第347話 【沼鋏】狩り

 「【沼大蛇】?」


 アオイは聞いたことない魔物の名前に仮面越しにクエッションマークを浮かべる。


 「ここから少し歩いたところに洞窟があるッチュ、沼大蛇はそこに巣を作っていて、そこには大量のモロシイタケがあるって噂ッチュ」


 そこまで言われるとアオイも察した。


 「あ、あぁ......(つまり俺がとるのか......)」


 「出来そうッチュか?」


 「う、うん、出来ますたぶん......その沼大蛇って言うのがどういうアヤカシか見たことないけど」


 「沼大蛇は大きな二つの頭があってニョロニョロしてるやつッチュ」


 「(ざっくりすぎる!説明がざっくりすぎるよ!チュー太郎さん!まぁでも名前からして蛇なんだろうなぁ)」

 

 「な、なるほど」


 「トラララ......しかし、チュー太郎よ、いくらなんでも沼大蛇に挑まなくてもいいのではないか?もっと別の安全な場所のモロシイタケを」


 「いや、よく考えるッチュ、今までのアオイの噂と今さっき見たアオイの無駄のない動き......チューにはわかるッチュ......アオイ、伝説の【忍者】の末裔っチュね!」


 「な、なんトラ!?」


 「ウッシ!?」



 「............(ええええええええ!?)」


 すっとんきょうな事を言われてアオイは内心あせるが


 「(ていうかそもそも忍者ってこの世界に居るの!?なんで!?あれって日本の昔の暗殺者かなんかをそういってるだけだよな!?いや!俺よく知らないけど!......いや、待てよ?よくよく考えたら忍者......なんかかっこいいな)」


 【忍者】というワードはアオイの厨二心を貫いた。

 

 「フッフッフ......バレてしまっては仕方ないですね」


 「トララ!?本当だったのか!?」


 「ウッシーー!?」


 「バレるどころかすぐにわかったッチュ!」


 「そう、僕は【忍者】......みんなには秘密にしててね?」


 「秘密にしてほしいなら一つチュー達のお願いを聞くッチュ」


 「(おぉ、上手く話を持ってかれたな、悪乗りしたとは言え、こうなるとやるしかない......まぁここら辺半径10キロ圏内はモロシイタケがないのを確認してるしちょうどいいか)」


 「うん!なんでも言うこと聞くよ!」


 「ん?今なんでもってトラ?」


 「決まりッチュね、じゃぁその巣の洞窟まで行くッチュ」


 「了解」


 「まさか本当に居るトラ思わなかったトラ」


 「ウッシ、百人力ウッシ!」


 そのまま四人で沼を歩きはじめる。


 ちなみにエリアを移動しているとき会話はない。

 ここから先は魔物がごろごろ出てくるので会話をしている隙に魔物に気付かなくて反応が遅れないためだ。


 「(そういえば泥だらけだったな、洗わないと......)」

  

 アオイはローブで前まで隠して中で水魔法を発動させ身体と服の泥を生ぬるい水が落としていくが


 「(なんかこれオシッコ漏らしてるみたいに見えるんだよな毎回)」


 チョロチョロチョロチョロと沼の上に水が滴り落ちて音を出す。

 他の三人は獣人特有の耳をピクッと動かすが何をしてるかわかったので特に気にする様子もなかった。


 「(よし、完了っと)」


 アオイは風魔法で身体と服を乾かしてローブの前をあけると服は綺麗になっていた。


 「(にしても魔法って便利だよなぁ、水洗いドライヤーが服についてるんだもん)」


 さらに歩いていくと


 「止まるっチュ」


 戦闘のチュー太郎がみんなを止め剣を抜く、みんなの先には体長二メートルほどの石を殻にして立派な蟹のハサミをもったヤドカリが5匹ほどいた。


 「【沼鋏】の群れトラね」


 「ウッシ、流石に先に行くのに倒さないとだめそうウッシ」


 もちろん倒さなくてもいいが、遠回りをするとかなり目的地まで時間がかかってしまう。

 アオイが頼んだこととは言え、倒せる敵を見過ごし時間をかけて他のルートを使って体力を使った方が要領が悪い......アオイもこの状況は把握していた。


 「わかりました......すいません、僕は隠れてますね」


 アオイが岩影に隠れたのを確認して他の三人は武器を抜いて走り出す。


 「さーってやるッチュよ!」


 それぞれが一匹ずつに走り出す、この程度の相手なら連携をとらなくても一人でいけるのだろう。


 「トラララ!一匹しか倒せなかった奴はこの後の処理を全部一人でするってのはどうトラ!」


 一番近くにいた沼鋏の足をもっていたハンマーで叩きつけながらトラ五郎が提案する......叩きつけられた沼鋏の足はバキバキと音をたてて一匹たてなくなる。


 「そりゃぁいいッチュね!」


 チュー太郎の方は剣で沼鋏のニョキっとでている黒い目を斬ると黒い目が沼にポチャッとおち、追撃でくわえた一突きは沼鋏の頭に当たって剣を抜くと蟹ミソがドロッと出てくる。


 「ウッシ!その提案のったウッシ!【かまいたち】!」


 ウシ沢が放った魔法は初級魔法【かまいたち】ブーメランのような三日月型の緑に光る魔力の塊が沼鋏に放たれくるくると回りながら鋏の付け根を切り落とした。

 そして鋏が切り落としされた沼鋏が背負っている石の中に隠れたがそれを【かまいたち】が追って石の中に入っていき数秒後には石の中から何かの汁と一緒にボトボトと内臓が落ちてくる。


 その惨状をアオイは見ないようにみんなの方向を見ずに背に岩を向けて違うところを見ていたが......



 「チュ!?アオイ!危ないッチュ!」


 「トラ!」


 「ウッシ!」


 「......え?」


 アオイが隠れていた岩も【沼鋏】だった!

 他の仲間がやられてるのを察知して起きたのだろう。

 動き出した沼鋏がアオイに襲いかかろうとするが【見えない糸』で拘束される。


 とっさにアオイが糸を操って動きを封じ込めたのだ。

 そこまでは良かったが......アオイにとってトラウマを呼び出す光景を目の当たりにしてしまった。


 「トラララ!」


 トラ五郎がアオイを助けようとハンマーで岩を砕き岩の破片が飛び散る。


 「ウッシ!」


 ウシ沢の【かまいたち】が剥き出しの腹部を切りつけそのまま足を全て切り裂き。


 「とどめッチュ!」


 素早い動きで沼鋏の前に現れたチュー太郎が剣で沼鋏を正面から真っ二つにする。



 「............ーー!」


 沼鋏はバラバラにされ、腹部から腸を垂れ流しチュー太郎に斬られたところから蟹ミソを飛び散らせ死んでいった。



 そして......



 「う......」



 アオイはそれを全て見てしまってその場で後ろを向いて吐いた......

 


 

 「はぁはぁ......うぐ......」



 アオイは吐き気が止まらない。




 ......アオイの負の感情を感じられる様になった時に何個か蘇ってきたアオイの知らなかった記憶。


 それの一つが原因でアオイは以前よりも狩りの光景が見れなくなっていた。





 そのトラウマになった記憶は『あの時の記憶』......


 


 





















 ベルドリの【ヒロスケ】を殺しているあの日の記憶。





















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