キライだったよ、あんたのことなんて。
月野 観空
第1話
私は、チャラチャラした男が嫌いだ。
軽薄な男が嫌いだ。不誠実な男が嫌いだ。根性なしのくせに女にもてはやされていい気になっている男が大嫌いだ。
だからある日を境に私は決めた。そういった下らない男とは、一切関わったりしないって。
なのに……。
「ねえねえ。芳野さん、面白いしさ、俺と付き合ってよ~」
そんな告白を、その日、突然、受けた。それも告白してきたのは、『律明のアイドル』で『みんなの王子様』で『誰もが憧れるイケメン様』だった。……私が、もっとも嫌悪している、『下らない男』だった。
「……これだからイケメンは」
「え、なんて?」
「無理です嫌ですごめんなさい! 整形してから出直してください!」
「へえ~? 整形したら、可能性あるんだあ?」
「ないから一ミリたりともそんな可能性存在しないから!」
……これだから、女にもてはやされまくっている勘違い男は。
目の前で爽やかに笑う美男子、楠木勇一のその麗しい姿に、私はがっくりと肩を落とした。
どうしてこんなことになったのか……きっかけは、そう――。
* * *
――きっかけは、そう。私、芳野和美が体育の授業に参加していた、三日前の時である。
その日の授業内容はバスケットボールで、男女混合で対抗戦をすることになっていた。
私は身長173センチの体重69キログラム。70の大台まであと1キロ。とはいえこの体重は昔から柔道をやっていたからで、デブはデブでも動ける方のデブだった。体格もなかなかしっかり気味で、デリカシーのない男共などは『巨大戦艦』と私を呼ぶ。呼んだ奴らはもれなく大外刈りの刑に処するのだが。
そんな、女子の中では図抜けた戦闘能力を誇る私なのだが、球技となるとまるでダメだ。バスケなんかは跳ぶわ走るわと苦手中の苦手科目で、息がすぐに上がってしまう。
だからだろうか。外したシュートのリバウンド争い中に、相手チームの男子と肩が触れ合ってバランスを崩し、足首を挫いてしまったのは。
「うわ~、ごめん芳野さん! 大丈夫?」
足首を抑えてうずくまる私に、ぶつかった男子が声をかけてくる。
「うわ、足首はれ上がってるめっちゃいたそ~」
「あ、いや、だいじょ……ぶぅぅうぅぅ!?」
やせ我慢して立ち上がろうとし、しかし立ち上がった途端に痛烈な痛みが鮮烈に始める。まるで大砲をぶっ放したかのような衝撃に、思わず変な悲鳴が上がる。
それを聞いた、その男子。
「ぶっは……ぶぅうぅぅぅって、それやっべ……不意打ちすぎて俺まで思わず吹いちゃったじゃん」
……いや、あんた、人をこかしておいてそれはさすがに失礼ではないか、と。一瞬で痛みが遠のき半眼になる私に、そいつはミント系っぽい汗の香りをまきちらしながら、それこそフリスクみたいに爽やかな笑顔を向けてきて、言ったのだ。
「よーしじゃあ保健室いこっか。俺運んであげる!」
人の悲鳴を聞いて吹き出したその男こそが、楠木勇一。
アイドル系の顔立ちをした、学内きってのタラシ野郎として有名なイケメン様である。
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