第134話 氷炎乱舞
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氷堂が発動した『
力の込め具合によって刀身の長さと威力が変化するビームソード。
その破壊力は山をも斬り裂くと言われている。
事実、反異能力者ギルドの妖刀使い・ハバネロを圧倒する活躍を見せた。
そんなクロムの鋭い剣戟を幾重にも防ぎ、必死に食らいつく千炎寺の身体は高温の熱を帯びていた。
格上の相手と戦うとそれに引っ張られるように成長するというのはよくあることだが、この数分間で千炎寺も急激な成長を遂げていた。
初めは体格の差から押し込まれ気味だったが、今ではほぼ互角に斬り合っている。
「この力、その熱が源か?」
攻めあぐねる形となったクロムが1度距離を取り、千炎寺に問い掛ける。
「あ? よくわからないが不思議と調子が良くてな。止まるのが勿体無い!」
千炎寺が駆け出し、両手で緋炎を振るう。
当の本人も理由まではわかっていないらしい。
アドレナリンや火事場の馬鹿力など、いくつか要因は考えられるが流石にそれだけでは説明がつかない。
目に見える変化と言えば、やはり千炎寺の身体から発しているこの蒸気。
千炎寺の異能力は物体生成と炎の2つ。
後者の異能力が千炎寺の体内で何らかの働き掛けを行っている可能性が高い。
「おらぁああ!」
クロムの右肩から斜めに斬りかかるが、これに対してクロムも正面から受け止める。
鍔迫り合いにもつれ込み、2メートルを越える巨体による押し込みが千炎寺を襲う。
千炎寺の額に汗が伝い、そのまま蒸発して空気と化す。
歯を食いしばり、目線はクロムから一切たりとも離さない。
そうこうしてる間にもビームソードが巨大化し、黄色い輝きを増していく。
刃同士が干渉し合って、千炎寺の身体に降り注ぐように火花が舞い散る。
「ぐぬっ」
なかなか押し込みきれず、先に声を漏らしたのはクロム。
わざと力を解除し、高速で回転しながら千炎寺の胴を薙ぐ。
千炎寺は緋炎の腹をクロムに向けることで攻撃を防ぎ、すぐさま下段から斬り上げた。
避ける間もない素早い一撃にさすがのクロムも攻撃を受けるしかない。
そう思われたのだが、
「なっ!?」
地面に向かってビームソードを突き刺し、剣身を勢いよく伸ばすことで緋炎の攻撃範囲から逃れた。
この咄嗟の判断に千炎寺も思わず間抜けな声を出さずにはいられなかった。
氷堂とイレイナの膠着状態に続き、千炎寺とクロムもお互いに距離を保ったまま動かない。
千炎寺には『
それではクロムにも時間を与えてしまう。
ビームソードにエネルギーを注ぎ込む時間を与えてしまっては最悪相殺されてしまう可能性があるため、『
だとしたら、手数と勢いで押し切るしか道はない。
「
クロムに炎の斬撃を放ち、前進する千炎寺。
対するクロムは居合いの構えを取り、一気に斬撃を斬り払う。
そこに跳躍した千炎寺がクロムの真上から緋炎を振り下ろす。
「間に合わぬッ」
左手を頭上に伸ばし、素手で緋炎を掴むクロム。
瞬間、クロムの黒い装甲が音を立てて溶け始めた。
ロボットだから痛みを感じないとはいえ、手のひらの形が変わってしまっては剣が握れない。
クロムはビームソードを持つ右の拳で千炎寺を殴り飛ばした。
「ぐはっ」
地面に叩きつけられた千炎寺だが、受け身を取っていたためすぐに起き上がる。
互角に戦えている間は攻撃の手を緩める必要はない。
千炎寺とクロムの刃が再び衝突する。
衝撃で体が吹き飛ばされそうになるが、下半身に重心を落とすことで踏み止まる。
二撃、三撃、四撃と目にも留まらぬ速さで刀を振るう。
千炎寺の中で最早序列戦のことなど頭からすっかり抜けていた。
目の前にいる強敵を超える。
ただそのためだけに刀を振るい続ける。
「ふぅーーーーっ」
身体の内側が燃えるように熱い。
深く息を吐いた千炎寺が渾身の力でクロムのビームソードを弾き上げる。
がら空きになったクロムの左胸目掛けて緋炎で突きを放つ。
あと、数ミリでクロムの校章に刃が届く。
と、そのとき、隣の戦場からイレイナがレーザー銃を放ってきた。
レーザーが千炎寺の緋炎を捉え、衝撃で狙いがブレてしまう。
「クロム、何をやっているんですか」
「イレイナこそ、攻めあぐねているではないか」
クロムがバックステップで距離を取り、その隣に空中を飛んでいたイレイナが降り立った。
「氷堂、ついに完成させたんだな」
「うん、まだ完璧とまではいかないけど手応えは掴めた。千炎寺くんこそ何か変わった?」
『
