がまずみ駅から徒歩5分、花屋の向かいの裏の路地

ろろろ

がまずみ駅から徒歩5分、花屋の向かいの裏の路地

 セミも本腰を入れてパートナーを求めだした、夏休み三日目の朝だった。

 このまま日差しを浴び続けると、体中の水分が汗として噴き出して死ぬんじゃないだろうか。玉のような汗はとめどなく溢れてくるのに、口の中は唾液でベタベタして乾き切っている。気持ち悪い。


 そんな考えを巡らせつつも、コウダイは自転車を漕ぎ続けていた。ムラカミの家に着いたらきっとクーラーの効いた部屋が用意されていて、ムラカミのおばちゃんが麦茶とおやつを出してくれるに違いない。勝手にそう思っているから水筒は持ってきていない。


 傾斜のキツい坂を上りきって右の平坦な道へ。体を少しでも冷ますために自転車を全速力で走らせる。温い風がシャツの中に閉じ込められて、ひとしきり暴れてから外に飛び出していった。『村上』の表札が見える黄色い壁の前で急ブレーキをかけると、コウダイの自転車がぎゅぎゅいと悲鳴を上げた。


 自転車のスタンドを立ててチャイムを鳴らす。りんごーんと電子っぽい鐘の音。それが鳴り切る前に「はい」とおばちゃんの声が聞こえてきた。

「あ、コウダイです。リョ――」

「はいはい、ちょっと待ってね」

 自転車のブレーキ音が家にまで聞こえていたらしい。おばちゃんはかぶせ気味にマイクを切り、玄関まで近づいてきた足音が鍵を開けてくれた。


「コウダイ君すっかり焼けたわねえ」

「練習ばっかりなもんで。――お邪魔しますっ!」

「はい、どうぞ」

 野球チームでいつもやってるお辞儀をおばちゃんにもきっちりとした。麦茶とおやつを出してもらうために、コウダイはおばちゃんに礼儀正しく振る舞う事を欠かさない。


 二人は玄関に上がった。散らかったムラカミの靴の隣に、自分の靴を揃えておく事も忘れない。開きっぱなしのリビングから流れてきた冷気がたまらなく涼しかった。

「リョウちゃんは二階にいるよ」

「分かりました!」

「毎回ちゃんと靴揃えるの偉いわねえ。リョウちゃんにもちゃんと揃えろって言ってあげて」

「はーい」


 苦笑しつつふわっとした返事をする。最近おばちゃんのおかげで、コウダイは愛想笑いが上手くなってきた気がしていた。

 愛想笑いができることは、少し大人に近づいているみたいで嬉しい。


 二階までの階段を五秒で駆け上がると、ムラカミの部屋が見えた。威勢よくドアを開けると冷えすぎた空気がぞわりとコウダイの肌を撫でた。既に到着していたベーヤンが小さなテーブルの前で胡坐あぐらをかいていた。部屋の主であるムラカミはベッドで毛布にくるまっていた。


「お前遅いねん」

 ベーヤンが苛立たしげな目つきをコウダイに向ける。コウダイは下手くそに視線を泳がせ、大人しく座布団に体育座りをする。

「ごめんごめん。ちょっと扇風機で涼んでたら外出る気なくなってもてさ」

「言い訳になってへんしな」

「ごめんて……なんでムラカミみの虫みたいになってんの」

「寒いからね。毛布にくるまってるんだよ」

 そう言うムラカミの顔は、少し青白く見える気もする。本気で寒いようだ。


「ベーヤン温度下げすぎやろ。外から来た俺でも寒いわ」

「ベーヤンは太いからねぇ」

「うっせ」

 けろりと毒を吐いたムラカミに、ベーヤンはすかさず反論した。

「こんぐらいが丁度エエやろ」

「でもゆきねぇが前部屋入ってきたとき『寒っ』言うて帰っていったやん」

「そう言えばゆきねぇは今日おらんの? 水泳?」

「いないよ。部活」


「ええなあ、ゆきねぇ水着着たら絶対マジエロいやん。俺も弟になりたいわ」

「最低かエロ魔人。人の姉貴エロい目で見んなよ」

 コウダイはベーヤンに汚いものを見るような視線を向けて突っ込んだ。この間ゆきねぇと人生ゲームで遊んでもらったとき、ベーヤンの隣だったコウダイは彼の股間にテントが張られていたのを思い出す。恐らくゆきねぇも分かっていたのではないだろうかと思うが、それはそれでゆきねぇの意地も悪い。


