恋文の返事は、書かなくていい

恋文の返事は、書かなくていい①


拝啓


 年が暮れるので、手紙を書くことにしました。


 あと数日待てば、年賀状を送ることもできましたが、あえてもう少し形式ばったものにします。


 学校も冬休みに入り、私は退屈しのぎに本ばかり読んでいます。


 いつも私のつまらない話に付き合ってくれる君が、近くにいないせいです。


 時々、不思議に思うことがあります。


 こんな、わがままで、自分勝手で、強引で、いつも君を困らせるばかりの私に、どうして君は付き合ってくれるのでしょう。


 ここしばらくは、君と過ごす時間が多すぎたせいで、ちょっと離れただけで、そんな疑問を抱いてしまいます。


 いつも、素直になれなくて、ごめんなさい。


 これもまた、きっとただの自己満足にしか過ぎないのでしょうが、伝えさせてください。


 きっと、突然の手紙と、普段とは全く違うこの堅苦しい話し言葉に、君は困惑していることでしょう。


 ですが、実をいえば、私も困惑しているのです。


 どうしてか、ここでくだけた言葉遣いをしてしまえば、また結局いつものように気持ちがまっすぐと伝わらないような気がしてならないのです。


 誤解のないようにあらかじめ言っておきますが、これは恋文とか、ラブレターの類ではありません。勘違いしないように。


 これは、感謝と、お別れのお手紙です。


 この手紙が君に届く頃、きっともう年は明けて、束の間の休みも終わりを告げて、また勉学の日々が始まっていることでしょう。


 でも、そこにもう、きっと私の姿はありません。


 だから、年が暮れる前に、手紙を書くことにしたのです。


 この手紙が君に届く前に、私は君を旅行に誘うことにしました。


 さようならと、ありがとう。


 その言葉は、その時に直接伝えるつもりですが、いつもは強がっているけれど本当は弱虫な私は、口にできないかもしれない。


 だから先に、ここに書き残しておきます。


 これはラブレターでも、もちろん恋文でもありませんが、そして君にもう一つだけ、伝えておかなければならないことがあります。



 それは、私は、君のことが好きだったということです。



 これだけはきっと、さよならも、ありがとうも言えても、伝えきれない。


 だから、手紙を書くことにしました。


 返事はいりません。


 ただ、受け取ってくれれば、それでいいのです。


 それでは、またどこかで。



敬具


鵜住居うのすまいより

 

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