第44話 勝利の余韻!


 【限界突破】__脳を魔力で刺激し無理矢理身体のリミッターを意図的に外す魔法……つまり人間の火事場力を発揮できる。


 だが、その反動は大きい。

 その時は何ともないがそれは前払い……魔法を解いた瞬間に無理をさせている場所が悲鳴を上げるのだ。

 ひどい時には全身の骨が折れ内部で筋肉がみじん切りの様に崩壊する時もある。


 「もってくれよ、僕の魔力!」


 冒険者にとっての最後の切り札の諸刃の剣!


 「行くぞ!」



 動く、速く、より速く!


 

 魔力が切れたら魔物の餌になって終わり。

 例えコイツを倒したとしてもその後に魔力が切れれば運が良くないと身体が動かなくなり魔物の餌。


 どっちをとっても地獄。



 だが、リンは不思議と落ち着いていた。



 「うおおおおりゃぁぁあ!!」


 

 メルピグに近づき先程刺していたクレイモアの場所までジャンプして引っこ抜き回転しながら着地する。


 「こっちに来い!」


 「ブルァァァア!!!!!!!!!」


 リンは真っ直ぐ崖まで走っていき、その崖が見えたメルピグは自分の勢いで落ちない様に走る速度を落としていった。


 「うおら!」


 クレイモアを地面に刺してブレーキをかけて崖ギリギリで止まりメルピグを正面から見る。


 すると後ろでヒロユキを抱き抱えて走るショウの姿が見えた。


 フッと、少し笑う……


 「アイツを見るのも今日で最後か」


 もしも、万が一の確率で生きて帰ったらどうなるのだろう?


 これから先はまず2人であの美女を奴隷から解放させる様に話し合うだろう。

 例えそれが犯罪でも人殺しでも俺たちはやる。


 それほどまでにあの人を愛してるからだ。


 一目見たその時から、愛し愛し愛し愛おしく愛してしまった。

 それは自分だけかと思ったら、なんとショウもだった!


 リンは目を閉じてアオイが自由になった後の未来を予測する。



 アオイを取り合って喧嘩をする未来。



 しかし、どちらがアオイの男になっても結局は祝福する未来。



 子供が居る未来。

 

 どの未来にもショウとアオイの姿がリンには見えていた。



 あぁ……こんな物を見たら__


 「死ぬわけには行かない!!!!!!!!!」


 リンは目を開けて相手を睨みつける。


 何を弱気になってたんだ!


 俺はあの人が狂おしい程に好きだ!


 なら生きてショウと正々堂々恋の勝負をする!



 覚悟を決めて動き出す。


 「うおおおおおおお!!!!」


 メルピグに加速し踏み込んで飛び、上からメルピグの額目掛けて斬りつける!

 【限界突破】で腕力が格段に上がっている一撃はメルピグの額の皮をと肉を裂き骨まで見えるほど斬り抜いた!


 「ピギャァァァッブルルルルルル」


 回転して着地し、ダメージを負って痛がっているメルピグの背中までかけあがりキノコを乱雑に斬っていく。


 「これがお前の本体だろ?ほら!全部刈ってやる!」


 「ブルルルルルハガァァア!」


 一つ、また一つとどんどん刈り取る。


 「俺の読みが正しければお前はこのキノコを全て取れば勝ちだ!......っ!」


 キノコをある程度切り取った後メルピグが暴れだし振り落としてきた。


 「こっの!」


 落ち際、とっさに片手でクレイモアをブーメランの様に投げる。

 付け焼き刃な戦法だがリンの今の腕力では充分の威力が出て背中のキノコをごっそり刈り取っていきクレイモアはメルピグの後方の地面に刺さった。


 「ピキャァァア!?」


 分厚い皮や毛に覆われていても本体は露出しているキノコ。


 明らかにダメージをくらった鳴き声を出し。


 「フゴフゴゴ」


 地面の臭いを嗅ぐ仕草をすぐにして落ちていたメルキノコを食べ出したのだ。

 目の前にリンが居るのに其方を優先して……


 「?」


 どう言うことか分からなくなったがこれはチャンスと思いリンはクレイモアを取りに行った、が


 「回復!?」


 その横目で見えたのは背中のメルキノコが途端に生え出した光景。


 「地面のメルキノコを食べるとすぐ再生されるのか!」


 クレイモアを引き抜き回復したメルピグと迎え合わせになる。


 「振り出しに戻った……って訳じゃないよな」


 冷静に考えると最悪な状況だ。


 限界突破には時間制限があるのに対して相手は無限に回復する。

 勝利するには一瞬で背中にあるキノコを全て落とし切らなければならない。



 「何かあるはずだ!この状況でも必勝法が!」


 

 だがリンは諦めない!