「まあベーヤン照れてダンマリだったから。姉ちゃんも『べーちゃん可愛い』って言ってたよ」

「黙れムラカミ」

 ベーヤンは分かりやすく不貞腐れたが、コウダイからは伏せた口元が少しニヤついているのが見えた。


「実際従兄弟なんて弟みたいもんだし。ねえ?」

「弟が言うな」

 コウダイが突っ込むと、ベーヤンが何かを思い出したように話を切り出した。

「そういえばさ、最近ゆきねぇのおっぱいよりもっとやばい事あってん」

「僕ん家に召集かけたのってそれ話すためじゃなかった?」

「やばいって何なん? エロいってこと?」

「コウダイまだガキやからエロいの嫌いやろ。こないだ公園にエロ本捨てられとったときも一人だけ頑なにそっぽ向いて離れとったし」

「ガキとかちゃうねん。めちゃめちゃ興味持っとるお前らのんが意味分からんわ」


 コウダイは当時のようにベーヤンから顔を背ける。

「……で。ベーヤンの言うやばい事って何?」

 ムラカミは話を本題に戻したが、適当に床に落ちていた漫画をつまみ上げて読み始めた辺りさほど興味がありそうではなかった。

「こないださ、めっちゃエロくてキレイな裸の女が道歩いててん」

 ぐりん、と。二人の視線がベーヤンに向けられた。しかし、ムラカミはすぐに漫画に向き直り、コウダイもムラカミの本棚を漁り始める。


「それは盛りすぎやろベーヤン」

「嘘は駄目だよ」

「ほんまやし! オカンの実家の近くで見てん! 今回はガチ!」

「いつもはガチちゃうんかい」

「そ、それは……あーっと……」

 口を滑らせたベーヤンに、コウダイは重ねて冷たく返した。


「いいから早く続き教えてよ」

 ベーヤンを急かしたムラカミは、くるまっていた毛布と漫画を放り出して、そこそこの衝撃とともに座布団に着地した。

「裸の女がおるとかそんな噂聞いた事ないで。それどこの話よ?」

「ガマズミ駅から歩いて五分くらいのところやねん。花屋があんねんけど、そこの向かいの裏の路地」

「ややこいややこい」

「でも割と行けちゃうよね。この辺からでも電車で二駅隣だし」

 ムラカミがぽろりと零した一言に、ベーヤンがぎらりと目を光らせた。


「一緒に見に行かへん?」

「は? マジで言うとるん?」

 真っ先に難色を示したのはコウダイだった。ベーヤンがすかさず悪い顔で茶々を入れる。

「コウダイビビっとるやん」

「ビビってへんけど普通にヤバイやろ。全裸の女て何考えとるん分からんし」

「やっぱりビビっとるやん、だっさ」

「は? ビビってへんし」


「僕はちょっと見てみたいなぁ」

 喧嘩腰の二人をたしなめるように、ムラカミが意見を述べた。

「マジかよムラカミ」

「だってマジのおっぱい見られるんだよ、凄くない?」

「ないやろ」

「や、でもマジで触れるかも知れんで。だって露出するとか絶対に〝チジョ〟やろ。しかもゆきねぇよりおっぱい絶対デカかった」

「……マジで?」

 コウダイが唾を飲む。


「お前今ちょっとエエなって思ったやろ」

「思ってへんし」

「決まりな、明日一時にオオデマリ駅集合」

 コウダイはげんなりした表情を浮かべたが、ムラカミは既に乗り気でベーヤンと一緒にベッドで踊りだしている。こうなるともう止められない。

 ベーヤンの素直に膨らんだテントが、コウダイには女への期待値の高さに見えた。


      *


 翌日、三人は電車に揺られてガマズミ駅に辿りついた。

 駅にはほとんど人が居らず、『蒲染がまずみ駅』の看板はすっかり剥げかかっている。駐輪場は雑草が目立ち、駐められている自転車も荷台がすっかり錆びたり、蜘蛛の巣が張っているようなものばかりだった。


