第4話 平穏な生活
翌日。
僕は久々の快眠をして心地よい朝を迎える。
「あ、カグラおはよう」
「おはようミーツェ。起きるの早いんだね」
僕が起きるとミーツェはすでに起きておりメイド服に着替えていた。
「うん、仕事もあるからいつも早く起きてるの」
「へぇ、前は寝坊が当たり前だったミーツェが……」
「そ、それは言わないでよっ」
僕とミーツェが村にいた頃、ミーツェはよく寝坊をしており僕が遊ぼうと起こしていたことが多かった。そしてミーツェは寝ぼけて僕に抱きついたりしていたのが懐かしい。壁に穴を開けたこともあったな。
「じゃあ朝ご飯食べに行こっか」
僕は私服に着替えミーツェと食堂に向かう――前に隣の部屋のアイシャと向かう。アイシャの部屋に入るとアイシャはすでに起きていて服を着替えている最中だったらしく、呼びに行ったミーツェはばっちり見たらしい。僕は嫌な予感がして部屋の前で待っていたので見ることはなかった。良かった。
僕とアイシャを待っていたせいで僕たちが来るのが遅く、食堂は数人人がいるだけで空いていた。昨夜の夕食の時より半分以上少ないので皆んなすでに仕事しているのだろう。感心する。僕も早起きしなければならない。
食事も終わり、とりあえずリビングに行く。
「それでこれからどうする? 数日はここに慣れるのに自由だけど」
ミーツェがそう言う。
「その、仕事、教えてください」
アイシャが言う。
今のんびりするより少しでも早く仕事をしたいのだろう。
僕も賛成する。
「そっか、じゃあ今日は掃除の仕方と場所について教えよっか」
「「お願いします」」
僕はミーツェに仕事を教わる。
ちなみにオルグさんは使用人の中でかなり地位が高いらしく様々な仕事をしているらしい。今日は数人の使用人と買い出しに行っているらしい。
よって彼がいないときは基本的にミーツェが僕たちの世話をするらしい。ミーツェは今まで掃除や買い出し、子供達の世話をしていたので教えるのにちょうどいいと、世話をすることにしたそうだ。
最初のうちは使用人寮の掃除をするので、使用人寮を中心に掃除の要点を教えてもらう。
窓の枠やガラス、洗面所、浴場、食堂、リビングなどなど。
洗い方吹き方、点検の仕方を教わる。
いつの間にかお昼時になっていたので昼食をとってから今度は実際に掃除をすることにした。
最初のうちは僕もアイシャも悪戦苦闘していたものの、ミーツェに丁寧に教えてもらったおかげで楽々とはいかないが、なんとかできることができた。
毎日の掃除は軽く拭き取ったりして終わるらしく、月に一度は全てをきれいに掃除するらしい。
そうして数日数週間、僕とアイシャは掃除をし続け仕事に慣れていった。
僕も次第にこの生活に慣れていき、仕事仲間の使用人達と仲良くなっていった。領主のルナ様とも定期的に執務室やルナ様の自室で話し込んだりしてより一層仲を深めた。
そして僕がこの屋敷に保護されて半年が経った今日は街にくり出ていた。
メンバーは僕とオルグさんと他二名。
なんと今日は月に一度あるかないかの誕生日パーティー。屋敷では毎月、その月に誕生日を迎える人の誕生日パーティーを行っており、今月はミーツェとアイシャが誕生日を迎える。
そのパーティーのために買い出しに来ており、僕は無理を言って同行させてもらった。なにげに初めての街である。少し、いやかなりわくわくしている。
屋敷の裏門を通って街に出る。そこは人が少ない。
そして道を歩き大通りに出る。そこは人で埋め尽くされていた。
冒険者のような格好をした人や領都民、商人などが自然とできた流れに従うように大通りを歩いている。そこかしこで声が上がり活気を感じる。
大通りに面した商店らは中世ヨーロッパを連想させる外観でこれぞまさしく『異世界』だった。
「ほら行くぞ」
「あ、はい」
呆気に取られていた僕はオルグさんの声で我に返り彼の後をついていく。
まずは日用品などの洗剤や食器の購入。ついでに孤児院の買い出しもやるため子供服を購入する。
最後に食料品……を買う前に散歩することになった。食料品を買う前は自由時間だそうだ。僕はオルグさんと同行し街を見て回る。
