第4話 日常を邪魔する者
「大変ですっ。迷宮にっ、竜がっ……」
「何ですって?」
耳を疑う。
「竜が突如っ、飛んできてっ、今シオン様のお仲間たちや高ランク冒険者たちが足止めしてますっ。それのおかげでなんとか街の被害は軽いですがっ、もうっ……」
「分かりました。すぐに行きます」
「ありがとうございますっ……」
私は机に銀貨一枚を置いて、屋根を駆ける。
◇◇◇
地獄絵図。
まさにそのような惨状であった。
逃げ惑う街人や冒険者。屋台は嵐でもやってきたように飛ばされ潰れ、崩れており、広場に面する店も建物から崩れ瓦礫とかし、その場にいた人たちが瓦礫の下敷きとなっていた。
一部の冒険者が救助を行おうと試みるも瓦礫は重く救助が困難だ。
そして広場の上空にはこの惨事を引き起こしたであろう竜が飛んでいた。その竜をどうにかしようと攻撃をしている高ランク冒険者たち。されど攻撃は届かない。
「…………っ!」
私はとある人物を見つける。
「大丈夫ですか、リコ」
頭から血を流し倒れていたリコだった。
私は回復薬を飲ませる。
「うっ、あ、シオン様。ありがとうございます」
「何があったのか教えてくれますか」
「はい、私たちは持ち物がいっぱいになったから早いけどもう帰ろうと思ってここに着いた時に、どこからか竜が飛んできて……たぶんSランク級だ、って管理人が。そしたら竜が暴れ出して……」
私は辺りを見回す。
「『それはあらゆる者を撫でる それは誰であろうとそばにいる それは風 大気を巡る風 時に激しく猛威を振るい 時に優しく風は舞う』『
私を中心に風が吹く。
それは人々を優しく撫でるように舞う。
そして、瓦礫らを持ち上げる。
「今のうちに救助を!」
冒険者たちは迅速に救助を始める。
また私が来たことに安心したのか士気も上がる。
無事、埋もれていた人たちの救助も終わり魔法をとく。
救助を試みていた冒険者たちは救助者を連れて逃げていった。
私は竜を見上げる。
すると竜もこちらに気づいたのか、いつの間にか私の目の前に降り立つ。遅れて風が舞う。風によって冒険者たちが飛ばされたが好都合だ。
『お前が、一人でカイザークを倒したのか?』
「それがなんですか」
『ふむそうか。まあいい。とりあえず、戦おうではないか』
竜はそう言って近距離でブレスを吐く。
私は上空へ飛び上がり、指先に雷の球を作る。そして――
「どこを見ているのですか、『
稲妻が竜に落ち直撃する。
『ぐっ』
竜は苦悶の声を上げるもあんまり効いてはいないようだ。
『中々やるではないか。さすがはカイザークを倒しただけはある』
「どうも」
私はすぐさま雷魔法を付与した刀を抜き斬りつける。
斬撃は避けられ地面に傷を入れて終わる。
竜は風魔法を付与したであろう鋭い爪で私に襲いかかる。
それを刀で受け流し、カウンターを入れる。だが奴の薄皮を切っただけだった。
それならと、身体強化をした脚で蹴りを入れる。
『うぐっ!?』
少しは効いたらしい。
そして一瞬油断した隙を狙って――
「『
――雷を纏った刀で奴の全身を斬り刻んでいく、が竜の皮膚は硬く全身にかすり傷をつけるに終わる。
『ふははっ、面白いな。どれ我も少し本気を出そう』
空気が変わった。そう思うほどのプレッシャーが奴から発せられる。だが私は気にもせずに猛攻を仕掛ける。
『この威圧を浴びても柳に風か。まあよい――ほれっ』
「ぐっ!?」
奴の尾に払われ受け止めるも力量差があったために吹き飛ばされる。私は少し怯んでしまう。
それを見逃す奴ではない。
爪や尾、魔法などで私を追い立てる。
それを私は一つ一つ確実に防いでいく。
そして私は大きく退き、居合いの構え。身体強化で脚と腕を強化し――一閃。
奴の腹を抉る。
『ぐはっ……』
かなり効いたのか、奴は飛行を維持できず墜落する。