 あの可憐な美女の為に!




 ____その瞬間!




 

 「3連!【爆矢】!」



 3本の二股の矢がメルピグの背中に飛んでいき根こそぎキノコを落としていった。


 「あの矢は!?」


 その矢を放つ人物の心当たりは1人。


 「間に合ったみたいだな」


 「ショウ!!!!」


 そこに居たのは恋のライバル、そして親友。


 「お前を置いて逃げれるかよ!ヒロユキには緊急用の回復魔皮紙を使った!後で金を請求しとけ!」


 「…………あぁ!」


 親友同士2人は地面に落ちたメルキノコを食べているメルピグを見据える。



 「ショウ……チャンスは一回だ」


 「チャンスがあるんだな?」


 「あぁ、お前が来てくれたから出来た!」


 「任せろ!」


 「学校時代から俺たちでずっと練習してきたアレをするぞ!」


 「良いのかよリン、あれは俺が目立ちまくるから嫌いじゃなかったのかよ?」


 「今はそんな事はどうでもいいからな、いくぞ!」


 「あぁ!」


 号令と同時にショウはリンと一緒に走り出す。


 リンは一定距離に到達するとクレイモアを地面と平行に構えそして__


 「ショウ!乗れ!」


 「おう!【限界突破】!」


 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 乗ったタイミングでショウは限界突破を発動。


 リンの限界突破した腕力。

 ショウの限界突破した脚力。


 そして長年一緒にいたからこその最高のタイミングでの飛び出し!


 ショウは空高く飛び上がった!


 「これが俺たちの全てだ!」


 ショウは弓を展開し空から狙いを定め5本取り出した矢を一気に解き放つ!


 「【流星矢】!」


 1発で5本。


 そのまま空中で転送させ追加で5本。


 さらにまた5本!


 そしてさらに!


 キャンプに置いてきた全ての矢が空中で放たれる!


 ランダムな何百本もの矢は見事メルピグの背中に命中し一つも残らず削ぎ落とされ__


 「プギャァァギィィイ!!!?!??ガッ__」

 

 そのまま崩れ落ち、動かなくなった。


 「やったか?」


 ショウが着地しリンの横に来て警戒する。


 「背中のメルキノコが本体なら全部落とせば大丈夫なはず」


 ………………………………



 ………………



 だが警戒していたがメルピグは血を大量に流しながら倒れピクリとも動かなかった。


 「勝った……やったぞ!__うおっ」

 

 リンは【限界突破】が切れ、全身から力が抜けて立てなくなり、その場に俯きに倒れる。


 「おい!大丈夫か?」


 「これが大丈夫に見えたらお前の目は腐ってる」


 「ハハハ、それだけ減らず口が叩ければ上等って奴だな」


 「フフッ」


 お互いに笑い勝利の余韻に浸る。


 「たくっ……とりあえず俺も限界突破がいつ切れるか分からねぇ、続いてる間に安全な場所移動して後は回復を____」

















 …………油断だった。







 「__しまっ」




 

 相手は人間でも魔物でもない、植物だ。


 そんな相手が“死んだフリ”をすると言う選択肢があると2人とも思ってなかったのだ。


 








 「ショウ!!」




 

 下に積もった雪を上手く隠れ蓑にして迫ってきていた『ツタ』はショウの足を取り__




 「やめろおおおおおおおおお!」




 倒れてるリンの叫び声も虚しく勢いよく地面に何度も叩きつけられ白い雪を血で赤く染める。




 








 「あ……ぅ……ぁ」





 リンは【限界突破】の反動に耐えきれず目の前の親友が肉の塊になるのを見ながら意識を失っていった____



__________




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