って事なのさ!」


 いや、説明に成ってない気がするんだけど。


 「もっとちゃんと説明してくれ?・・・そんなのめんどいからパスで!

 別に細かい事なんかどうでも良いじゃないか!禿げるよ!将来!

 それよりも今は特典の続き、続き!」


 うわぁ。

 なんか隠している風だけど、この神様は絶対に話すつもりなんだろうな。


 「さてさて、どこまで話たっけ?・・・ああ、そうそう新しい身体を用意するって所まで話たね!

 新しい体は、死ぬ前の君たちをベースに作る予定なんだけど――ほら、さっき定番のファンタジー世界って言ったじゃん。

 ちょ~っとばかし、危険がアブナイと言うか・・・魔物とか出ちゃう訳なんだよね~!

 しかも、文化も君たちの所と比べれば、君たちの所で言う中世期ほどで全然進んでいないから治安もあまり良く無いかな~」


 そこも定番通りか。

 俺、特に武道の心得とか運動がずば抜けて得意って訳じゃあないのだが・・・転生した直後、魔物に襲われて死ぬとか、何のために転生したの?って話なのだが。


 「まぁまぁ、君たち少し落ち着いて。ボクもそこはちゃんと救済策を考えているから――と言うよりも、それが特典かな・・・えー、ほい!」


 妙な神様の掛け声?と共にゲームで良く見る四角いウィンドウが目の前に現れる。

 そのウィンドウには、簡素な格好をした俺の姿と『キャラ』『スキル』『アビリティ』『アイテム』『転生先』の五つの項目と最後に決定のボタンが映し出されていた。


 「は~い!もう、ここで解る人もいるだろけど――特典はキャラ設定です!!」

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