獣人転生 〜忌子の僕は奴隷になる〜
和泉秋水
1章1節 神楽の転生と成長
第1話 日常
僕は
ラノベが好きな普通の高校2年生だ。日本人特有の黒髪黒目で身長は同年代の平均より低い160cm。そして中性的な顔。女子と間違われるとこもたまにある。街で買い物をしていたらナンパされたこともあった。
僕は今、埼玉の一軒家で双子の妹である
二人だと寂しいので癒しとして僕は猫を飼いたいのだが紫苑が大の獣嫌いなので飼うことはできない。別にアレルギーではない。生理的に嫌なだけらしい。見るのも嫌なので出かける時は、なるべくペットと会わない道を通ったり、会わない時間にしている。
家の家事は中1の時から僕がしている。お母さんから色々と教えてもらっていたこともあり、少し大変だったがすぐに慣れた。僕は紫苑の親代わりだ。
なぜ、妹がしないのかと言うと、紫苑は家事全般が壊滅的に下手なのだ。大事なのでもう一度言おう。壊滅的に下手だ。
例えば紫苑が始めて洗濯をした時は、どうしていいか分からず洗剤をまるまる一本使った。どうなるかは火を見るより明らかだ。その日は洗面所周辺の掃除に追われた。
他にも、毎回料理をしたら真っ黒焦げの食材の原型をとどめていない料理とも呼べないモノができるのだ。一度食べてみたところ、食べてすぐ気絶したほどだ。どうやって作っているのか見てみてもおかしなところがなく何故かは未だに分からない。紫苑は天才、いや天災か?
そんなこともあり僕の家事力は格段に向上した。それはもう亡くなったお母さんの味を再現できるぐらいには。そして、そんな料理はすでに紫苑を虜にしていた。僕以外が作った料理はできるだけ食べたくないらしい。
いつかは兄離れをしてほしいのだが……そのことを紫苑に話すと、ハイライトの消えた目で「兄さんはずっと私のもの。私はずっと兄さんのもの。兄さんが結婚しても嫁を脅してでも付いて行きますから。ふふふふふふふ」と言っていた。これが俗に言うブラコン、いやヤンデレだろうか。恐ろしい。何故、僕がそんなに好かれるのか本当に分からない。親がいなくなって引きこもった紫苑を僕が慰めたからか? 家族として当たり前のことをしただけで惚れるのはおかしいと思うのだが……
そして、僕はよくいじめられている。妹に心配をかけたり迷惑をかけたりしないように隠しているのだ。たまに高3の
今は、8月。外が35度を超える猛暑の中、僕と紫苑は家で冷房をつけ、僕はソファに寝転がりながらラノベを読み、紫苑は僕の隣で僕のお腹に顔を当て匂いを堪能していた。紫苑は匂いフェチかもしれない。
紫苑は匂いを十分堪能したのか顔を上げる。
「兄さん、今読んでいる本は何ですか?」
「え、いや、これは……」
僕はつい本を隠してしまう。
しかし、紫苑は気になるのか隠した本を強引に奪いブックカバーを取ってタイトルを見る。
そこには『妹の愛し方』と書かれてあった。
僕が読んでいたそれは、今話題のラノベだ。内容は、兄と妹が学校や家で――妹から一方的に――イチャイチャする、よくあると言えばよくあるような作品だ。だが、兄と妹の気持ちがリアルに書かれてあり、ストーリー構成も良いため男女問わず人気なのだ。ちなみに漫画化もされたうえにアニメ化もされている。
閑話休題。
紫苑は頰を赤らめた。僕も恥ずかしさのあまり頰を赤らめた。そのラノベは今の僕たちと同じだったからだ。
紫苑が本を側にそっと置き僕と向かい合う。何か言われるかも……そう思っていたが杞憂だった。
ドンッ
紫苑は僕を押し倒し馬乗りになる。
「兄さんは私のことが好きなのですか?」
「そりゃ家族として愛してるけど……」
「私は兄さんを一人の男として愛してますよ」
「えっ……」
紫苑はそう言い僕の唇にキスをする。唇同士のキスは今までに何度もされてきているので、大して気にしていない。大人のキスはさすがに恥ずかしいのかしてはいないが、いつされるか気が気でない。
紫苑が唇を口惜しそうに離す。
「なんなら、この先もします?」
「だっ、ダメだよっ、それはっ」
「ふふっ、冗談ですよ。半分は……」
半分は本気だったということか。