まずは大通りの商店街。ここには様々な店が立ち並び、日用品や雑貨、衣服、食料品などが買える亜書となる。ちなみに領都には二つの商店街があり一つはこの領民のための商店街、もう片方は冒険者のための商店街らしく、武器屋や防具屋、魔道具屋、宿屋、飲食店などが立ち並んでいる。
先ほどは冒険者んbのための商店街に用がありそこから見て回ってこちら側に来た次第だ。
さて僕はオルグさんのおすすめの店を紹介してもらう。
一つ目は雑貨屋。小さな観賞植物や机の片隅にでも置くような小物を取り扱っている店だ。
カランカランと客の来店を知らせる鈴の音を聞きながら店に入る。
「いらっしゃい」と女性の店員が声をかける。
僕はさっそく店内を見て回る。
多くの種類のテラリウムが綺麗に並べられており、どれも興味深い。そういえばミーツェの部屋の机にも一つ小さな観賞植物が置いてあったなと思い出す。ミーツェもここで買ったのかもしれない。
店内を見ているととある一つのテラリウムに目がいく。球体のガラスに入れられた苔植物。なぜかは知らないが僕は数十秒ばかり見続ける。
「一つ買うか?」
「いいんですか?」
「ああ、給料はもう貰ってるだろ」
僕はすでに給料を半年分貰っており何かを買うぐらいはできる。
せっかくだし買って見るのもいいかもしれない。
僕はそのテラリウムを手にとる。
「まあ今回は俺が払ってやる」
「え、でも」
「気にするな。いつも頑張ってるご褒美だ」
「はい、ありがとうございます」
僕はオルグさんの言葉に甘えて買ってもらうことにした。オルグさんもいくつか植物や小物を手にレジに向かう。
オルグさんはこの店御用達なのか店長にも名前を覚えられえており、いくらか割引になった。
「ん? 君は?」
「初めまして、僕はカグラです。半年前に屋敷に来ました」
「ほぉ、新入りかい? これからもうちを頼むよ」
「はい」
僕は店長に気に入られたようで無料でテラリウムを貰った。
「おいダリヤ、それだと俺のプレザントがないんだが」
「それならまた今度買ってやりなっ」
「はぁ分かったよ」
僕は袋を抱えて店を出る。
「ここの店の店長ダリヤって言うんだが、気に入られたらサービス精神が旺盛でな。いっつも割引だ。だからお前も次来たら割引になるかもな」
オルグさんからそんな話を聞く。
僕たちは次ん店へ向かう。
オルグさんおすすめの店二つ目はここの本屋だ。
この本屋は大通りの商店街から一つ二つ道を抜けた、いわゆる裏路地にあり領民でも知っている人は少ない隠れた店だ。
外観は蔦が壁を覆っており廃虚のようだ。しかしそれらを隠すように店先には大量の草木が植えられてある。おそらく廃虚感を無くそうとしたのだろうが逆に廃虚を通り越して小さな森になっている。マジ草。
「外見こそあれだが、中はしっかりした本屋だし、店長もいい人だ。外見がどうにかできてればいいんだがな外見が」
とはオルグさんの感想である。
しかも裏路地を深く進まないとたどり着けないので領民でもほんの少ししか知って居合のは納得できる。なんなら僕でも次に来たくても迷路のような道のりで迷ってしまうので辿り着けないだろう。
そんな森のような店先を抜けて店内に入る。
店内はハ◯ーポ◯ターに出てくるオリバンダーの店のような独特な雰囲気を醸し出しており、僕はこの雰囲気は好きだ。
「おい婆さん、店先をどうにかしてくれと毎回言ってるだろ。今日も素通りするところだったぞ」
「あれ以上どうしよってんだい」
「むしろなんでもできるだろ。店先いつ見ても森だぞ。あれだから『オイレの森』だって言われるんだ」
オイレの森とはアヴィッツァロ山の麓、王都領とここフェーゲルハイト領の境界にある森のことである。まだ森に入って少しは魔物の蔓延る森だがそれ以上進むと異様な数の梟が現れ進行を邪魔するという。それでも進んだ強者がいるらしくその者は気がつけば森にいて森の間の記憶が混濁していたらしい。
要は不気味な森である。
「そんならあんたが手入れしてくれよ」
「だから屋敷に依頼してくれって言ってるだろ。多少の金を払えば領主様も許可出してくれるから」
「分かった分かった。依頼するよ……はぁ面倒くさい」
オルグさんと店長の会話を聞きながら店内を見渡す。
天井は高くその分本棚も上まで伸びている。等間隔に魔導照明が吊らされておりなんとか薄暗さをなくしている。
