第169話 文化祭と新人戦
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7月31日金曜日。
夏休み初日、オレは制服で学院に足を運んでいた。
昇降口で靴を履き替えていると、吹奏楽部の楽器の音色が聞こえてきた。
外からは野球部がバットでボールを弾く金属音が響いている。
部活動に所属している生徒にとって、長期休暇は練習漬けの辛い日々となるだろう。
だがいずれ過去を振り返ったとき、仲間と流した汗の分だけ思い出として心に強く残っているに違いない。
いわゆる青春を謳歌している生徒に対して憧れのような感情を抱くことはあるが、オレの人生とはかけ離れすぎていて想像もできない。
学院に入学したのも、生徒会に入ったのも、文芸部に所属したのも全ては目的のため。
目的を達成したオレには何が残るんだろうな。
「失礼します」
生徒会室のドアを開ける。
今日は文化祭についての会議が開かれることになっている。
室内にはすでに生徒会の面々が揃っていて、手前のテーブルでは榊原先輩と天童先輩が書類の整理を行っていた。
橋場先輩はいつも通り部屋の隅で筋トレをしている。この異様な光景も見慣れてしまって今では何も感じなくなった。
「神楽坂くん、こちらで説明をするので来て下さい」
「はい」
滝壺先輩に呼ばれて、会長席の前の長机に腰を掛ける。
先に座っていた暗空は机の上に用意された書類に目を通していた。
オレも書類を手に取り、サラッと上から下まで目を通す。
「夏休み初日に呼び出してすまないな。前回の会議で案内したようにこれから生徒会は文化祭の準備で忙しくなる。夏休み中も定期的に会議が開かれるからそのつもりでいてくれ」
文化祭の説明はオレと暗空の2人に向けて行われるらしく、他のメンバーは各々の作業を続ける形となった。
「まず文化祭の概要について滝壺から頼む」
馬場会長から指名され、滝壺先輩が一歩前に出る。
オレと暗空に配布された資料を作成したのが恐らく滝壺先輩なのだろう。
「まず、文化祭の開催日時についてですが9月26日(土)〜27日(日)の2日間を予定しています。1日目は学院の生徒だけで行われ、2日目は私立鳳凰学院高等学校、聖帝虹学園高等学校の2校と合同で行われる予定です」
9月末の開催となると準備期間は1ヶ月半といったところか。
夏休みにどれだけ中身を詰めていけるかが鍵となってきそうだ。
「文化祭の出し物については大きく分けて6タイプあります。資料に一例を記載しました」
・体育館のステージ等を利用した芸術発表。
例:演劇、音楽、ダンス。
・飲食物の販売。
例:焼きそば、たこ焼き、唐揚げ、かき氷、クレープ。
・物品の販売。
例:文芸誌、ハンドメイドアクセサリー。
・空間演出。
例:お化け屋敷、プラネタリウム、迷路、写真スポット。
・参加型企画。
例:ストラックアウト、輪投げ、くじ引き、射的。
・展示。
例:芸術作品、研究発表。
文化祭の王道と呼ばれる出し物がわかりやすく記されている。
一覧を眺めていると不思議とイメージが湧いてくるものだな。
「出し物の申請は明日8月1日から受付を開始します。榊原くんと天童さんにはその準備をしてもらっています」
榊原先輩と天童先輩は申請書をまとめたり、過去の資料を読み返したりしていた。
実際に受付が開始したらかなりのスピード感で作業を進めなくてはならない。
そのためには事前の段取り、確認が重要だ。
「申請単位は部活動での申請と個人の申請の2種類ありますが、出し物が被った場合は抽選になります。また、文化祭の趣旨にそぐわないと判断された出し物は却下されます」
焼きそば、たこ焼きなど定番の出し物は競合が多くなりそうだ。
「出し物にかかる費用は個人で負担して頂く形になります。その代わり売り上げは全額出店者に入ります。出店者の人数によってライフポイントが均等に分配される仕組みになります」
その他にも出店場所は出し物の申請のタイミングで希望を取り、被っていれば抽選になることが説明された。
飲食を扱う出し物は入口に近い方が集客が見込めるだろう。
ライフポイントが逼迫している生徒にとって文化祭は生活費を稼ぐ良いチャンスになるかもしれない。
「文化祭の大まかな説明は以上になります。8月中旬に私立鳳凰学院高等学校と聖帝虹学園高等学校との合同会議を我が校で行います。それまでに資料の内容を頭に入れおいて下さい」
「分かりました」
他校の生徒と顔を合わせるのは初の機会だ。
もしかしたら反異能力者ギルドのメンバーが来るかもしれない。
最近は学院の内部にばかり目を向けていたが敵は外にもいる。
文化祭が始まるという実感が湧いてきたのと同時に緊張感が高まってきた。
「話は早いかもしれないが文化祭が終わった後、10月には他校対抗序列戦が開催される。1年生の場合は他校対抗新人戦だな。序列上位7人が学院の代表としてトーナメントに参加する。文化祭の合同会議に出席する他校の生徒はウチと同様序列上位陣で組まれてる。いずれ戦う相手だと思って観察するのも1つの手だな」
かなり大きな情報が馬場会長から語られた。
1年生の序列上位7人となればもちろんオレも含まれている。
「すみません、去年はどこが優勝したんですか?」
「新人戦は私立鳳凰学院で序列戦は馬場会長が優勝されました」
暗空の質問に滝壺先輩が誇らしそうに答えた。
「まあ序列上位者でも出場が強制される訳じゃない。去年は何人か辞退したらしい。その証拠に反異能力者ギルドのメンバーは誰も序列戦に参加していない。今年はどうなるか分からないけどな」
向こうもギルドの手の内を明かしたくはないはず。
だが、馬場会長の言う通り蓋を開けてみなければどうなるかは分からない。
文化祭の合同会議の場で他校の生徒を把握するところから始めるとしよう。
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