第6話 幼なじみのせいで羞恥にさらされています



 退魔騎士学校 訓練場 『ニオ』


 訓練場の中にいる新入生、ニオ・ウレムは心の底から困っていた。


 部屋の中央では金髪の少女と鳶色の髪の少年が木剣を打ち合わせていたが、それらには目もくれず、観覧席周辺を歩き回る。


「あっれー、おっかしいなぁ。どこで落としちゃったんだろう」


 茶色のショートカットにした髪に青い瞳。制服に合わせるように下にはチョコレート色の短いズボンを履いた少女は服装や、落ち着きなく動き回る様子から見るに活動的な印象を与える少女だ。


「うーん、困るよ。早く見つかってくれないと……」


 ニオは並べられた椅子の下一つ一つ隙間に目を通したり、近くに立っている人間に何事かを尋ねたりする。

 だが探し物は一向に見つからない。


 ニオは新入生であり、寮に住むことになった寮生だった。式が終わった後は寮へ戻り、荷を解く作業が残っていたのだが、持ち物の一つがなくなっていることに気ずいたのだ。


「エルさ……、エルがくれた大事なお守りなのに。このまま見つからなかったら困るよー」

「なあ、そこの人。ひょっとして探してるのってこれ?」


 そんな様子のニオに声をかける者がいた。

 こちらと同じく、今年入学する男子学生だ。


 声のした方に死線を向けるとそこにいたのは、くすんだ赤い色の髪に、鮮やかな赤い瞳の少年で、どこか軽薄そうな雰囲気を感じる少年だった。


「あ、そのかお見覚えある。同じ教室の人だよね」

「へぇ、そうなの。俺は覚えてないけど」


 ニオはは少年の顔をまじまじと見ながら、手のひらを打ち合わせて納得。

 少年はこちらへと視線を返しつつも、手の中にある物体……綺麗な石ころを弾ませる。


「これからよろしくねー、あ。自己紹介しとく? しといた方が良さげ?」


 と、フレンドリーな空気を醸し出して、ニオの口にする話題が自己紹介に移りそうになるのを男子学生が止めた。


「いや、その前に落とし物まず確認するべきでしょ。探してたんじゃないの?」

「あっ、エル様のっ!」


 飛びつくように意思石を受け取る。捜索対象が戻った事に、ニオは嬉しさ全開でほおずりだ。

 

