第326話 正の選択

 《モルノ町》《とある家》


 「......ん......」


 その家で彼女は眠りから目が覚めた。


 「ここは......モルノ町の私の拠点......!?」


 彼女は思いだしたかの様に自分の足を見る。


 「あ、ある......」 


 あの時、斬られたはずの足があったのだ、それは吸血鬼としての足ではなくちゃんとした人間の足。


 そして


 「うーん......」


 「!?」


 彼女の隣には小さな人間の男の子が!

 その男の子もちょうど目を覚まして......


 「おねーちゃん?」


 聞きなれた声、聞きなれた呼び方を聞き彼女は確信した。


 「せ、セミマル?」


 「おねーちゃん!......おねーちゃん!!」


 セミマルは彼女......すひまるに抱きつく。


 「セミマル!セミマルゥ......」


 二人は人間の身体で抱きしめあって泣きながら喜ぶ。

 二人のあの日の記憶は残っていた。


 「おねーちゃん、僕達死んだのかな?」


 「死んだはず......なんだけど......」


 すひまるは立って窓の外をみると、いつもの風景、そしていつものように商店街に行く人間達の姿が見える。


 「死んで......ないかも」


 すひまるはあの世と言うのがどういう場所かわからないが、少なくともいつもの日常と変わらなかった。


 「ぼ、ぼく。人間になってる」


 セミマルは今自分の身体に気付いて喜び、くるくるとまわったり手を叩いたりしてる。


 「おねーちゃん!見て!僕立てるよ!手でものを持てるよ!......おねーちゃんを......抱きしめれたよ......」


 そしてまたセミマルは泣く......それは夢が叶った喜びの涙。

 再び泣いているセミマルをゆっくりと包み込むようにすひまるは抱きしめて頭を撫でてあげる。


 


 机の上にあった日記はいつのまにか無くなっていた。






 彼女達の人間としての生はこれからだ。



 

 







 


 



 

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