第37話 三人より四人!


 「す、すげぇ……」


 真っ二つになったピルクドンは血の池を作りながら息絶えている。


 周りの壁は決着がついたのを見ていたのか感じ取ったのか……各々で動き、何事もなかったかのように普通の木々に戻った。


 「ほぇー……」


 目の前で動かれて改めて思うけど木の魔物が居るなんてファンタジーだよな……○リーポッターの暴れ柳みたいなもんかな?あれ?でも元の世界にも魔物じゃないけど居たような……ハエとって食う奴、名前なんだっけ?


 「ヒロユキさん!」


 「やるじゃねーかヒロユキ!」


 2人は今回のMVPに向かっていって祝福の声をかけている。


 「うーん」


 「どうしたカロ?」


 「いや、なんでもない」


 ちょっと、と言うかだいぶ気になる事があるんだけど今じゃないな……


 3人は一通り何かを話した後、それぞれ魔皮紙や小型のナイフを取り出し、でかいワニに向かっていき、一人はこちらに話しかけに来た。


 「すいません、あなた達の事を色々聞きたいんですけど、ちょっとあの死体は早めに処理しないといけないので待っててもらえますか?」


 「え?あ、はい、むしろ何か手伝うことはありますか?」


 助けてもらったのだ、何か手伝あることなら手伝おう。


 「いやいや、ここは任せてください」


 「いやいや、僕の方こそ助けてもらったのに何もない方が辛いですよ」


 何だこの飲み会最後のお会計のやりとりみたいなのは……


 「そうですか?それじゃぁ手伝いをしてもらいながら色々とどうしてここに居るのか教えてください」


 「わかりました!」





 ____俺は手伝いをしながらここに来た経緯を話した。




 


 「なるほどね、大方の事は理解しました……あ、これ持っていって貰ってもいいですか?」


 「あ、はーい」


 リーダーの青年、リンさんはピルグドンの目を小さなナイフで器用に抉りドロリとした目を俺に渡してきた。


 触ると手から変な液がついてるのとゼラチンを持ってる感覚が伝わってくる……うえぇ、気持ち悪い……でも顔に出さないようにしないと、手伝うって言っちゃったしね。


 「えーっと、確かこれに置くだけ、だよね」


 レジャーシートの様に地面に敷かれている魔皮紙の上に目ん玉を置くと光ってシュンッと消えていった。


 「ほぇーどうなってんだろ、これ」


 たぶんだけど、素材をどこかに、送ってるのだろう。

 ちなみに自分の手で触れただけでは消えないので間違って変なものを送られるって事はなさそうだ。

 

 「置いてきました」


 「ありがとうございます、次はあっちに居るヒロユキさんの方を手伝ってください」


 「え?」


 「?」


 「あ、いえ、はい!」


 急に言われて思わず聞き返してしまった。

 そりゃそうだ、この人は俺たちの関係を知らない。

 

 いや、もしかしたら違うかもしれない。


 同姓同名かもしれない……だから確認するんだ、今ここで!



 「……」


 「……」


 俺が来たのを気づいているはずだが無視するように黙々と作業をするヒロユキ。


 さて……



 「ヒロユキさん久しぶり」


 「……」


 声をかけたが無視……というか、自分の弟を「さん」つけて呼ぶの気持ち悪!


 「え、えと覚えてる?」


 「……覚えてる、裸女の痴女」


 「その覚えられ方はなんか違うくない?」


 服は着てたよ!確かにちゃんとじゃないけど……裸じゃないよ!アニメとかならちゃんとギリギリ隠れてるくらい着てたよ!


 と言うか、そう言うって事はこの人は……


 「ねぇ、久しぶりだし、顔見せてくれない?」


 「……」


 フルフェイスヘルメットを脱いでくれてその下から出てきたのは__


 「っ……」


 見間違うはずがない。

 俺の弟の顔だった。


 「……?、泣いてるのか?」


 「い、いや、これはいや、そのハハハ」


 「……」


 俺の言葉は無視してそのまま作業に戻る弟。


 相変わらず無口で無愛想だなぁ……


 「……」


 「……」


 と言うか俺の今起きてる身体の状況言うタイミング逃した!!!

 

 ま、まぁでも、いきなり「俺はお前の兄だ!」って……このデカイだけの邪魔な乳を揺らしながら言えるか?


 いやいやいや!


