第22話
その話を私が持ち出したのは、翌日の昼休みでのことだった。
「あのさ。あんた、次の週末って空いてんの?」
今日も今日とてやってきたイケメンに、私はそう問いかける。
「え? なんか、芳野さん、どうかした? 珍しい」
購買のパンを口にしながら、イケメンが物珍しげな目を向けてくる。
「……別になんでもない。暇かどうか聞いただけだし? ま、あんたのことだから休日は色んな女からデートのお誘いでもかけられてるんだろうけど」
「カズミーそれただの嫉妬……」
「うっさいほっとけ」
小毬ちゃんが呆れた目を向けてくるけど、そんなものは知らない。
別に私は嫉妬深いとかそういう女じゃないし、そもそもイケメンに惚れているわけでもないし、ただ女を侍らせてる男には反射的にイラっとしてしまうだけだ。こう、女に囲まれているこいつを見ると、胸が締め付けられてしまうだけなのである。そのチャラさに対する腹立たしさで。
「とにかく。遊びでも誘おうと思っただけだし、空いてないなら別にい――」
「あるある! 空きある! 空いてなくないしむしろある!」
凄い勢いでイケメンががっついてきた。
がっつきすぎて、もうめっちゃ土下座するみたいに前のめりになっている。
「うっわ……」
あまりに必死さに私はドン引きした。
「いや、やっぱなんか……なんか、いいや」
「いいやってなに!? なんかってどういうこと!?」
「あー、うん、まあ別の機会があったらその時ってことで~」
「誘っておきながら反故にするのはひどいと思うんだけど!」
「ああもう鬱陶しいなお前は。そんなに遊びたいなら小毬ちゃんと遊んでくればいいじゃん」
「俺が一緒に遊びたいと思うのはこんな女じゃなくて芳野さんだけだから!」
「……え、今わたしなんか凄いディスられてない?」
流れ弾を受けた小毬ちゃんがむ~っと頬を膨らませた。
「だいたい、カズミーと楠木君を二人で遊びに行かせたりするわけないんだよねえ。ほら、カズミーはわたしのカズミーだし? もし遊ぶならわたしだってついてくしぃ?」
「……ええと、こま、こま……困ったさんだっけ? 芳野さんが誘ってるのは今、俺だけであって、君が来ていいとは一言も言われてないんじゃないかなー?」
「ムッカ……ってかわたしとカズミーの付き合いなら一緒に遊ぶなんてこと当然だもん。あー、でもそっかー、楠木君はまだカズミーと仲良くなってちょっとしか経ってないもんねー、そんなこと分からなくたって当然かー、ごっめぇ~ん」
「誠意のない謝罪はいらないし君の中にしか存在しない『当然』を押し付けられても迷惑極まりないんだけど。そもそも、俺と芳野さんが遊ぶのについてきたいってことならわがまま言わずにちゃんと『お願い』することが筋なんじゃないかなあ?」
小毬ちゃんが煽り、イケメンも負けじと言い返す。
言葉を交わし合う二人の間には、友人同士の気安さや和やかさ……なんてものは微塵もなく。
「……ふーん?」
「へ~え……?」
「なんでいつの間にそんな険悪な感じになってんのお前ら!?」
以降、なぜだか分からないけれど剣呑な空気に挟まれて、気まずい思いをする私なのであった。
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