 宇宙までも立ち昇っていきそうな入道雲は、太陽を隠す気が全くなかった。じりじりと、駅前に立つ三人を照りつけている。

「田舎はどこまで行っても田舎やな。過疎過疎や」

 コウダイが坊主頭に汗を滲ませながら呟いた。

「ちょっとジュース買ってもいいかな? 水筒忘れちゃった」

「ちょっと俺も飲ませてな」

「ジュース乞食かよベーヤン。お前水筒持ってきとるやろ」

 コウダイが呆れた目線をベーヤンに向けた。


「ちぇ、余計なこと言うなよ」

「あ、大丈夫だよ。お母さんからちゃんと三人分のジュース代貰ってるんだよね」

「神やん」

「おばちゃん優しすぎ……またお礼言わなあかんな」

 その時、小銭入れを取り出そうとしたムラカミのショルダーポーチから布のようなものが舞い落ちた。ベーヤンがすかさずそれを拾い上げ、それを見たコウダイがぎょっと目を見開く。淡いピンク色の薄い布で、腰周りに花のような模様があしらわれたそれは明らかに女性もののローライズだった。


「パンツやん」

「え? あ、姉ちゃんのパンツ落とした」

「え、ゆきねぇのパンツなん? マジ?」

 ムラカミの返答に、ベーヤンは興奮を隠し切れない様子だった。


「なんでそんなもん持ってきてんねん! しまえしまえ」

「いや、女の人裸だって言うから、なんか可哀想だなと思ってブラと……」

「〝チジョ〟が素直に履くわけないやろ!」

「え、ブラもあるん?」とムラカミの切れ切れの語尾を聞き逃さなかったベーヤンが反応した。

「触る?」

「触りたい」

「きっしょベーヤン」

「黙れって。どうせコウダイも触りたいんやろ」

 ムラカミからゆきねぇのブラを受け取りながら、ベーヤンが悪そうな顔をする。


「コウダイも触る?」

「さわ……触らへんわ!」

 結局駅前で三十分以上を要し、ムラカミがスポーツドリンクを、ベーヤンとコウダイがコーラのペットボトルをそれぞれ買ったところで、三人はベーヤンを先頭に歩き出した。



「ほら、そこに花屋見えるやろ」

 駅からぐねぐねと新しめの住宅街へ南下し、右手奥に見えてきたのは『フラワーショップカネヤ』の文字だった。

 花屋の向かいの裏の路地。つまり、今歩いている道からもう一本左隣の道へ行けば目的地だ。


「そろそろ着くな」とベーヤンが後ろの二人を振り返る。

「お土産に花でも買っていく?」

「お見舞いちゃうんやぞ」とムラカミの天然ボケをコウダイが冷たく突き放した。「そう?」とムラカミは納得がいっていないようだったが、それ以上は続けなかった。


 昼の二時前とは思えないドス黒さの雲に、コウダイが眉を曇らせる。

「なんか曇ってきとんな……通り雨降るんちゃん」

「駅まであんまし屋根らしい屋根も無かったよね。急いだほうがいいかな……」

「そうやな、パッと見て帰ろうや」

「ほんなら行こ」

 ベーヤンが再び歩き出し、二人がそれに続いた。十字路を左に曲がり、右側に見えた最初の道に入る。


 気味の悪い道路だった。先ほどまでとは打って変わって汚い家々が行き止まりまで連なっている。右手側には崩れ落ちそうな二階建てのアパートが建っていて、階段は露出している全ての金属部分が錆びていた。電柱の端々にはそこそこ伸びた雑草が顔を出している。走る少年の形に切り出された『飛び出し注意』の木製看板は、長年の劣化で片腕がもげてしまっていた。


