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男か女か分からない
小学校卒業間近になって俺のクラスに転校生がやってきた。
「自分、
黒板に書かれている苗字と名前の漢字が一緒なことなど全く気にならないくらいに、俺はその転校生に夢中になっていた。決してそいつに運命を感じたわけではない。ただ、そいつの外見が普通じゃないのだ。
まず身長はおおよそ180cm。坊主頭でオダギリジョースタイルの髭を生やしている。目つきは鋭く、頬に謎の切り傷。マッチョで迷彩柄のタンクトップを着ていて乳首が透けている。
そこで男かと思いきや、下は赤いチェック柄のミニスカート。そこから筋肉質の脚が伸びているが、そこに水分を失った海藻のようなすね毛が生えまくっている。さらに赤いランドセルに青い上履き。声はソプラノ声で、一人称は「自分」。挙句の果てには男でも女でもいそうな名前をしている。
性別不明の生命体に当然教室は大騒ぎとなっていた。だが、誰も転校生に性別を聞こうとはしなかった。聞けなかった。怖かった。
昼休み、不運にも俺が転校生に校舎案内をする羽目になってしまった。廊下を二人並んで歩いている。すれ違う他の生徒たちからは異様なものを見る目でこちらを見てきた。中には泣き出す一年生までいた。
でも、これを機にこいつの性別が分かるかもしれない。まずは趣味でも聞いてみるか。
「君、趣味とかあるの?」
君、と呼んだのは性別が不明な転校生に対して無難な呼び方だと思ったからだ。
「自分、カードゲームが好きなんよね」
男子らしい趣味だった。これはもしかしたら男なのかもしれない。
「いいねカードゲーム。俺も好きだよ。遊戯王?」
「ううん。きらりん★レボリューション、ハッピーライフっていうやつ」
女子だった。ゲーセンで小さい女の子が百円払ってするやつだった。あのファッションとか色々あるやつだ。小六の女子でやってるやつは多分少ない。てかその巨体でやってるのか。隣で遊ぶ女の子はトラウマものだろう。
「加賀くんは何か趣味とかあるん?」
生き物が聞いてきた。
「俺はテレビゲームかな」
「テレビゲーム! 自分もするで!」
「へえ、どんなのするの?」
「ロボット戦記」
男の子だ。ダメだ。全く性別が分からない。もう直接聞いてやろうか。そう思った時だ。
「ごめん加賀くん。ちょっと自分、トイレ行ってくるわな」
「あ、うん。わかった」
思いもよらない好機が訪れた。こいつが男子トイレ、女子トイレ、どっちに入っていくかで性別が明らかになる。まさかこんな簡単に解決するとは。
俺はトイレに向かっていくそいつのたくましい背中をじっと見つめる。現段階でどっちに入っていきそうか分からない。どっちだ、どっちだ。
すると、そいつの体が女子トイレの方へと揺れた。そのまま中に入っていく。
俺は無意識に溜息を吐いていた。
そうか。女だったか。まあスカート履いてるんだし、それはそうだよな。男な訳ないよな。坊主で乳首透けてるけど、それは気にしないことにしよう。
それから二分して、日向さんが可愛いハンカチで手を拭きながら戻ってきた。
「お待たせ加賀くん」
「全然いいよ」
それからまた校舎を案内しながら二人で歩く。
「なぁなぁ、加賀くんって今好きな人おるん?」
いきなりそんなことを聞いてきた。
「なに急に。そんなのいないけど」
「えー嘘や、小学六年生にもなって好きな子おらんっておかしいで」
「そんなことはないでしょ。逆にいるの?」
「んー前の学校には、好きな女の子おったで」
「へーそうなんだ。……ってえ?」
「え?」
聞き間違えかと思った。
「もしかして今、日向さん好きな女の子って言った?」
「え、うん言ったけど。てか日向さん? なんでさん付けなん」
「え、いや、だって、あれ?」
「まあ、ええけどさ」
どうなっているんだこれは。好きな女の子がいた? 日向さんは女子じゃないのか? それにさっき、さん付けされたことにも違和感を感じたみたいだし。
もしかして、と思うことがあった。日向さんはテレビとかでたまに見る同性愛者とかいう類のものでは無いか。そうだ、そうに違いない。そうじゃなかったら、さっき女子トイレに入った事が説明できなくなる。
「あ……」
日向さんが突然立ち止まった。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない……ごめん、またちょっとトイレ行ってくるわな」
「あ、うん」
これは……と思った。多分、これは母さんが言っていた生理というやつなのではないか。この年頃になってくると、それがやってくる女の子もいるらしい。となると、やっぱり日向さんは女の子。
そう確信して、ちょっと気になり、日向さんをちらっと見てみた。
なんで。どうして。
日向さんが男子トイレへ入っていくではないか。
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