紫苑はそのまま、僕に抱きつき横になる。僕は本を取り再び読書を始める。紫苑を見るとすでに眠っていた。匂いを堪能し、幸せそうな顔で寝ていたためどかすことは出来なかった。可愛いなぁと思いつつ僕は紫苑の頭を撫で「おやすみ」と言う。その時の紫苑はとても幸せそうだった。
この時間が僕がいじめのことを忘れていられる唯一の至福の時だ。
♢ ♢ ♢
小雨が降る放課後、校舎裏にて2ヶ月前に入学したばかりの僕が、クラスメイトの男数人に殴る蹴るなどのいじめを受けていた。いじめが始まったのはつい先月の5月。毎週、校舎裏に呼び出されてはいじめられていた。いじめは小学校も中学校も受けてきたので慣れたくはないが慣れてしまっている。
その男の中には、成績優秀でいかにも草食系な眼鏡をかけている人もいた。雰囲気は優男でありながら実際はドSという、人は見かけで判断してはいけない例の一つだった。むしろ今もはぁはぁしている。
彼らは先生や他の人にバレないように徹底していた。例えば、表は無関係のただのクラスメイトの関係を装っていたり、傷や痣がバレないように服で隠れているお腹を中心的に殴る蹴るがほとんどだった。おそらくメガネ君――ドS男の仮称――の指示のなのだろう、他にこんなことを考えられるような人はいなかった。
(痛い……苦しい……もう……やめて)
そう思っていた時だった。
「お前らっ! なにしてるっ!」
若い女性の怒鳴り声が聞こえ、直後に人を殴ったり蹴ったりするような音が僅かに聞こえた。
「君、大丈夫?」
声がしたので顔を上げると、そこには天使がいた。これは比喩だがそう例えてもおかしくはなかった。
彼女は
その理由は二つ。
一つは、その容姿。茶髪ショートの整った顔立ちと168cmという高身長。彼女の笑みは天使の笑みと言われるほどだ。
もう一つは、その性格。一部を除きどんな人にも向ける天使の笑み。唯一、悪い奴だけには見せない。なぜなら、彼女はいじめや暴力をする人が大嫌いだからだ。正義感にあふれ、いじめを見たら今回のようにすぐに相手を撃退している。普通のか弱い女子なら成長期の男子に勝てるはずがないだろう。しかし彼女は、女子にしては高い身長を持ち合わせさらに、空手経験者だ。その腕は確かでかつて十数人の暴漢を撃退した程だ。
そんな彼女が有名にならないはずがない。今や学校だけでなく学校周辺の地域にも、その知名度は広がっている。
そんな彼女が目の前にいたのだ、彼女を天使と呼ばずして何を天使と呼ぶのか。
「大丈夫? 立てる?」
「はい、ありがとう……ございます。うっ」
「おっと。取り敢えず着替えれる? 服はどこに……」
なぜ着替える必要があるのか。
「先輩? なんで着替えるんですか?」
「えっ、だって無理やり男装させられてたんでしょ?」
「あっ、ああ。先輩、僕は男です」
どうやら女子に見えなくもない僕は男装させられていたと勘違いしていたようだ。
「えっ!? 男の子だったの? ごめんなさいっ」
「大丈夫……ですよ、慣れてますし。痛っ」
「と、取り敢えず横になって安静に、ねっ?」
「はい」
これが僕と月城先輩の出会いだ。
それから、まだいじめは終わらず、さらには僕と月城先輩が一緒にいることに嫉妬した元いじめられっ子にもいじめられていた。
それもあり、僕と月城先輩がよく相談し合う仲になっていった。僕の苦労はもちろん、月城先輩の愚痴も聞いた。
それにしてもいじめが終わらないから僕と月城先輩が一緒にいる時間が続くことにいつ気がつくのか。バカなのだろうか。
クラスメイトにも優しく接してくれる人もいたが、学校のある日は、紫苑か月城先輩といることが多くなった。紫苑はトイレにまでついてくる始末だ。そして僕が紫苑や月城先輩といる度に、自称「月城瑠奈様に愛され隊」と自称「暁紫苑様に踏まれ隊」からの嫉妬の目線がひどくなり尾行されるに至った。
しかし、そのおかげかいじめは格段に減り嫉妬の目線だけが残っていた。今までよりかは平穏な学校生活が続いた。ただ、友達は誰もいない。仲がいいのは妹と月城先輩だけだ。本当にその二人しかいない。いじめをしない者は僕と関わらないだけなので一人も友達がいない。でも僕は他の人と関わる気がないのでいなくても構わない。