 借りに信じたとして兄がこんな露出狂みたいな格好して勇者なのに奴隷?カッコ悪すぎ!無理……打ち明けれない……



 ここは一旦、秘密にしといて時が来たら打ち明けよう……うん、様子見だな。


 「あの、手伝う事は__」


 「__ない」


 「さいですか……」


 俺はトボトボと泉の近くで落ち込んでるトカゲさんの所へ来た。



 「サカムサがいないカロ……」



 この泉からピルグドンが出てきてから一向に姿を見せないサカムサちゃん……もしかしたらピルグドンに……


 「あーえと、32番さん……」


 「……」



 二人の間に沈黙が流れる…………ええい!悲しい気持ちになってどうする!俺達が諦めたらだめなんだよ!死体を見るまで生きてる確率があるんだ!こういうのは悲しいことを想像するからそうなるんだよ!


 「き……きっと大丈夫だよ!ほら思い出して!1個前の訓練の時に言ってたでしょ?僕たちは一心同体って、片方が死ぬとこっちも処分されるって!それって今回も適用されてるなら僕もトカ……32番さんもまだ何も起こってないってことは無事って事にならない?」


 実際にそれが今回の訓練で適応されているかも解らないけど思い出したので取って付けたように言葉を並べた。


 しかし、トカゲさんも元気だしてくれたみたいだ。


 「そ、そうカロね、サカムサもきっと無事カロ!」


 「うん!そのいきだよ!僕もヒロスケのあの逃げ足なら無事だと思う!」





 お互いに相方の無事を祈って勇気を出しあってると、作業を終えた人達が来た。





 「お待たせしました、報酬の方ですが……」


 「いえいえ、僕たちは何もしてないので」


 後ろで見ていただけの俺達に報酬の提案をするって正気か?……なんだろ、この人からは根っからの【良い人】の匂いがする。

 

 「それは助かります、此方も金欠だったので」


 「当然だろ、こいつら何もしてねーんだから」


 「ショウ、失礼だよ」


 むむ……正論だけど面と向かって言わなくてもいいじゃないか……ショボンヌ


 「同じ冒険者ならともかく、この人達は命令されて動いてるだけなんだからその言い方はないだろ?」


 あ、この子本当に良い子……俺が女なら恋に落ちてるね!まぁ俺男だけど!


 「取り敢えず改めて……僕の名前は《リン》、今回ヒロユキさんの依頼を一緒にやってる冒険者です」


 「よろしく♪」


 リンが握手を求めたので返す。


 なるほど、リン君ね。


 覚えた!


 「ちっ……」


 「ほら、ショウ?」


 ショウは背中を押されて「やめろよ!」っと振り払って俺を睨みながら話す……なんでそんなに睨むの……怖い。


 「俺は《ショウ》だ……」


 「う、うん、よろしく」


 ずーーっとリンからショウって呼ばれてたから知ってる。


 「うーん、ショウどうしたの?なんか変だよ?」


 リンがショウの態度を疑うが「うるさい」と言ってそっぽを向く。


 「すいませんね……、えと、後この人が」


 あぁ、大丈夫、その人の事は、よーーーーく知ってるよ。


 「……ヒロユキ」


 うん、だろうね。


 「改めて久しぶりだね、ヒロユキくん」


 しれっと「さん」付けから「くん」に変える……うん、こっちの方がしっくり来る。


 「え?知ってるの?ヒロユキさん?」


 「……一回会っただけ」


 「なるほど……そうでしたか」


 リンはそれだけ言って追求はしてこない、こっちも奴隷になってる身だから深入りはしないようにしてくれてるのかな?



 「次は僕たちの自己紹介だね、僕の名前は__」




 「『奴隷No.35』」


 


 ?、どうしたんだろ?3人ともキョトンとしてる?



 

 「『奴隷No.32』カロ」


 


 トカゲさんも自分の名前を言うと3人とも顔を見合わせた。



 「なんだコイツら?番号?」


 「……」


 「確か聞いたことあるんだけど、奴隷になった人は無意識に操作されてるとか」


 む、失礼な。


 ただ自分の名前の番号を言っただけなのに……


 「そう言えば、さっき手伝ってもらってる時に聞きましたが、メルキノコ採取が目的って言ってましたよね?」


 「え?う、うん」


 「実は僕達もここに来た理由はメルキノコの採取なんですよ」


 「ほんとに!?」


 な、なんと!?これは神の導きか!


 俺は恥を忍び。


 胸の部分が開けて最初に城で貰った黒いレースのブラジャーが付いた胸が丸見えになるのも関係無し。

 下半身も何も着ていないのでお揃いのデザインの黒いパンティーが丸見えになるのも我慢して最高の土下座を作り出した。



 「お願いします!魔物から救っていただいて、さらにこんな事を頼むのは調子のいい話ですが!僕達も命が懸かってるので小さいのでメルキノコでいいのでわけてもらえないでしょうか!」


 全て噛まずに言い切った。


 もう俺にはこれしかない……。

 

 命かけてますから!