「なんか急に怖い道やな」

「こんな所にベーヤン一人で来たんだ……すごいね」

「裸の女おらんな。前はあの一番右奥の雑草生えまくっとる家の前におったんやけどな……」

 ベーヤンがずんずんと歩き出し、コウダイとムラカミもその背中に貼りつくように続いたが、行き止まりまで誰もいなかった。


「結局誰もおらんかったなあ」

 そう言って振り返ったベーヤンの顔が、目を丸くして凍りついた。コウダイとムラカミもそれを見て、振り返った。

 距離は二メートルもなかった。

 全裸の女が、そこにいた。



 ぶぅわと、コウダイは全身が毛羽立つようなおぞましさを感じた。

 気付けば曇り空に光は遮られ、薄暗くなってしまった不気味な裏路地。遠くからくぐもったアブラゼミの鳴き声。そこだけはどこか非日常的で、目の前に一糸纏わぬ女がいることに三人は一切の違和感を覚えなかった。恐ろしいほどに女は風景に馴染んでいて、そこにいるのがさも当然のように佇んでいた。


 ベーヤンの言っていたことは八割方間違っていた。胸こそゆきねぇより大きく形が整っているものの、餓鬼の様に栄養失調気味にやせ細っている。肩甲骨辺りまでボサボサに伸びた髪のキューティクルは皆無。モデルばりにすらりと高い身長も極端な猫背で台無しだった。顔は幸が薄そうで目と鼻は小さく、頬骨が出っ張っていてお世辞にも美人とは言い難い。全体的に弱く青白い雰囲気を漂わせる女だった。


 コウダイは両隣で震えるベーヤンとムラカミの股間に目をやった。

 自分だけだ、と思った。コウダイの短パンで窮屈そうにしている突起が今にもはち切れそうだった。

 ふざけんな、お前らが言い出しっぺの癖になんで俺だけ勃ってんねん。なんでこんなブスにガチガチやねん。どうにかしてこれ隠さんと。


 心臓が早鐘を打ち、血が巡り、うるさいほどに言葉が次から次へと浮かぶ。しかしコウダイもムラカミもベーヤンも目を剥くばかりで、荒ぶっていく呼吸とは裏腹に口は一ミリも動かさなかった。

 緊張し、震え続けるコウダイのブツを除いて、三人は身じろぎひとつできなかった。


 ベーヤンが小さく「でっけ……」と呟いた。明らかに目線が女の乳に向いていた。ピンポイントで向いていると分かるくらい、あからさまで開けっぴろげな視線だった。女は意にも介さない。

 女は無言でコウダイの方に歩み寄った。そうであることが自然であるかのように、柔らかくコウダイの両肩に真っ白な手を置いた。

 固定した。

 ぴちゃり。

 女の舌が柔らかく、コウダイの額に触れた。


「いっ」

 女の舌が何度もコウダイの眉上と髪の生え際を往復する。愛犬がじゃれ合って舐めていると言うよりは、何かをじっくり吟味してねぶるような、いやらしさを感じさせる舐め方だった。

