第514話 ジュンパクは弱い者


 「ガシャァァァア!」


 「【限界突破】!」


 お互い同時に動き出す。


 キングタナトスはドスドスと地面を抉りながらまっすぐジュンパクの方へ。


 一方ジュンパクは数メートル先にあった自分の武器を回収して観客席の方へ飛び込んだ。


 「なるほど、正面からの戦闘を避けたか」


 上空から見える空間を作って下を見下ろしながら2人の動きを観察しているツクヨミ。


 「ガシャァァァア!」


 しかし、スピードはキングタナトスの方が圧倒的に上。

 ジュンパクはそれを直角に曲がって避けていく。


 「観客席まで再現したけど、うまくそれを利用してくれてるね」


 「どう思う?君は」


 「……」


 ツクヨミの横で沈黙し下を見ているヒロユキ。


 「助けに行かないのかい?」


 「……サシの勝負に手助け不要」


 「ふーん、別にいいけどさ、死んじゃうよ?あの子」


 「……」



 ジュンパクはある程度逃げ回り次の行動に出た。


 「【ウォータースラッシュ】!」


 「ガシャァァァア!」


 水はキングタナトスに当たったが意味をなさない。


 「【炎弾】」


 続いて火の玉。


 「ガシャアァァァア!」


 「【雷落とし】」


 キングタナトスの上の魔法陣から出てくる雷も効果なし。


 「ガシャァァァア!」


 「【ウィンドブラスト】」


 強力な風魔法を使うがキングタナトスの巨体は止まらない。


 ジュンパクはキングタナトスの攻撃をかろうじて避けながら数々の魔法を撃つ。


 「フッあれが彼の戦闘スタイルか」


 「……」


 そんなジュンパクを嘲笑うかの様に上から見るツクヨミ。


 「確かにどの魔法も精密で狙いも悪くない、人間ならば上位の人間だろう、だけど、勇者の側近にしては普通だね、普通普通、ノーマルすぎてつまらない、この程度の戦闘なら僕は暇つぶしで何回も見てきたよ、人間の枠を外れていない戦い方なんてつまらない」


 「……」


 「いやはや、愛の力なんて言うからもしかしたらって思ったけど……とんだピエロだね、それともそんな不確定なフワッとした力なんてその程度だったのかな?」


 「……だまれ」


 静かにヒロユキは言った。

 だが、ツクヨミは聴こえていない様だ。


 下のジュンパクはキングタナトスの攻撃をくらって反対側の観客席まで弾き飛ぶ。


 「見え見えの戦略、次に来るのはきっと」


 「「鎖の回収」」


 ステルスで隠していた鎖鎌の鎖が一気に回収され、キングタナトスの足を絡め取った。


 「ガシャァァァア!?」


 「もはやミーの十八番なんだよね、これ、ワザと大袈裟に飛んでみたけど、どうだった?とりゃ!」


 ジュンパクが鎖を回収していくと足に絡まったままのキングタナトスはその場で転倒して巨体が引きづられる。


 「あの状態の武器をよく使いこなせている、確かに人間の中ならとんでも武器だろうね、鎖をひっかけて引っ張り回すのにまったく持ち主の力は使わないから、そこを使った戦法も彼の基本……だけど」




 「ガシャァア!」



 「!?」



 キングタナトスは2本の尻尾の先を剣の刃に形状を変え……



 __鎖を容易く切った。



 「う、うそでしょ」


 「ガシャァァァア!」


 驚くジュンパクを「あーあ」と言ってつまらなさそうに見るツクヨミ。


 「神の武器には神が宿ってこそ本領を発揮する、言ってしまえばあの程度の能力なんて人間があと何百年かしたら作れる、相手はこの島で生きる【死の神】タナトスだよ、あんな不出来な武器を壊すなんて造作もない」


 「……」


 ジュンパクはひとまずまた逃げ出す。

 

 キングタナトスの攻撃パターンも変わり避けるのに必死みたいだ。


 「まーた逃げてるよ、もういいよ、飽きた……彼には悪いけどこれ以上は無駄、このまま逃げ続けて身体が限界を迎えて終わり、さて、僕達はさっきの続きを____」


 「黙って見てろ!」


 「っ!?」


 ヒロユキは怒り声を荒げ、ツクヨミを見る。


 「……お前はジュンパクの何を知っている」


 「は、は?何をって、知らないけど」


 「……さっき、俺の側近にしては普通と言ったな?」


 「あ、あぁ、言ったさ」


 「……それはアイツ自身がよく知ってる」


 「?、なんだい?肯定するのかい?」


 「……肯定するさ、それがアイツの強さでもあるから……アイツはみんなの前では笑顔にヘラヘラして接してるが俺は知っている、みんなが寝ている時、自分の部屋で籠もって鼻血が出るほど脳を回転させてあらゆるパターンの敵との作戦を立ててることを」


 「……」


 「……自分が強くないと、そんな自分が嫌いだと、才能がない自分が嫌いだとコッソリ涙を流してることも」


 「だ、だから何だって言うんだい、強くないから頭を回すしかない、自分が弱いから嫌いだと泣いてるだけじゃないか」


 「……だけど、弱音吐いても血反吐吐いてもアイツは諦める事は無かった」


 「……」


 「……あらゆるパターンを想定してもそれを超えてくる魔王達、だからもっと考えるんだって頭を悩ませた」


 「……」


 「……弱いからと諦めるんじゃなく、毎日魔法を勉強したりトレーニングをかかさずおこなって魔法の精度を高めていた」


 「……」


 「……弱い者が強いと思えばそこまでだ、だが、弱い者が弱いと自覚し生きていれば、いつか気付かない内に強いものを超えている」


 「……」


 「……その時が“弱い”が“強い”を制する瞬間だ、その弱い者は強い者を置き去りにしていく」


 「努力は実を結ぶ、そう言いたいのかい?」


 「……その言葉では片付けられないな、何しろアイツの努力は……常人を遥かに超えている」


 





 ドゴオオオコン、とコロシアムからまるで隕石が落ちたのではないかと言うほどの音が聞こえてきて、ツクヨミは下を見る。




 「!?」



 そこには、コロシアムの中心で背中から倒れたキングタナトスの姿があった。




 






 「……だからお前は黙って見ていろ……“弱い”が“強い”を超越する瞬間を」







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