第83話 寝込みを襲う男共!

 《深夜》


 町外れということもあり、周囲は真っ暗な闇に包まれていた。

 その闇に紛れて、不気味な集団が潜んでいる。


 「ここが例の可愛い可愛い奴隷ちゃんがいるとこか?」


 「えぇ、間違いないわ、私のコレクションとして相応しい子よ」


 「へへ、あんたもいい趣味してるぜ、表では服を売って可愛い子を見つけたら男女問わず誘拐してコレクション」


 集団のリーダーと以来主......《ゴールド》の店長はボロボロの宿を遠くで見ながら話す。


 「フフ、私はね、オシャレなものには目がないのよ?まぁ、こういう人は私だけじゃないからあなた達みたいな《人攫い》がこの国に多いんだけどね......でもちゃーんと、本人達には忠告してあげたつもりよ?」


 「ちげーねぇハッハッハ、美を目指してやりすぎるとこんな事になるとは、この国は怖いねぇ」


 「あんたにこの気持ちは解る?」


 「残念ながら俺にはわかんねーな!顔がいい女は無理矢理捕まえて高値で売りさばく!金にしか興味ねぇ!」


 「ま、お金が美しいという人も居るくらいだからアンタはそっちかしらね......まぁいいわ、条件は顔も含め身体を傷付けるのは無しよ」


 「これはまた難しい注文だな?ま、そのぶん割り増しにしとくぜ?ところで今回はどんな風にコレクションにするんだ?」


 「そうねぇ、今回はアオイちゃんのその白くて白くて素敵な皮をきれいに剥いでマネキンに着せようかしら?それとも私がその皮を加工して着るか……その皮を移植してもらおうかしら?......色々よ」


 「うわー、いい趣味してんなほんと」


 「何度も言うけどあんたにはこの気持ちは解らないわ、さっさとはじめて」


 「はいよ、ほらお前ら!なにボーッとしてんだ仕事だ!」


 リーダーの合図で部下たちは闇に紛れ宿へ向かって行き、1人が手慣れた様子で宿をピッキングをして中に入る。


 全ては全部上手くいくはずだった。



 その日に偶然、泊まっていた。



 “火の魔法を得意とする少女が居なければ”





 「ふぁ〜あ、まーたですか」


 出てきたのはメルピグの可愛いイラストが書かれたピンクのパジャマを着たユキだった。


 「怪しい気配がしたので出てみれば……ここに泊まってる人じゃなさそうですね」


 少女は転送魔皮紙を使って手に杖を持ち、暗闇に紛れて後ろにまわろうとしている1人の前に小さな【火弾】を撃つ。


 「私、火の魔法が得意なので温度にも敏感なんですよね……いくら闇に紛れても体温で分かりますよ」


 この瞬間、人攫い達の標的はユキに切り替わり、間髪入れずにナイフを投げつけた。


 「おっと!」


 反射的にナイフを避けるが少しパジャマが切れてしまった。


 「どうしてくれるんですか、もうお金ないので無駄遣い出来ないんですよ」


 そう言って杖を振るとナイフを投げた黒服が突如として火だるまになる。

 

 「......っ!!!!!!!」


 「命で弁償してください」


 そのまま燃えながらも開いてるドアから外へ出ていった。


 「へぇ、やりますね……他の人に気付かれないように声を上げず音も立てずに退場……どうやらまだ任務遂行出来ると勘違いしてます?」


 その言葉を皮切りに黒服達は一斉に動き出し一人は魔法を使わせまいとユキに超接近を試みる。


 「甘いですね!私は魔法が得意と言っただけで接近戦が苦手なわけじゃないですよ!」


 ユキはナイフを持っている手首を持ち回転して相手の体重を乗せながら受け流す!


 「っ!」


 そのまま男は近くにあったドアに頭からドン!とぶつかり大きな音を立てたが……生憎、その部屋に居る“休暇中のメイド二人”は爆睡していて気が付いていない。

 

 「あんまり音を立てないでください、疲れてるヒロユキさんや他の人に迷惑じゃないですか」


 普通なら大声で助けを呼ぶだろう、だがユキにとってこの程度の相手に他の人やヒロユキに迷惑をかける方が優先順位は高かった。


 だが相手も1人目が作ってくれた隙を見逃さず連携プレイで攻撃を開始した。


 「どぅ、やって!穏便に、すませますかね!」


 攻撃を避けながら考え周りを見ると窓が目に入った。

 

 「なるほど、こうですね!」


 ユキは攻撃を誘導しながら窓に近づき開ける。


 「とう!」


 その窓から外へ逃げると思ったのか焦った1人が襲いかかってきたところを背負投げで窓から投げとばし__


 「アイルビーバックです!くそやろう!」


 その言葉を発した後、投げ飛ばされた黒服は外で発火する。

 先程背負い投げの際に魔皮紙を貼っていたのだ……だがそれが見えてなかった他の仲間はカラクリが分からないので一旦ユキに近づくのをやめた。


 「(ふぅ......あんまり火の魔法を使いまくると本当にどこか引火して火事になりかねませんからね......)」

 

 火事の危険があるので使いたくないユキの考えとは裏腹にお互いに硬直状態の睨み合いになる。


 「どうしましたか?怖じ気づきました?」


 そんな中__


 「あらぁ?どこの同業者かしらねぇ?」


 ぬめっとした女の声がして暗闇から風を斬る音がしたと思った瞬間__


 「!?」


 ユキと見合っていた黒服達は全員、首を掻っ切られ血を吹き出し倒れる。


 そして暗闇の中から出てきたのは女性......かつてユキがグリードで追い払い、アオイを拐った張本人だった。


 「!」


 「久しぶりねぇ、あれから少し大きくなったかい?それより、私の事、覚えているのかねぇ?」


 「こりないですね、あなたも」


 「覚えていただいて光栄だねぇ」


 「(気付けなかった!私が?いや、この女の人がそこまで強くなったって事ですね......)」


 お互いが睨みあうが__


 「プフッ、やめやめ!今日はアンタとはまったく関係ないからねぇ」


 女は殺意を解いてナイフをくるくる手で回すがユキは警戒を解かない。


 「でもあなたの事です、誰かを誘拐しに来たのでは?」


 「今日は仕事オフなのよねぇ、それにここ最近仕事しなくても金はあるのよねぇ」


 「信じれませんね、じゃあなんでこんな宿に来たんですか!」

 

 「?、いや、宿屋が予約取れなくて3日前くらい前から部下達と居ただけよ?」


 「えええええ!?」


 衝撃の真実に目を丸くするユキだった。


__________________



____________



______


 「悪いが、この件からは手を引かせてもらう」


 「は?何言ってるの?」


 外で魔法を使って中の様子を見ていた人攫いのリーダーは魔法を解いて依頼主に告げる。


 「聞こえなかったか?この仕事はやらないって言ったんだ」


 「いいの?あなたにお金はこれじゃあげれないわよ?」


 「洗練された部下達を失ったんだ、そんな金じゃ足りねーよ」


 「ちっ、使えない」


 「じゃぁな、次依頼する時は化け物のボディーガードが居ない時にしてくれ」


 そのままリーダーは夜の闇の中に消えていった......










 「..................いつか、必ず私のコレクションにしてあげる......アオイちゃん」








 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る