第147話 【ルダ】誕生!

 遠くから見れば、ただの洞窟に過ぎない。

 しかし、この洞窟は深く入り組んでおり、その中にはかつて「サンドドラゴン」と呼ばれる恐るべき魔物が住んでいた。

 

 その一番奥では部屋主のサンドドラゴンを含め大量の魔物の死骸が壁に無造作に張り付けられ、新しく洞窟の主になった“化け物”はサンドドラゴンの討伐依頼できていた冒険者達を無惨に殺し頭から食していた。


 「____」


 その食し方は荒っぽく、何か苛立ちを感じてるようにさえ見える。



 


 ____そんな恐ろしい状況とはまったく合わないひょうひょうとした声で化け物に語りかける“白いフード付きの神父服を着た気だるそうな男が来た”


 

 「__っ!?」



 「いやー……いきなりミクラル行けって言われたから神が休暇でもくれたのかと思って遊んでたらさ、変な化け物が出たり、医者のコスプレさせられて勇者とその仲間に助言したり仕事たっくさんな訳!しかも、まだ仕事は終わってな__」


 「アァァァァァア!!!!!」


 神父が言い終わる前におぞましい部屋の主____『金色のブルゼ』は、一瞬で神父の所まで移動し、首を引きちぎってやろうと恐ろしい金色の手を伸ばしめきた____



 __だが!




 「!?……オオオオォォォォ!?」



 神父の目の前で黒い鎖に拘束された!



 「トラップ魔法の【黒鎖】……君があの引きずられた鎖と同じ成分で出来ているよ、あの時は所有者の腕を切り落とす事で免れたみたいだけど僕は手を使ったりしてない、つまり、逃れる事は出来ない」


 目の前で拘束されながらもギリギリと音を鳴らしながら詰めようとしているブルゼの頭を神父は撫でた。


 


 「喜べ、君も【神】に選ばれた」




 「っ!?」




 周りにある魔物や人間の死体。


 それらが次々と周りに血を撒き散らしながら爆発してその血は魔法陣に書き換わり【黒鎖】が発動して金色のブルゼに絡まり包んでいき___



 「イィイイイイイアァァァァァアオオオオォォォォ………」







 ____最後には1つの繭の様になった。





 「……」



 黒い鎖の球体。

 中では何が行われているのか解らないがジャリジャリと鎖が擦れる音と共にまるで肉を食べているかの様なヌチャヌチャとした音も聞こえ初め__






 









 そして____










 「アオイィィイイイイイイイイイ!!!!!!!」



 激しい怒りを露わにしながら漆黒の繭が破れ、そこから現れたのは黒く艶やかな長い髪を持つ、裸の女の子。



 「はぁ……神様、俺にロリコン趣味はないんだけど」



 身体の異変に気付いた女の子は自分を見てパニックになる。



 「な、なんだいこれは!?どうなってるさね!?____!あんたはあのときの神父さね!良くも騙したさね!?この私を!」


 神父に向かって手を差し伸べた女の子。その掌に宿る力は、まるで星の輝きを宿す魔法陣。


 「ちょちょちょ!!まって!今の君で撃たれると流石にやばいんだけど!」


 「問答無用!」


 「ぎゃぁぁぁあマジ死ぬから!くそ!こうなったら!」


 神父は神に言われていた最後の切り札を【転送魔皮紙】から出した。



 「____っ!?」



 神父が取り出したのは“ただの姿見鏡”


 だがそれを見て女の子は手を止めた。


 「……こ、これが……私?」


 少女のあの激しい怒りさえも急激に無くなっていく。


 それもそのはずだ、この女の子は何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も若返ろうとしていたのだから。



 「安心して、今度は何も邪魔は入らないよ、正真正銘、君は若返った」


 「………………っ」


 女の子の目から涙が溢れる。


 「私は……私は……若さを」


 「はいはーい、感動なのはいいけどそろそろ話進めていい?めんどくさいから」


 「…………フン、乙女心が解ってない男は嫌いさね、はぁーあ、さっきまで怒り狂ってたのがバカらしくなったさね」


 「乙女?中身おばあちゃんだろ」


 「おばあちゃんのテクニックでイッてみるかい?若僧」


 小さい女の子とは思えない色っぽい笑みで指でジェスチャーする。


 「遠慮しときます、では本題……ようこそ、神の使いの世界へ」


 「……」


 「うん、ポカーンとするのも解る、積もる話はゆっくりと帰りながらするとして簡単にいまの状況を言うよ、君は『女神』にひどいことされたのさ」


 「『女神』?そんなおとぎ話__」


 しかし、少女は口を閉じる、少女には記憶に残ってるのだ、全て、あの醜い化物になった瞬間も、なぜあの姿になったのかも……そして、あのアオイの事も__


 「__アオイさね?」


 「君は『女神』の逆鱗にふれたんだ、それだけで癇癪を起こされてあんなふうになった」


 「じゃぁ、早くあいつを殺すさね、今すぐにでもこの瞬間にも!」


 「あーもう、そんなに怒らないでそれと身体動かさないで見えちゃうから!!!」


 「女の若い身体は興奮するさね?ほれほれ」


 「アウトだから!色々と!?」


 そう言うと自分の神父服を女の子に投げた。


 「気が効くじゃないさね」


 「話が進まなくなりそうだからね」


 「それで、どうやって殺すさね?」


 「残念ながら彼女はまだ殺さない」


 「“まだ”?」


 「そ……とりあえずここで話すのは辞めてどこか酒でも飲みながら話すよ、疲れたし」


 「ほーぅ、レディにお食事のお誘いさね?」


 「ほんと、若くなってるんるん気分なんだね、面倒臭いからそれでいいよ」


 「悪いおじさんについていくさね」

 

 「よろしく、そうだね、君の名前は……【ルダ】だ」


 「良い名さね、気に入った……お前の名前は?」



 「あぁ、俺は____【ルコサ】」




 そう言って神の使徒達は次の目標へ向けて闇の中へ消えて行った。







 ____第二章 完__





 


 

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