「やったね、石ころ。偉いぞー」

「俺への労いはないわけ?」

「ありがとねー」

「軽いな!」

「あんがとさん」

「もっと軽くしてって意味じゃないよ!?」


 少年の抗議をさらっと受け流し、ニオは失くさないよ様にハンカチで包んでからその石をしまった。


「どうせ明日自己紹介するだろうけど、一応。ニオの名前はニオって言うよ。よろしくね」

「ああ、俺の名前はライドな。とりあえずよろしく」


 迂回してまた戻ってきた自己紹介の話題を済ませた二人は、「それにしても」と同時に部屋の中央へと視線を投げた。


「あれ、すごいよね」

「ああ、すごいな」

「新入生なのに、在校生に交ざってるとか、なんか次元が違う戦い方してるとことか、色々突っ込みどころ多すぎだよ」

「って、あれ新入生なの?」

「そだよ。同じクラス。顔見たもん」


 ライドは驚愕と感嘆の色を含んだ視線でニオの顔を見た後、部屋の中央へと向けなおす。


「ほぉー、大したもんだ。あそこまでになるのに、一体どれだけ修練積んだんだろうな」

「きっと気が遠くなるくらい、じゃないかな」


 真剣な表情で木剣を打ちあう二人の姿を見て、そこに至るまでの道のりを想像し、ニオ達は気が遠くなる。


「あんなんがいたら、比べられる俺らの成績下がりそうな」


 あまり歓迎しないそぶりのライドの言葉だが、ニオは反対意見として利点を述べる。


「そう? ニオは良かったと思うけど。あの二人と友達になっておけば強くなれそうだし」

「腹、黒いのな、アンタ」

「え? ニオのお腹は肌色だよ?」

「分かってて言ってんの? それとも天然なの?」

「あれ、あの人何やってるんだろう」


 ニオは離れたところにいる男子生徒の方を見て呟く。

 備品を管理している生徒に突っかかって木剣をひったくったようだった。

 そして、


「「あっ」」


 ニオとライドの声が重なる。


 信じられない事にその人物は、打ち合いの最中である二人の間に割り込みにいったのだった。





 未だ気の抜けない攻防の最中だったステラとツェルト。

 その二人の間に突然人が割り込んだ。乱入者だ。


「いた……っ!」


 ステラとツェルトとの戦いに乱入してきた人物のせいで、ステラはツェルトの一撃を手首にもらってしまった。


「ステラ!!」


 ツェルトはこちらの名前を呼びながら駆け寄って来ようとするが、立ちはだかった乱入者に阻まれてしまう。


「何だ、今年の新入生は面白そうなもんがいんじゃねーか。どうだよ、一戦俺とやってみねーか」


 その人物はどうやら好戦的な人物らしかった。

 ツェルトへ向けて、そんな言葉をかけている。

 まるでいい見世物でも見たとばかりの態度だ。その人物へと、視線を向ける。


 黒紫の長髪に血の様に赤い瞳をした男だ。制服は着ておらず、盗賊と言われてもおかしくないような格好をしている。全体的に触れたら噛みつかれそうで、野生の猛獣のような雰囲気を纏わせている。そして彼は、周囲の人間と比べても一目で分かるくらいの大きな体格だった。


 新入生、と言うからには先輩なのだろう。

 悪い先輩の代表例みたいな人間がいたようだ。


 もっとも、主人公に一秒でノックアウトされそうなチンピラなのではなく、黒幕や強敵に分類される方に見えるが。


「そこどけよ」

「どいてほしかったらどかしてみんだな」

「この……」


 険悪な様子でその人物と言いあうツェルト。彼を止める為に、声をかける。


「やめなさい、それを受けたら貴方まで同類になるわよ」


「それより、保健室に早く連れていってくれない?」と、手首の怪我を引き合いに出してそんな風に声をかけてやれば、ツェルトは大人しく引き下がった。

 乱入者はつまらなさそうな顔をしてその場を去っていく。


「はっ、いつか実力を確かめさせてもらうからな」


 だが、よっぽどツェルトの力が気に入ったのか、そんなセリフを残すのを忘れなかった。


 貴方、今確実に変なのに目をつけられたわよ。


 まあ、それもステラに付き合わされたせいなのだから、他人事のようには言えないが。


「ステラ、早く保健室に行きたいんだよな」

「え、まあ、そう言ったけど」

「よし、とっとと行くぜ。捕まってろよ」

「えっ、ちょっ。きゃぁっ。何して……」


 だが、ツェルトはステラの言葉を大げさに受け取ったのか、お姫様抱っこして訓練室を退場していく。


 恥ずかしい。

 この体勢ものすごく恥ずかしい。


「見せつけてやったぜ」


 何に対して。


 これで余計な虫つかない、とかすごくやりきった笑顔をされたときはグーで殴ろうかと思った。

 だが心配されているのだと思うと実力行使はやりすぎだろうか、とためらってしまう。


 人のいない校内を移動していく中でステラは精一杯抗議の声をあげるのだが、聞こえないフリしているツェルトに恨みがましい視線を送る。


「貴方楽しんでるわね」

「ん、何か言ったか? 今ステラ堪能中でちょっと忙しいからな」

「いい笑顔で何言ってるのよ! 変なとこ触ろうとしてないでしょうね!」

「その手があった!」

「あったじゃないわよ!!」


 心配どうこうよりも、これはわざとかもしれない。

 ステラはそう思った。


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