(うん、◯リー◯ッター)
やっぱりハリ◯ポッ◯ーである。偶然かはたまた寄せたのか。謎である。
「ああそうだ。カグラ、店ん中好きに見てていいぞ」
「あ、はい分かりました」
オルグさんに言われ僕は店内を見て回る。
外観はあれだったが本はしっかり揃っている。最近の本からいかにも古そうな本まで幅広く本棚に入れられている。
一冊の古い本を手にとりパラパラとページをめくる。
「それは『呪いの書』だよ」
「えっ」
店長に呪いの本と言われ落としそうになる。
「別にそれ自体が鈍いってわけじゃないから安心しな。それは呪いについて書かれた本だ」
「あ、そうなんですね」
本当にびっくりした。
「作者はなんと魔女だ」
魔女とは一般的にオイレの森の奥深くにいるとされる魔女のことを指す。その魔女は、数百年前にここシュワルゲン王国の建国前に存在した大きな王国が魔女の手によって滅びたとされ、世界中から恐れられている。
その魔女自身が書いたとされる呪いの本とはかなり貴重なのではないだろうか。
「ちなみにそれは金貨十枚だよ」
「高っ」
普通の小説などの本で銀貨五枚、魔導書で金貨五枚ほどなので、これはかなり高価な本だ。
確か魔女は闇魔術や呪術に精通していたらしく、その道に関しては世界最高峰だという。そんな魔女が直接記した本なのだから高くても当然かと納得する。
「買うかい?」
「い、いえっ結構ですっ」
『呪いの本』を棚に戻し僕は他の本を見ていく。
そして数分ばかりして店長は依頼書を書き終えたのか一息つき、オルグさんはそれを確認して懐にしまう。
「オルグさん、もう行きますか?」
「ああ、そうだなそろそろ集合時間だ」
僕は本を買うこともなく店を出て、集合場所に向かう。
複雑な道を進み大通りに出る。
そして集合場所の店の前まで行き、別れた二人と合流。そして食料品を購入していく。
その日の夜、食堂にて。
魔導照明は切られており食堂内は真っ暗だ。しかし一か所だけ薄明るい場所がある。それはケーキに刺さったロウソクの明かりである。
「「「「誕生日おめでと〜、ミーツェ〜、アイシャ〜」」」」
主役の二人はふぅーとロウソクの火を吹き消す。
本当に真っ暗になるがすぐに魔導照明はつけられ明るくなる。
そう、誕生日パーティーである。
ルナ様も混ざっての誕生日パーティーも終盤に近づきいよいよケーキの番だったのだ。ケーキの番ってなんだ? まあいいや。
大きな二段ホールケーキを切り分け皆んなで味わう。
「ねえカグラ、あ〜んして」
「わ、私もっ!」
ミーツェとアイシャがあーんをねだる。
誕生日パーティーだからいっかと僕は順番にあーんをする。
二人の頬が緩む。ニヤニヤしいる。
「な、なあ私もっ」
「ルナ様もですか?」
「あ、ああっ、ダメ、か?」
ルナ様に上目遣いでねだられる。僕は仕方なく瑠ルナ様にもあーんをする。ルナ様もニヤニヤする。
「あ、そうだ」
僕はとあるものを取りに一度石を立つ。
「どこ行くの?」
「ちょっとものを取りに、ね」
そしてとあるものを持って戻ってくる。
「はいミーツェ。僕のカップケーキ好きだったでしょ?」
「カ、カグラっ……いただきますっ!」
僕はキッチンから僕たちがまだ幼い頃に作っていたカップケーキを持ってくる。
ミーツェは嬉しそうにハムスターのように頬張りながら食べる。僕が作っていた頃のことを思い出しているようだ。あの頃よりも材料も設備も整っているためより美味しいはずだ。
アイシャにもカップケーキを渡す。
アイシャは初めて食べる食べ物を恐る恐る口に運びかぶりつく。そしてはねた。そしてバクバクと食べていく。
予想以上に美味しかったようだ。
「ありがとうカグラ! 大好き!」
「私からもありがとうカグラ!」
二人はそう言って僕の頬にキスをする。二人から両頬にキスをされ赤らむ。使用人たちはキャーキャー言っている。ルナ様はむぅーと頬を膨らませ不機嫌な様子。なに、ルナ様もしたいのか?
二人は僕にキスをした後、ケーキとカップケーキを食べていく。二人も若干頬を赤らめている。意外と恥ずかしかったらしい。
僕は今、幸せな日々を暮らしている。
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