第351話 みんなで囲って楽しいお鍋!

 「黒猫のパンケーキつくろ~♪ふんふふーん♪」


 焚き火の上に良く子供向けアニメで悪の魔女が使ってるような鍋を置いてくるくると大きな木ヘラで回している。


 ......あれから無事に四人で拠点まで帰れた、もう現在は空に一杯星がキラキラと光って綺麗だ。


 「味見味見、いい出汁でてるかな?」


 鍋の中には捌いてくれてた【沼鋏】のお肉が入ってる......ここまで捌いてくれたらもう料理の具材にしかみえないから大丈夫。


 味見用の小皿を転送魔皮紙から転送してもらって鍋の汁を救うと程よい黄色かかった汁の上に脂が少し浮いていて蟹の肉に似ているこのお肉からの出汁は臭みがほとんど無い。


 「ん......よし!」


 飲むとほわわっと蟹の濃い味が広がってあっさりしつつそれでいてドッシリとした感覚が舌を刺激する。


 「さて、これをベースに改良していきますかね」


 他の三人は少し離れた所で馬車の方に荷物を詰め込んでくれたり自分の装備の手入れをしてくれていて仮面をしてる俺が料理をしているのをチラチラと時々見ている。


 「さて、まずはやっぱりこれだよね」


 転送魔皮紙を鍋の上で逆さにして魔力を通すとどんどん《モロシイタケ》が出てきてポチャポチャと音を立てながら鍋に大量に入っていき、数分混ぜると当たり一面に良い匂いが漂い出す。

 

 「子供の頃はこの匂いは美味しそうじゃなかったけど大人になってヤバイくらい食欲をそそる匂いになったんだよなぁ」


 とりあえず出汁をまた味見する......一番怖いのは《モロシイタケ》を使ったことでお互いの味が喧嘩してどっちつかずな味になることだが、流石同じところに住んでた仲。


 「......う、うまい......」


 なにこれ......さっきの比じゃないくらいうまうま


 口に汁をいれた時、あっさりした所を《モロシイタケ》の風味がくわわり味が少し濃くなったがドッシリとした味のところを少し緩和してまろやかな味わいに......ラーメンに良くついてくるあのスプーンでこの出汁を飲むと止まらなくなって全て飲み干しちゃうだろう。


 「これだけでもご飯何杯もいけちゃうんだなぁこれが......」


 一応調味料を持ってきてたが完璧な味が出来たので今回はいらないな。

 そしてやっぱりこれでしょ!

  

 転送魔皮紙から予め持ってきてた野菜を取り出す。

 汁を良く吸って食べやすい《ヒクサイ》カットされた《長ヌギ》そしてシャキシャキとした食感の《メヤシ》!

 うん、みんなのよく知ってる鍋セット!あれに近い味の野菜達だ。


 「これを全部入れちゃいまーす!」


 さぁ!準備は整った!

 貴様らの真っ白な味にこの最高な味で上書きしてやるぜ!抵抗はさせない!貴様らが逃げる隙など与えない!このテリトリー(なべ)の中からは逃げれないぜ!フハハハハハハハ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「トララララ!!うっまー!」


 「やっぱり採れたてはうまいっチュね」


 「ウッシー!おかわりおかわり!」


 「一杯ありますからね!食べて食べて」


 キラキラ光る星空の中、グツグツと美味しそうな音を立てながらいい香りを放つ大きな鍋を囲う獣人達......絵本に出てきそうな絵面だな。

 

 それぞれが自分で装って食べている......うんうん、具材はいっっっぱいあるからね!取り合いにならなくてすむ。


 「ところで、あの魔法......あれは何っチュ?」


 「............」


 「あんな、大規模な魔法は見たことないッチュ」


 「トラララ!確かに!あの大きな【沼大蛇】を一瞬で動きを封じた魔法!気になるトラ」


 「ウッシシシ!あれならもしかしたら伝説の『蛇神様』も拘束できたりウッシ!」


 「あ、えーっと......」


 今まで冒険者パーティーを組んでバレた事は何度かあった。

 でも決まってこの魔法を見て次に言うことばはわかってる。


 「まぁ、秘密にしたいならいいッチュ......だけどあれがあればこれから先アヤカシ狩りが中心の《プラチナ》のランクでぜっっっったいに役に立つッチュ」


 「......」


 「チュー達のパーティーに入らないかッチュ?」

 パーティー勧誘。


 「......」


 「頼むっチュ!この通り!あの見たことない魔法!あれがあればこれから先......」


 「トラ!俺からも!」


 「ウッシ!」


 チュー太郎さんが自分の皿を置いて俺の前にきて頭を下げる。

 そしてトラ五郎さんもウシ沢さんも......


 俺に頭を下げて頼んでる三人を見ずにみんなの置いたとんすいを見つめる.....湯気がユラユラと出ている......あぁ、冷めちゃうなぁもったいない......


 「...........」


 「......」


 沈黙が続く。

 嫌だなぁ、飯が不味くなる......俺はそのまま沈黙を破って口を開いた......


 「昔、僕と一緒に居てくれてた人達が居て」


 俺は思い出す。

 奴隷の時の仲間達。

 ミクラルの子供達、先生達、メイド達。

 アバレーの道場の兄弟子、おじいさん、ユキちゃん。

 そしてスクールのみんな。そしてルカ。


 全員......


 「その人達全員、僕が原因で辛い思いをしてるんだ」


 これが俺の中に居る『女神』の影響なのかどうか解らない......だけど俺と関わった人は絶対に何かがある、だから


 「だから、僕は誰とも組まない」


 近くに人を置いとかない方が良いのだ。

 こんな俺と関わったらろくなことがない。


 「チュー達はそれでも!」


 チュー太郎さん達はひかない、それに断った以上美味しいこの鍋も美味しくなくなる。

 だから【私』はこうする......






 「みんな頭をあげて、こっちを見て?」



 俺はゆっくりと仮面を外す......

 

 「「「......」」」


 三人の顔は俺の顔を凝視して目が離せないみたいだ。

 きっと三人には俺の女の顔が見えている......くそ......俺が女と思われるだけで不快感が襲う。

 女......今まで抑えられてた分また末期の症状まで逆戻りしてる......

 あの女が憎くて憎くて吐きそうなくらい嫌いだった中学生の頃......


 

 そして、【私』は唱える。



 この魔法は唱える時に身体が勝手に動くのはなんとかならんのかな......





















 私は小指を下に向けて拳を握り、親指と人差し指を開いて鉄砲の形を作りチュー太郎さん達に向ける。































 そして......

 


















 「【魅了』」




















 「この顔と、さっきの魔法、そしてこのやり取りを忘れて美味しく楽しく、ご飯を食べましょ」











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