第359話 魔王【メイト】

「......ん......にゅ」

  

 ユキはゆっくり目をあける。

 出来れば夢であってほしい、起きたら知ってる部屋であってほしいとおもいながら......

 だが、現実は非情だ。


 目を明けると空に見えるのは月と星......そして地面には土の感覚。

 つまり何も変わっていない......とユキは思ったが一つ変わってるところが


 「......起きたか」


 「にゃ!?」


 ユキは飛び起きてその人物を見る。

 だがその人物はユキの知ってる人物だった!


 「あ!お兄さんです!です!」


 「......」


 そう、ユキをアバレーからミクラルに送ったのはこの【勇者】ヒロユキである。

 ヒロユキは今は装備をしていなく、格好は黒い軍服の様なものを着ている。


 「お兄さんですー!」


 ユキは知ってる人大人の人が居て嬉しくなり裸でヒロユキに抱きつく。


 「......」


 そのままヒロユキは何も言わずにユキを抱き抱えて脱げ落ちたワンピースでユキをとりあえず包み込む。


 「えへへ、助けにきてくれたですか!」


 しかしヒロユキは首を横にふった。


 「え......じゃぁお兄さんも......」


 「......すまない」


 ユキは一瞬辛い顔を見せたがすぐに笑顔をヒロユキに向けた。


 「大丈夫です!一人より二人!二人より」


 「......大勢?」


 「おぉ!そうですです!おかぁさんが言ってました!」


 「......アオイが?ふむ......」


 「それより、ここはどこです?ミイちゃんは?」


 「......ミイちゃん?」


 「ミイちゃんはお友達です!おかぁさんと同じ髪で大人になったら......おかぁさんと同じくらいおっぱいが......」


 「......?、解らないけど、まだ君以外に会ってない」


 「そうですか......これからどうしますです?」


 「......調査する、この道は俺たちを呼んでいる」


 「呼ぶです?」


 「......うん、君はどうする?」


 「ユキは......」


 ユキは寝る前までの事を思い出す。

 

 「一緒に行くです!」


 「......わかった」


 ヒロユキはそれ以上なにも言わずにユキを抱えて歩き出す。

 

 「ねぇねぇ、お兄さんの仲間はどこです?」


 「......わからない」


 「一人です?」


 「......うむ」


 「どうしてです?」


 「......わからない」  


 「好きな食べ物とかあるです?」


 「......わからない」


 「むう!お兄さんお話つまらないです!」


 「......」


 そんな話をしながら歩いていくと


 「あ!なんです!あれ!」


 「......ピラミッド?」


 歩いてる先に一つの大きなピラミッドが見えてきた。


 「ぴらみっど?なんです?それ」


 「......元居た世界にあったもの」


 「?????」


 「......(どういうことだ、しかし行ってみるしかないだろう)」


 「お兄さん?」


 ヒロユキは自分の方腕の袖を破って器用にユキの両足に巻き付けて簡易な布の靴下にしてユキを降ろす。


 「......ここに居ろ、中は危険だ」


 「嫌です!一人はいや!です!」


 「......」


 ヒロユキは困った顔をするがユキはお構いなしにギュッとヒロユキの足に抱きつき離れない。


 「やーぁー!一人は嫌です!」


 「......はぁ......」


 ヒロユキは諦めたのかため息をついて歩き出してユキはついていくが何も言わない。


 





 そして、特に会話もないままピラミッドについた。




 「あ!人ですよ!人です!」


 「......」


 ユキが歓喜の声をあげて手を降って行くが、ヒロユキは警戒を解いていない。


 「(......こんな所に人が一人だけしかいないのはおかしい、罠を警戒したほうがいいな)」


 二人でその人間に近付くと見た目は普通の20歳くらいのエジプトの民族衣装を着た女の子だった。


 その女の子はヒロユキ達が近付くとニッコリと笑って問いかける。


 「ようこそ、ここはあなたの罪深さを試す場です、もしも罪が深くなければあなたの願いをなんでも叶えてあげますよ」


 「(......こいつ)」


 ヒロユキは言葉よりも女に対して違和感のほうが気になった。

 何かを感じている。

 そんな中ユキは無邪気に質問をする。


 「ここはどこです?」


 しかし、女はまったくユキを見ずに


 「それは願いですか?」


 と答える、それからユキの質問は全て同じ言葉で返され出す。


 「むぅ!むぅ!」


 「............どうすればいい」


 ヒロユキは仕方なく女に聞くと女はヒロユキを見て

 

