第14話

 直後――それを防ぐための盾が出現する。

 攻撃を放った五人の魔術師、それぞれの半歩分ほど目の前に。


 死は一瞬だった。


「……は?」

 唯一、攻撃を仕掛けなかったヒューバートのみが生き残り、唖然とする。

 なにが起こったのか。

 ヒューバートはさっきまで生きていたはずの五つの死体を見て顔を青くしている。

「〈弾き穿て聖盾(ゼア・レブス)〉――再度言おう。一切の謝罪は必要ない。貴様は肉を食らう立場にはないからだ」

 あの一瞬、ガディは防御魔術を行使した。敵魔術師の攻撃する瞬間に合わせ、相手の眼前に攻撃を跳ね返す盾を出現させるというだけの、単純な防御魔術だ。

 結果――灼熱の炎を放った魔術師は上半身を消し炭にし、死亡。

 超圧縮した水を放った魔術師は顔面に穴を開け、死亡。

 召喚した岩石を放った魔術師は右半身を粉砕し、死亡。

 高熱の光線を放った魔術師は左半身を消滅させ、死亡。

 猛毒の瘴気を放った魔術師の下半身は骨だけになり、死亡。

「俺の〈弾き穿て聖盾〉は弾き返した魔術の威力を数倍に高める効果も持つ。苦しむ間はなかったはずだ」

 言いながら、ガディは中庭のほうに歩を進める。

 ただ一人残されたヒューバートは、なおも顔面蒼白。傍らには屈強な姿をした契約精霊が佇んでいるし、〈窓〉も展開されている。だというのに、彼は動けなかった。

 あたりまえだ。

 ガディがこんな攻撃的な防御魔術を使うなど、彼は知り得なかったのだから。

 どんな攻撃を仕掛けたとて、数倍の威力で跳ね返される。半歩先で跳ね返る攻撃など回避のしようがない。己も仲間たちのように死ぬ――相手の恐れは手に取るようにわかった。

「どうした? 魔術を撃たないのか。貴様は風の攻撃魔術を得意としていたはずだろう」

「あ……うっ……」

「それで俺の身を刻んでみろ。もしくは四肢を吹きとばせ。肉体が風化するまで風の檻に閉じ込めてもいい。標的は貴様のもとまで歩いていくぞ」

 ガーディアンは防御に特化した魔術師であるため、攻撃は不得手である。

 大方、ヒューバートはそんな表面的な情報を鵜呑みにし、襲撃に踏み切ったのだろう。

 情報そのものは事実だが、ガディの防御魔術の熟達具合は彼の想像の範疇になかった。

「ひっ……アァアァ!」

 それでもヒューバートは、恐怖を叫びでねじ伏せ、足を動かす。

 いや――動かせない。

 芝生を踏んでいたはずの彼の足は、いつからか地面に沈んでいた。

 足もとには小人が三体。

 踏み潰せそうなほど矮小なそれは、土属性の契約精霊だった。

「な、なんだよこれ! 足場が……っ! くそ、ちくしょう! おまえかグランサード!」

 ガディの背後で、ロズメルカが口笛を吹く。手元では〈窓〉を操作していた。

 彼女の魔術により逃げる選択肢を失ったヒューバートは、いよいよ攻撃しか打つ手がない。しかし結局〈窓〉に手を伸ばせず、そうこうしている間に。

 眼前に、ガディが立った。

「攻撃を仕掛けることもできないとはな。貴様が侮辱した俺の友なら、反撃を恐れず向かってきたぞ」

 恐怖ですくみ上がり、もはや返事もできない。

 ガディはならば不要だなと言わんばかりに、ヒューバートの喉元を掴んだ。

「がっ……!」

 うめき声が一瞬、そのままヒューバートの身を持ち上げる。

「地位と名誉のために、功績を得ようとする。結構なことだ。だが、俺もサクリファイスも生まれ持った使命を背負っている。学院を、国家を、この世界を救うための使命――〈覇界〉に名乗りを上げるのであれば、それを凌駕するほどの実力と野心を備えてこい」

 使命の重さを解き、握る手にさらなる力を込めて。

 首の骨を折った。

 ……感慨もなく死体を放り捨てる。振り返って元の位置に戻ろうとすると、ロズメルカは微笑みながらガディに語りかけた。

「ねえ、ガディ。アタシにももう一度宣言して。アナタの果たすべき使命とはなにか」

「サクリファイスを守ること――そして」

 ガディは己にも言い聞かせるようにして、気を引き締める。

「サクリファイスを生贄にし、魔術学院の総戦力をもって隣界を獲る。それこそが〝王〟の望む〈覇界〉であり、俺が果たすべき使命だ」

 なによりも使命を重んじるからこそ。

 己はもちろん、同じ〈翅付き〉の一族であるサクリファイスにも責務は果たさせる。

「うん。さっさと果たしてアタシと共に生きましょう」

「約束はできない」

「もう、つれないの」

 ロズメルカはガディの腕に抱きつき、共に使命への道を歩み進んだ。

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