第462話 バンガと弟
「…………」
あかりも付けずに大きな道場真ん中にバンガは正座して目を閉じて瞑想していた。
「…………」
壁には1枚の掛け軸が飾られており、黒い狼と白い狼がお互いを睨み合っている絵が描かれている。
道場の窓から月明かりが入ってくる……
「俺の甘さだ……あの時、首を斬り落としていれば良かった」
何も誰も気配もない暗闇に目を閉じたまま語りかける。
「…………返事はせぬか……ならば!」
バンガは隠していた弓を展開して矢を打つ。
矢は暗闇の中へ音もせず飛んでいき____
カンッ
と奥で一瞬火花が見えた後バンガの元へ帰ってきた。
「お久しぶりです、兄者」
「ふん、そのおぞましい姿で言われても誰かわからんわ……レナノス」
暗闇から静かに音もなく出てきたのは身体のほとんどが魔法機械の獣人だった。
「どうして生きている」
「この姿を見て生きていると?」
「ふん、確かにな」
「兄者、生きるとは何でしょう?」
「……」
「俺は死に行く意識の中で「生きたい」と思った……数年経ちこの身体で生き返った」
「……」
「そして俺はハネトン師匠と、この世界を旅をした」
「貴様はこう言いたいのか?“生きる意味を知った”と」
「あぁ……この世界は広いぞ、兄者」
「だからどうした、俺には関係ない!」
バンガは弓を構えて実の弟、レナノスに向ける。
「兄者!」
「我が一族の掟を忘れた訳ではなかろう!あれが本当はただの後継の決闘ではないことを!」
矢を発射され、それをレナノスは弾き壁に刺さる。
「我が一族はただの奇跡が生んだ種族だ、悪しき風習など__」
「悪しき……だと?」
その言葉を聞き、バンガは本気で殺意を向けた。
「貴様はやはり死ぬべきだった様だ」
「……変わらないな、兄者……昔の俺を鏡で見ている様だ……」
レナノスも一本の小刀を取り出して構える。
「まるで世界を見てきて変わった様な物言いだな」
「あぁ、変わったよ兄者、考えも……そして力も」
レナノスの手の甲に紋章が浮かび上がり光出し、そして____
「っ!?」
暗闇にレナノスは消えていった。
「(目で追っていたのに消えた……気配もない……だが奴は居るはずだ、ならば!)」
「【跳ね矢】!」
バンガは矢を8本周りの壁に向かって撃つと矢は青い光を放ちながら壁を反射して道場内を跳ね回る。
ガキンッ
と、また弾く音が聞こえた!
「そこか!【爆矢】!」
しかし矢は何も手応えがない。
「っ!」
気がつけばバンガの後ろに回ったレナノスが首に小刀を突きつけていた。
ワザとわかる様にしたのだ、このまま気配を消して首を斬っていれば殺ろさた事すら後で気づいていただろう。
「兄者、あの時……ワザと俺の首を斬らずにいてくれてありがとう……さようなら」
そう言ってレナノスはまたどこかへ消えていった……
「……」
バンガは自分の首を触りながら感触を確かめながら呟いた。
「世界、か……後は弟を頼んだぞ、ヒロユキ」
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