しかしその生活も約1年、つまり僕が高校2年生で終わりを迎えた。
今から2ヶ月前の6月、月城先輩が18歳という若さで交通事故で帰らぬ人となった。
彼女の死に多くの人が悲しんだ。彼女の葬儀は地域を挙げての葬式となり土日にお通夜があった。それほどまでに彼女の知名度と影響力は高かったのだ。地方新聞には一面とはいかないが端の方に載っていた。
後日の学校や地域は暗い雰囲気が漂い、ある意味ゴーストタウンと化した。しかし、1・2週間程で幾分マシになり、1ヶ月が経つ頃には今まで通りの日々に戻った。
それはいじめも変わらず、またいじめの日々に戻った。今日はあのグループにいじめられたと思えば次の日には別のグループにいじめられた。僕は複数のグループに先輩、後輩、男女関係なくいじめられた。
唯一のいじめのない日は休日。7月は一週間の内、土日の二日だけが癒しだった。そして、夏休みはまさに天国。40日くらいも休みがあるのだ。買い物で出る時は紫苑と一緒なので絡まれる心配はない。なので、今日も紫苑とくつろいでいたのだ。
僕は寝落ちをしていたらしく空は夕焼け空に変っていた。
そろそろ夕飯の準備をしよう。そう思い立とうとしたが立てなかった。そうだった、紫苑がいるんだった。
紫苑はまだ寝ていた。紫苑を起こさないようにゆっくりどかす。男子にしては小柄な身体のおかげで起こさずにどかすことができた。
今日の夕飯を作っていると紫苑が起きたようだ。紫苑が起きる前に側にいたかったのだが。さもないと……
「兄さん! どこにっ! 」
「僕ならここだよ紫苑。ほら落ち着いて」
「ああ、兄さん……私また……」
「大丈夫、僕はどこにもいかないから」
ここ最近、いつもそうだ。どうやら僕がどこか遠くに行く夢を見るらしい。紫苑曰く、暗闇の中、紫苑の目の前には僕がいて紫苑を一度見た後、暗い闇の中を紫苑を置いて進んでいくらしい。
そういったこともあり、紫苑がどうしてもと言うので同じベッドで寝ている――紫苑は少し下心がある気がする――のだが悪夢はまだ続いているそうだ。でも、僕が近くにいるだけですぐに安心するらしい。だが紫苑の良い匂いがして最初は寝れなかったが今では慣れている。
暑く平穏な日々が続く夏休みも今日と明日で終わる。なので紫苑と思いっきりイチャイチャしよう。紫苑も快く受け入れてくれはずだ。むしろ紫苑から頼んでくるかもしれない。
夏休みの残りの二日間は紫苑とイチャイチャした。しまくった。ブラコンの紫苑はそれはもう興奮していた。抱き合って寝たり、一線を越えて大人なキスもした。されたと言っても良い。ともかくあんなことやそんなことをした。まあ、さすがに兄妹なのでキス以上の破廉恥なことはしていない。兄妹ではなく普通のカップルだったならばしていただろう。
紫苑はブラコンだとは言っているが僕はシスコンかもしれないな。誰にシスコンだ言われようと気にはしない。それは紫苑も同じだ。
ついに夏休みの最終日の夜。明日からまたいじめが始まると思うと恐怖で身体が震える。紫苑にバレるわけにはいけない。なのでイチャイチャすると自分に言い訳をして、紫苑に慰めてもらう。
「兄さん、大好きです」
「僕も大好きだよ、家族としてね」
「兄さん、私と夜の営みを……」
「紫苑、それはダメだよ。僕たち兄妹なんだから」
「でしたら兄妹ではなかったら良いと?」
「うん、兄妹じゃなかったらいいんだけど」
「それなら生まれ変わればいいんですね」
「まあ生まれ変わってなら。でも、もし生まれ変われてもまた会わないと」
「大丈夫です。私が世界中を探しますから。ですので兄さんは待っていてください」
「じゃあ、待ってるよ」
冗談だと思うのだが紫苑なら本当に出来そうな気がする。むしろ世界を超えて邪魔なら神を殺して、会いにくるかもしれない。うん、それは怖いな。妹はそんなことはしないと信じたい
そんなこんなで最終日はいつも以上に紫苑とイチャイチャして、いじめから逃れられた夏休みが終わった。
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