第223話 全てが動き出す!始まりの『魔法』


 日が昇り始め周りを明るく照らし出す頃、キールは遠くの動く山を見ていた。


 「まだ到着には数日あると言うのに……」


 その巨体は直ぐそこに迫ってきている感覚に陥る。

 

 「あ、キール」


 テントからリュウトが起きてきた。


 「起きたか」


 「あぁ……キールも眠れなかったのか?」


 「緊急事態だからな、必要最低限の睡眠にしている、リュウトはどうしてだ?」


 「俺は……」


 リュウトは腕の装備に手をかけると動きを止める。

 

 「……」


 まるで言うのを躊躇っている様だ。


 「どうした?」


 「キール……あんたに頼がある」


 決心をしたのかリュウトは真っ直ぐとキールの目を見る。


 「……なんだ?」


 「まずはこれを見てくれ」


 そう言ってキールは腕の装備を外し中からグルグルに包帯で巻かれた腕が出てきた。


 「怪我、ではないな?」


 「あぁ……」


 そして包帯を一気に取ると____


 「っ!これは!」


 腕には動物の様な黒い毛がびっしりと生えていた。


 「……」


 「治す手段はないのか?」


 「……」


 無言でリュウトは頷く。


 「……私に頼とは?」


 「もしも次暴走したら俺を__」


 「悪いが断る」


 「どうして!」


 「ならば逆に問う、どうして殺してほしいんだ?」


 「それは……暴走したら他のみんなに迷惑かけるし、もう神父さんから貰った薬も残り少ない……最近……俺の手で仲間を殺す夢を何度も見るんだ、そして俺はその肉を笑いながら楽しそうに貪り食う……それがもし現実になったら!俺は!」


 「……」


 「なぁ!解るだろ!?キールも昔4人で冒険者だった!だからこの辛さが____」


 「落ち着け、今の君は暴走しているのか?」


 「っ……」


 気がつくと両手でキールの襟を掴んでいたのに気付き離す。


 「ごめん……」


 「構わない」


 「……」


 「私が昔冒険者をしてた頃、【プリーメリクス】と言う植物方の魔物が居てな」


 「確か、魔物と言ってもその場に留まって獲物をベタベタした体液でひっつけて食べる植物ですよね?」


 「そうだ、その討伐に行った時……本当に運が悪かったんだろう、傷口に種が入ってしまった事があって、そのまま身体を治療したんだ」


 「う……」


 リュウトは少しその時の事を想像して気持ち悪くなる。

 

 体内に外部からの異物が入ったまま蓋をしてしまったと言う事だ。


 「それから数日後……私の身体に異変が出てきた……芽が出てきたんだ」


 「……」


 「それを確認した時は驚いたよ、何せ自分の肌から生えてるんだからな……おかしいと思って医者に行ったが、もう遅かった……根は私の身体の隅々まで張り巡らしていたんだ、しかも奴は私に気付かれないように最後の最後まで身体の害のない部分に根をはっていて」


 「……どうなったんですか?」


 「そこから先は覚えていない、身体の魔物に刺激を与えないように医者から強制的に眠らされていたからな」


 「でも、キールがここにいると言うことは助かったんだよな?」


 「あぁ……目が覚めると自分の家のベッドだったよ、身体から植物は1つ残らず取り除かれていた」


 「いったい誰が……」


 「仲間達だ」


 「仲間ってキールの言っていたあの3人?」


 「あぁ、だがアイツらはいつものような態度でいつものように接してきていたよ……まるで私の方が何かの夢を見ていて寝ていただけだと思うくらいにな……後で聞いた話だが、医者が必死に私を延命してくれている時に必死になって救う方法を探してくれていたらしい」


 「……」


 「少し状況は違うと思うが、あの時の私と今の君は仲間に頼るしかない……だが、君の仲間は決して諦めずに救う方法を探しだし、君を救う……だから私は君が暴走しても殺さず、時間を稼ぐ事にしよう」

 

 「………………」


 「仲間を心の底から信じろ、君は助かる」


 「…………分かった!」


 「フッ……」

 

 「そう言えば、キールのパーティーメンバーの名前って、《ルコサ》《オリバル》《クロエ》だったよね?」


 「?、そうだが?」


 「その人たちって獣人?」


 「違うぞ?」


 「あれ?人違いかぁ……いやぁ実は昨日心強い仲間を見つけたんだけど名前を聞いてあれ?ってなったんだ」


 「ほう?同じ名前なのか?」


 「そそ!今日会う予定なんだ!キールも楽しみにしててくれ!」


 「ああ、解った」


 続いてテントからアカネが料理のおたまを持って出てきた。


 「お二人とも朝ごはん出来ましたよ~」


 「お!いただきます!」


 「キールさんもどうぞ?」


 「では、お言葉に甘えて」


 こうしてリュウトパーティーの1日が始まる。



 ________





 ____






 __





 そして____




 「……」


 「……」


 「……」



 「紹介するよ、こちらが昨日会った__」



 三人は顔を見合わせて同じ言葉を言う。








 「「「知ってるよ!」」」










 リュウトの呼んだ助っ人は正真正銘本物のオリバルとクロエだった。



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 《一方その頃……》


 「助け……来ない」


 もはや、花びらが床にパンパンに積まれてちょっとしたふかふかベッドになってるこの洞窟。


 「お風呂入りたい……」


 お風呂に入ってないので髪もベトベト、匂いも____と思っているがアオイは持ち前の『加護』の力で身体は匂いも汚れもなくベストコンディションを保ってる。

 もしも“あなたの奇跡の一枚!”なんて募集広告があればいつでもどこでもどの角度でアオイを撮っても奇跡の一枚になるだろう。



 「あれ?そういえば」


 そしてアオイは気付いてしまった。

 自分のもっとも適性のある魔法を使えば助けを呼べるのではないかと。


 「ど、どうせ誰も見てないし良いよね」


 

 アオイは感覚を研ぎ澄ましその魔法名を唱えようとするといつもの様に身体が動き出す。



 両手を自分のネコミミの横に持っていき、二つに別れた尻尾の先端をあわせハート型を作り。

 腰を少し引いて前屈みになって胸を誰かに見せるわけでもないがチラ見せさせながら。




















 「『魅了』にゃん」





















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【山亀】到着まで、後2日


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