『元気さんがいなくなった』

やましん(テンパー)

『元気さんがいなくなった』

 《これは、妄想によるフィクションです。地名も含め、すべて実在の物とは、もし同名のものがあったとしても、まったく関係ありません。同じ行為をした場合、違法行為になるかもしれません。》




 やましんの中の元気さんが、みな、いなくなりました。


 そこで、お医者さまと相談して、お薬もいただきました。


 お仕事を続ける元気がなくなったので、退職しました。


 しかし、日常生活をする元気さんは、少しだけ、残っていたのです。


 それが、ここしばらく、まったく姿を見せなくなったのです。


 おかげで、やましんは、日中は80%以上は、寝て過ごすようになりました。


 体中が、痛くなりました。


 まあ、最近は、あまりに暑かったせいかもしれませんけれど。


 しかし、元気さんの姿が見えないのは、やはり、気にはなります。



 これまでも、いろんな手段は使いました。


 漢方薬も処方していただきました。


 ホルモン注射もしましたが、あまり効果が見られませんでした。


 ランニングやウォーキングも、少しはしていますが、去年ほどの効果がなく、むしろ、くたくたになります。


 お腹の管の関係で、失禁することがあるので、それを止めるお薬も飲んでいますが、すると、こんどは便秘になります。


 そこで、このさい、元気さんを絞り出してみようかと、下剤もいただいておりますので、毎日飲んでおります。


 たまったものが出てしまうと、少し楽になりますが、元気さんは、あいかわらず姿が見えません。


 そこで、得た結論は、元気さんは、すでにやましんの中から、みな出てしまて、もう、いないのだ、ということです。



 あきらめるのも、ひとつの、方法です。


 努力は、したのですから。


 この世には、あまり縁がなかっただけです。



 でも、あきらめるには、少し若すぎです。(まだ、還暦過ぎだもの。)


 ならば、元気さんに帰って来て貰わなければなりません。



 風のうわさに聞くところ、とおいとおい、通称『元気山』という場所に、元気さんの住むおうちがあるのだそうです。


 そこで、やましんは、あるひ、苦手な電車とバスと、タクシーと徒歩で、その場所を尋ねました。


 苦労はしましたが、人里離れた山の奥に、小さな小屋を見つけたのです。


『やっとみつけたぞ!』


 玄関から裏口まで、きっと、1秒もかからないくらいの、小さな小屋です。


 引き戸には、鍵もなく、ごりごりと、埃を放ちながら開きました。


 小さな張り紙がありました。


  【今日も元気だ。明日も元気!】


 間違いありません。


『こんちは~~~。元気さんですかあ?』


 やましんは、呼びかけました。


 しかし、さがすほどのこともなく、そこには、誰もいませんでした。


 生活の痕跡もありません。


『やれやれ。くたくただよ~~~~。もう、限界。はひゃ~~~~~。』


 やましんは、倒れました。


     🏔   ⛰   🏔


 それから、どのくらいたったのでしょうか。


 ふと目を覚ますと、大きな座敷に寝ていました。


 心地よい風が吹き渡り、なんだか、良い香りもします。


 さやさやと、樹々が揺れる音も聞こえてきます。


 やがて、着物を着た奇麗な方がやってきて、お茶を差し出したのです。


 『これが、元気さんのお茶です。さあ、お飲み下さい。』


 『はあ・・・・・それは、どうも。』


 『かならず、元気さんはあなたに返ります、ただ、お約束がございます。元気さんが返っても、ここのことは内緒にしてください。また、無理はいけません。無理をすると、また、元気さんは出て行ってしまいます。それから、元気さんが出てくるのだということを疑ってはなりません。これで、かならず、元気さんは出ます。』


 『はあ、ありがとうございます。』


 やましんは、お茶を飲みました。


 眠たくなったので、また、寝てしまいました。



      🏔    ⛰    🏔



 気が付くと、小屋の中のままです。


 来た時はなかったはずの、湯のみが置いてありました。


 先ほど見たものと、そっくりです。


 どうやら、あたりは、もう夕方です。


 お腹が空いてたまらないので、多少無理でも、帰ることにしました。


 不思議なことに、すぐに大きな道路に出ました。


 来た時は、随分長く、山の中を歩いたように思うのですが。


 

 1時間ばかり歩くと、町に出ました。


 食堂があったので、ほんとうは、血糖値とか、コレステロールとか、たぶん、あまり良くない、『ステーキ御飯』をいただきました。


 とても、おいしかったのです。


 

 それ以来、ものすごくよくはなっていませんが、いくらかは、お話を書くことは、出来るようになったのです。


 元気さんは、ほんの少しだけれど、帰って来たようです。


 

 やはり、自分からも、多少動かないと、元気さんは帰ってはこないようなのです。



 たまには、いくらか、恥ずかしくても、外出した方が、よいようです。


 あ、暑い時期は、帽子や飲み物を忘れずに。



 ゆのみは、ちゃんと、そのまま、置いてきました。


 伝説では、持って帰るのが、おおかたの常道ですが、それじゃあ、どろぼうさんですから。




  ************   ************  おしまい















 






 











 

 











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『元気さんがいなくなった』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る