 額が唾液まみれのべたべたになっていく。

 臭い。

 気持ち悪い。

 でも――。


「あうっ……ん……」

 女はゆっくりと、どこか構ってほしいようにコウダイの額を舐め続ける。ねっとりと苛められる女のような声が出てしまう。

 快楽と共にコウダイのそれは硬度を上げ続けて、異変が生じる。

「あ……う――、やばっ」

 そう言うとコウダイはぶるりと身震いをして腰を抜かしてしまった。

 こみ上げてくる、出してはいけない何かを漏らしてしまった感覚に、コウダイの顔が真っ青になった。


 棒立ちでそれを見たベーヤンがふと我に返る。

「このクソアマっ」

 ベーヤンが普段見せない機敏さで女の脛を蹴り上げた。つま先が直撃した。

「ギッ」

 奇声と共に女が怯んで、守るように両手で脛を押さえてしゃがみこむ。

「コウダイ立て、逃げんぞ! ムラカミも!」

「わ、わかった!」


 ムラカミがコウダイを立つよう促すと、まだ足取りの覚束ないコウダイもすぐさま走り出す。が、彼のモノはまだ勃起したままだった。

「走りにくっ」

 三人は女の脇を抜けて、裏路地を一目散に逃げ出した。

 女は追ってこなかった。


      *


 ぶすぶすと焦げた音の鳴りそうな曇り空だった。叩きつけるような雨が振るのも時間の問題だ。

「やばかったな……。エロかったってかキモかったな」

 結局、三人はガマズミ駅前の駐車場まで逃げてきた。閑散とした砂利の駐車場で、三人の小学生が息を切らしていた姿は少し不自然だっただろう。暫くしてコウダイとムラカミはもうけろっとした顔をしていたが、ベーヤンはまだ息が上がったままだ。


 スポーツドリンクを飲んだムラカミが「温っ」と口走ったあと、コウダイを向いた。

「コウダイめちゃめちゃ舐められとったな」

「ほんまにヤバかったわ――うわ臭っ」

 額を人差し指でなぞって嗅いだコウダイを見て、残りの二人が可笑しそうに笑った。

「なんでコウダイばっかり舐められとったんやろな」

「分かんない。坊主だからじゃない?」

「じゃあ髪伸ばしたろかな」

 今度は三人が笑った。心からの安堵だった。


 しかし、コウダイから視線を落としたベーヤンがぎょっとする。コウダイは黄土色の短パンを履いていたので、股が濡れているのは一目瞭然だった。

「げ、お前まさか漏らしたん? 汚っ」

「な、舐められとったら、ちょっとやばかってん」

「まあまあまあ。ベーヤンも舐められてたら多分似たようなことになってるでしょ」

「なるか!」

「コウダイ、とりあえず駅のトイレでパンツ履き替えたら? 気持ち悪くない?」


 怒り散らすベーヤンからコウダイに向き直って、コウダイに姉のローライズを突き出す。

「気持ち悪いけどまさかこれに履き替えるん?」

「仕方ないでしょ。姉ちゃんには黙っとくし、こっそり洗ってまた返してくれたらいいし」

「……分かった、借りる」

 少し考えた素振りを見せた後、コウダイはムラカミの持つローライズをひったくるようにして駅のトイレに消えていった。その背中を見て、ムラカミが呟く。


「ベーヤン。何かあいつ、変な臭いしなかった?」

「ぶっ」

 ムラカミが投げかけた疑問に、ベーヤンは何かが決壊したようにゲラゲラと笑う。ひとしきり笑い終えて、ようやく言葉を返した。

「やっぱり? あー、おもろ」

「何がそんなに面白いの?」

「そらあいつ多分――」


      *


「きっしょ……」

 トランクスのそれを見つめていたコウダイは気持ち悪くなって、洋式便器裏の地面にトランクスを隠した。回収するつもりはさらさら無い。

 まさか、あの女に舐められて?

 でも、確かに自分だけはあの気持ち悪い女を前にして永遠に短パンにテントを張り続けていた。


「きっしょ」

 視線は握り締めたゆきねぇのローライズに移る。

 一度は触るまいと突き返したパンツが、今はコウダイの手元にあった。

「ええんかな」

 声に出してみる。

 咎める人間はこの個室トイレには誰も居ない。

 意を決したコウダイは、ゆきねぇのローライズに脚を通して腰まで引き上げた。


 これがまともな経験でないことは、十一歳のコウダイでも重々把握していた。

「あっ」

 女に舐められたときと、同じだ。

 むくり。と、コウダイは落ち着いていた股間のものが再び起き上がってくるのを感じた。

 忘れられない、むせ返るような夏の昼下がりだった。



 [Blooming!!]




原作:3140円

執筆:ろろろ

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