 


 後、俺男ですから!恥ずかしくない!



 「なななななな!?」


 リンはいきなりの事で顔を赤くしながら動揺する。


 「え、えと、あのですね……」


 「リン!分かってんのか?こいつらは__」


 「ショウ!黙ってて!さっきも言ったけど俺達もヒロユキさんに付いて来てるんだから決めるのはヒロユキさんだよ」

 

 「チッ、もう知らねぇ勝手にしろ!!!」


 うん、ごめん、俺も身勝手だと思うけど本当に方法がないんだ……


 視線が一気にヒロユキに集まる。


 そして__



 「……わけてあげる」


 「ありがとう!」


 弟が非道な人間じゃなくて良かった……


 俺が育てたかいがあったぜ!親じゃないけど!というか俺達親一緒なんだけどね!


 「どうします?見たところ何も装備や武器がない様ですし、ここで待っときますか?」


 確かに、此方はボロボロ布服で少なくともピルクドンみたいな魔物に会えばあの歯や爪でヅタヅタになって死ぬのは確定事項。



 本当ならここは残るのが正解だろうけど……一つ、どうしても気になることがあった。 


 「その……僕はちょっと探したい相棒が居るんでついていっていいかな?」


 そう、ヒロスケの事だ、真っ先に逃げたけど大丈夫かな?

 

 「うーん、こっちとしても連れていきたいですけど」


 やっぱり駄目だよな、足引っ張るし。


 「やっぱり駄目だよね……」


 自然としょんぼり顔になった所に風で目にゴミが入った!


 痛!……目をこすってゴミを取り出す。


 「!?、そ、そんなことないですよ、今回はなぜか魔物が少ないですし、たぶんこのピルクドンが原因かな?だからついてきてもあまり危険じゃないかもしれないんで!」


 なんとぉ!?


 嘘だろ……報酬も減ってさらにはこんなお荷物つれてまで連れていってくれるとかどんだけ優しいんだこいつは!

 まじなんなの!?神か?優しさの化身か!

 

 「本当?!ありがとう心のともよー」


 ジャ◯アンばりに感動しておもわずハグした。


 「え、ちょっ!」


 リンがものすごく顔が赤くなり動揺するが動いたら俺の肌に防具が当たって切り傷になるのを警戒してかジッとしてくれてた。


 すまん……流石に男同士のハグは気持ち悪かったかな?

 あれ?今身体は女か?どうでもいいや!


 「何でも言うこと聞きます!」


 ついていきますぜ!兄貴!


 「何でも……?ッ!え、えと、とりあえずその格好だと寒さを凌げないから一回キャンプにもどって装備を整えましょう!」


 「おいリン!」


 「次は何!」


 ショウは俺のぼろ布服をめくってきた。


 黒いレースのパンティーとブラジャーの下がちょい見えする。




 いやん、なーんて……




 残念身体は女でも中身は男ですー!



 「ショ、ショショショウ!?何してるの!?」


 リンがめちゃめちゃ顔が赤くなって、ヒロユキは此方をみないようにしてる。


 うん、なんかごめんね。


 「良く見ろ!この布質とこの裏の魔法陣……これは雪山に住む【雪うさにょん】の素材で作られた【耐寒】の優れてる布だ!」


 えええ!?うそだぁ!!めっちゃ寒いぜ!?


 てか何その名前!?かわい!?


 「へ?あ、え、そうなんだ……って解ったから!めくるのやめてあげて!」


 バッとショウの手をリンがおろさせる。

 ちなみにもっかい確認しとくが俺にそっち系の恥ずかしさはない!

 心まで女にはなってないからな!



 例えるなら銭湯でタオルなどを使わない男らしい男の様!



 「つまりこいつは余程の事じゃ死なないし俺達にはギルドからの時間も決められてる!今から帰るなんて有り得ねぇ!これは言う事を聞く聞かない以前の話なのは解るよな?」


 「う、確かにショウが正しい……すいません、35番さん」


 「い、いやいや!リンくんは悪くないよ!」


 うぅ、自分が原因で喧嘩されるとツラタニエン……


 「サカムサが気になるからカロは残るカロ」


 どうやらトカゲさんはここに残るらしい。


 「そ、そうだよね、サカムサくんによろしくね?32番さんの分まで頑張るよ!」


 「そっちも気を付けるカロ」



 こうして準備を整え俺達は四人で行動することになった。
















 「へっくち!」







  本当に寒い……











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る