 「こちらへ」


 と言ってピラミッドに入っていった。


 「......来いと言うことか」


 そのままヒロユキとユキは付いていく。

 ピラミッドの中は何本もの松明で照らされ不気味ながらも明るかった。


 ......そして



 「......こ、これは」


 「な、なんです!?」


 ピラミッドの中、通路をまっすぐ進んで出てきた大きな部屋には大きな大きな金色の天秤があった。

 

 「こちらへお乗りください」


 案内人の女が示すのは片方の天秤だった......ヒロユキの心の中の嫌な感じ......本能が乗るなと語りかけてくる。


 「...........断る」


 「なんと?」


 「......断るといった」


 「お兄さん?」


 「......下がってろ」


 ユキは只ならぬ雰囲気を感じて入り口の方に下がる。


 「乱暴はお止めください」


 「......それも断る」


 すると女は目を見開きヒロユキを、見て狂ったように言葉を繰り返す


 「お止めくださいお止めくださいお止めください乱暴はお止めください乱暴はお止めください......」


 そして最後に言った言葉はヒロユキの予想もつかない......いや、こんなに早く出会えるとは思っていなかった言葉だった。


 「お止めください乱暴はお止めください乱暴はお止めください......【魔王】様が見てますよ。」


 「......!!!」



 「良く来たな、【勇者】よ」


 ヒロユキの骨の髄まで響き渡る低い声が天秤の上からして見るとそこには


 黄金の服とアクセサリーを身にまとった黒い肌の青年が片目に天秤の紋章を出しながらヒロユキを見下ろしていた。


 「......魔王」


 「いかにも」


 そのまま、宙を浮きヒロユキの前に立つ。

 

 「我は魔神様より【リブラ】の地位を貰った魔王、【メイト】。貴様の名は?」


 「......」


 「安心しろ、名を聞いてどうこうする訳ではない」


 「......ヒロユキ」


 「そうか、ではそこの小娘の名はなんと申すのだ?ヒロユキ」


 「......!?」


 「ワッ!な、なんです!?」


 魔王【メイト】がユキを見るとユキの身体が浮き出しヒロユキの所まで移動されてきた。


 「貴様、名は?」


 「ユ、ユキはユキです」


 「そうか、では勇者ヒロユキ、そして小娘、ユキよ......貴様らの魂は罪深くないか?」


 「......知らん」


 ヒロユキは攻撃しようにも出来ない。

 この状況、ユキをここまで運んできた事でユキが人質にとられてるという証拠なのだ、つまりメイトに取っての絶対領域。


 「安心しろ、この天秤は素直だ、貴様らが本当に罪深くなければお前たちの乗っている天秤は良い方向に傾くだろう」


 「......何と天秤にかけている」


 「良かろう、教えてやる」


 そういってメイトは手に一枚の魔皮紙を取り出す。


 「......?」


 「この魔皮紙は基準だ」


 「......基準?」


 「この魔皮紙はな、人間の皮百人で作られたものだ」


 「......!!」


 「当然、他にもストックがある、貴様達はこの百人分の魂の罪より重いか」


 「......貴様!」


 ヒロユキは我慢できずに殴りかかった!が


 「落ち着け」


 「......グッ!」


 「お兄さん!?どうしたです!?」


 ヒロユキは突如見えない何かが全身おさえつけた感覚になり耐えきれずに倒れる。

 立ち上がろうとしても起きれないほど身体が重い。


 「話は終わりだ」


 「う、うわ!またです!?」


 「............」


 ユキとヒロユキが浮く......まるで【重力を操作しているみたいだ】


 そして二人とも天秤にのせられ。








 「さぁ、お前達はどれだけ汚れているか」













 天秤が動き出し。






 結果は魔皮紙よりも遥かに重い位置で止まった。



















 「これほどの罪とは......知らないと言うのは恐いものだな」















 「罪深き者よ、魂を改めよ」









 















 





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