第350話 【万能糸』
じめじめした冷気が漂う暗い洞窟の中。
四人はそれぞれ何も言わずに進む。
「(それにしても【獣人化】って便利だなぁ)」
普通、冒険者ならば暗いところは光を発生させる魔法を使って進むのだが、四人ともそれは使っていない。
それと言うのも、獣人になってる間は暗闇でも見えているのだ。
「(普段動物がどんな風に見えてるか知らないけど、普通にどっかから電気ついてるみたいに見える)」
その代わり、全体的に見えるのでアオイ達は見たくないものまで見えている。
......骨と死肉だ。
「......」
それが人間のか獣人のかはたまた魔物のか解らないが、アオイ達にはくっきり見えている。
「(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏......ちょっとしたホラーだよ、まじで)」
天井から落ちる冷たい雫を受けながら歩いていきついに沼大蛇が姿を現した。
「(こ、こいつが【沼大蛇】......)」
アオイ達の数メートル先には広い洞窟の道の真ん中にとぐろを巻いた大きな二つの頭を持った黒い蛇が......
「(なんか、○リーポッターで出てきたバジリスクの二つ頭バージョンで怖いんだけど......てか寝てるの?本当に?目おもっくそ開いてるんだけど!?石になったりしないかな?)」
その地面についた二つの頭の目は開いているがアオイ達に気付いてる様子は無さそうだ。
「......」
「(!、あんなところに《モロシイタケ》が!)」
チュー太郎が指差した先は沼大蛇のとぐろを巻いているすぐ後ろの壁。
そこにはおびただしいほどの《モロシイタケ》がギッシリと壁に詰まっていた!
「(なるほど、これだけあれば匂いを放つからそれに釣られた【沼豚】を捕食......か)」
アオイはゆっくりと【沼大蛇】の横を通っていく......
チュー太郎達三人はある程度距離をとってその場でアオイを見守っている。
「(いつも通りすればいい......いつも通り......)」
アオイは細い【糸』を出すと【糸』は意思を持ちニョロニョロと地面を這って【沼大蛇】の一つの頭に入っていった。
「(よし!)」
通りすぎ様に【沼大蛇】を見るととぐろを巻いている身体がボコボコといびつな形をしていた。
【沼豚】か何かを食べて消化中だったのだろう。
「(食後の居眠りだったのか......夜行性って聞いてたけどなるほどここに居れば相手から寄ってくるもんな......)」
アオイは【沼大蛇】を無事に通りすぎて大量の《モロシイタケ》の前まで来た。
「(後はこれを届けるだけ......あと今日みんなで食べるぶんを!)」
アオイは転送魔皮紙でせっせかせっせか作業をする。
そして......
「(......よし!これで終わり!)」
無事に依頼は終了と思ったが。
「アオイ!避けるっチュ!」
「え......うわっ!」
本能的に何かが来るのを察して横に飛ぶとアオイの居た場所に風を斬った音と共に《モロシイタケ》ごと壁を壊した。
「ど、どうして!」
壁を壊したのは大きな尻尾......そしてそよ張本人、【沼大蛇】がアオイを凝視していた。
「い、いつもみたいにしたはずじゃ!」
アオイは沼大蛇を良く見る。
「!!!、そう言うことか!」
沼大蛇の二つ頭があるうちの一つはダランと力無く垂れている......つまりアオイの【糸』は効いているのだ。
一つの頭には。
「チュー!みんな武器を構えるっチュ!一か八かやるしかないっチュ!」
「トラ!」
「ウッシ!」
「(だ、だめだ!)」
この場で戦いが行われる、沼大蛇は決してアオイを逃がしてくれないだろう。
つまりアオイはどちらかが力尽きるのを見てしまうのだ。
そしてそれを見ると必ずアオイはトラウマを思い出してしまう。
「(嫌だ......嫌だ嫌だ嫌だ!)」
「何をしてるッチュ!アオイ!」
「ボーッと立ってるとやられるトラ!」
「ウッシ!まさか足が動かないのか!?」
「チュ!アオイを救出するっチュ!」
「「おぉ!」」
それぞれがアオイを助けようと走り出した時。
【アオイの思いに呼応する様にその魔法が発動した』
「......【目撃縛』」
「ーーーーー!?」
「な!?なんだこれはっチュ!?」
「ひ、光る糸、トラ?」
「あの巨体を止めているウッシ!?」
どこからともなく魔法陣が現れて【沼大蛇】に絡み付いていく。
【沼大蛇】も逃げようと必死にもがくがギチギチに張り巡らした【糸』はその身体を動けなくした。
「みんな!今のうちに逃げるよ!」
「なんか解らないが助かっトラ!」
「逃げるっチュ!」
「ウッシ!」
四人でそのまま沼大蛇を背に逃げていく。
アオイの武器はアオイの【心』に反応する【糸』
アオイが【見たくない』と思うからどちらも殺さず縛るだけの【糸』
果たしてそれは、優しいのか?それとも......残酷なのか......
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