そして――
「付与『
刀に雷魔法を付与し、奴の体を叩き切る。
轟音が大気を震わす。さらにその衝撃は竜を貫き地面に伝わり地面にヒビを入れる。
切断こそ出来なかったものの奴の体は深く抉れ血が溢れ出す。
しかし奴は楽しそうにしていた。
『ふははっ、よもやこれほどの強者だったとは! よいぞよいぞ、我をもっと楽しませろ!』
そう言って奴は起き上がる。
はた迷惑な話だ。ただ楽しむためにこれほどの被害を出して、幸いにも死者はいないようだったが。
奴も本気を出したようで今までより素早く、力強く技を繰り出す。
私も身体強化を限界まで上げ、対峙する。
そうして三十分後。
私と奴は肩で息をしながら未だに対峙していた。
『ふっ』
奴から敵意が消える。
『我は満足だ。ここで帰るとしよう』
「何のために来たんですか」
『お主と戦うためだ。カイザークがやられた気配がしてな、大急ぎで飛んできたぞ』
ただの 戦闘狂のような気もする。
『改めて我はヴルタール。自由と戦いを求めるただの竜だ。さてお主にはこれをやろう』
そう言ってなにかを投げてくる。
それをキャッチするとそれは拳ほどの大きさの牙であった。
「これは?」
『それは我の大事なものだ。大事にとっておけ。何かあればそれで我を呼べ。すぐに駆けつけよう』
ヴルタールはそう言ってどこかへ飛び去っていった。終始墜落しかそうだったのは負ったダメージからか。『少し遊びすぎたな』と小さく聞こえた。
そして残されたのは災害にあったような酷い惨状の広場と奴の牙を持った私だけだった。
◇◇◇
その後、凄絶な戦いから避難していた高ランク冒険者やその他の冒険者が集まり復興が始まった。
瓦礫を除去し、建物の修復。そして屋台の再開。
運良く壊れた建物はそこまで酷くはなく、一週間ほどで修復は終わるそうだ。。
「おや? それは竜の牙ですか?」
ダンジョンの管理人の一人が私が持っている牙を見て話しかける。
「知ってるんですか?」
「ええ。竜の牙を与えられるのは竜に親友と認められた証と言われてるんですよ」
「親友……」
いつのまに竜と親友になったのだろうか。
「クレデリカ!」
「あ、はい! 今行きます! では私は失礼しますね」
管理人は同僚に呼ばれ去っていった。
「シオン様〜」
「リコ」
声をかけられ振り向くと三人と三羽がいた。
「あっ……」
彼らの顔を見てプレゼントのことを思い出す。
「リコ、いつも頑張ってるご褒美です」
「えっ……嘘、シオン様からプレゼントを貰えるなんて……しかもテラリウム……」
「好きでしょう?」
「うんっ。ありがとうシオン様! 一生の宝物にします!」
喜んでくれたようだ。
「次はユーとリョウです」
「おっ、俺らのもあるのか」
「何でしょう?」
「ユーは敏捷の指輪、リョウはちょこっとだけ見通す眼鏡です」
「おお! ありがとうございます、シオン様!」
「シオン様、ネタですか?」
「いえ本当です。三秒の未来視とちょっとだけの読心です」
「……ありがとうございます」
二人とも嬉しそうだ。
そしてそばでソワソワしているサンダーバード三羽。
自分たちも貰えるのでは、と思っているのだろうか。
『あの、シオン様、我々のは……』
「もちろんありますよ」
ぱあぁと三羽はすでに嬉しそうだ。
そして一羽一羽、スカーフを巻いていく。
「これでよし。似合ってますよ」
『ありがとうございます、シオン様!』
『仲間に自慢しなくては!』
『シオン様のプレゼント……えへへ』
皆喜んでくれたようだ。
「シオン様、私これからも頑張りますねっ」
「ええ、そうしてください」
こうして竜も去り、三人と三羽との日常が戻る。
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