「刀を振るう度に身体の内側から炎が燃え上がってくるように力が湧いてくる。俺も新技を試してみたいところだが、そうだな、ここは2人の連携技で決めるか」
「そうね」
特待生の氷堂と千炎寺。
2人には対反異能力者ギルドの特訓中に築き上げてきたものがある。
あの頃より成長した2人なら息も合わせられるはず。
「クロム、私たちも次で決めに行きますよ」
「うむ、2人まとめて斬り払ってくれる!」
イレイナが銃撃を開始。
それに反応して氷堂と千炎寺が飛び出す。
氷堂が千炎寺の前を走り、強化された氷剣でレーザーを相殺していく。
スピードを緩めることなく、高速で足を回転させる氷堂。
千炎寺はそれについていくのがやっとという状況。
だが、視点を変えれば『
待ち構えるクロムはイレイナの影に隠れて精神統一をしていた。
ビームソードがバチバチと音を立て、刀身も伸びていく。
「我輩の最大を以って、打ち砕く!」
クロムの攻撃有効範囲に入るよりも少し早く、イレイナがスッと後ろに下がった。
刹那、風を斬り裂く爆風と共に激しい光が横切る。
「氷剣一閃!」×「緋炎一閃!」
氷と炎の
2つの武器がビームソードと重なり、雷が落ちたような轟音が鳴り響いた。
衝撃波で木々が倒れ、大地をも震わす。
氷堂も千炎寺も腹から雄叫びを上げる。
氷堂の纏っている氷の鎧に亀裂が入り、氷狼の仮面にもヒビが入る。
生身の千炎寺は身体が衝撃に耐えられず、至る所から出血していた。
それでも必死に食らいつく。
「グアァッ!!」
ビームソードを押し返し、イレイナの援護射撃を緋炎でガードする千炎寺。
1+1=2以上の力を生み出す。
氷堂と千炎寺、この2人が息を合わせれば倒せない敵はいないのかもしれない。
勝負はあった。
氷堂と千炎寺の目には前衛のクロムが映る。
次の瞬間、氷と炎の斬撃がクロムを襲った。
「漁夫の利という言葉をご存知ですか?」
突如として聞こえてきた落ち着いた少年の声。
橙色のビームソードを構えた少年はこの場にいる誰にも答えさせる暇を与えず、斬撃を打ち消した。
端から答えを求めていた訳ではないようだ。
「
クロムの前に現れた無名に警戒心を露にする千炎寺。
「降りそうだとは思っていましたが、降ってきてしまいましたね」
手のひらを天に向け、降り出した雨を受け止める無名。
クロム、イレイナ、千炎寺、氷堂、ここにいる全員が直前まで無名の存在を認識できなかった。
明らかに異質なオーラを撒き散らす無名に氷堂と千炎寺は刃を振るうか躊躇っていた。
「漁夫の利というのは第三者が骨を折らずに利益を横取りするという意味です」
無名が腰のホルダーから橙色の銃を抜き、銃口を氷堂に向ける。
その所作があまりにも滑らかだったため、氷堂の防御が遅れてしまう。
「氷堂ッ!」
無名が引き金を引く。
が、しかし、銃口からは何も出てこない。
速すぎて見えなかった訳ではない。何も出てこなかったのだ。
拍子抜けした氷堂が氷剣を握り直し、無名に斬り掛かろうと地面を蹴る。
「なんで!?」
走り出そうとした氷堂の氷の鎧が砕け、校章が砕け散った。
膝から崩れ落ち、手にしていた氷剣も元の形に戻り霧散する。
「次は君だね。
無名に名前を呼ばれた千炎寺は背筋に悪寒が走っていた。
自身の理解の及ばないことが起きると戦意を無くしてしまうことがある。
目の前で氷堂がいとも簡単にやられた。
決して油断していた訳ではない。
そもそも銃弾は発射されたのか?
氷堂の鎧を砕いているのだから発射されたに違いない。
だとしたらなぜ見えなかった。
千炎寺の脳内で疑問が渦巻く。
そして、辿り着いた答えは。
「
無名と自分との間に炎の壁を作り、無名に背を向けて全力で駆け出した。
無名はクロムとイレイナでは無く氷堂を攻撃した。
教師と手を組んでいるなんてことは頭の片隅にも無かったが、2番目に自分が狙われたことからその可能性も0では無くなった。
3対1では勝ち目はない。
よって逃走することを選んだ。
「追わなくてよいのか?」
「必要ありません。それよりも2人はレベルアップをしたと聞きましたが」
無名に詰められて目を逸らすクロムとイレイナ。
「まあいいです。期待はしていませんが目的は果たして下さいよ。仮に失敗したとしても全て彼が終わらせてくれるはずですけどね」
打ちつける雨の中、無名は2人を残して森の中に消えていった。
【◯教師参戦】END。
NEXT→【○張り巡らされた糸】
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