第119話 因縁の対決、明智の包囲網

—1—


 集団序列戦のルールでは上限3人までのグループしか作ることはできない。

 しかし、信頼関係が築かれていればグループを作らなくても手を取り合うことはできる。


 例えそれが一方的なモノであったとしても。


「明智さんの頼みとあれば拙者、たとえ火の中水の中、雷が降り注ぐ荒野であろうと颯爽と駆けつけてみせますぞ」


 私のファンクラブを立ち上げた丸岡まるおかくんが黒縁眼鏡を押し上げて決めポーズを取った。

 額に巻かれている赤いハチマキがアイドルやアニメの熱烈なファンを連想させる。


「丸岡、そのオタク口調はどうにかならないの?」


磯峯いそみね氏、拙者のどこがオタク口調なのか今すぐ原稿用紙1枚以内で説明してもらいたいのだが」


「相変わらず自覚症状がないんだな。あと、人のことを指差すなこらっ」


 磯峯さんが丸岡くんの手を軽く叩いた。

 磯峯さんは長髪で陽射しを避けるためなのか青色の帽子を被っている。


「おっとこれは失敬失敬。拙者としたことがつい熱くなってしまった」


 私は集団序列戦開始時にみんなにここで待っていて欲しいと伝えた。

 どうしても倒したい人がいる。

 そう付け加えると私を慕ってくれているみんなは快く首を縦に振ってくれた。


 そして、暗空さんと神楽坂くんをこのポイントに追い込むべく、光球の威力を捨てて追尾性能だけに集中させた。

 もちろん要所要所で鋭い攻撃も織り交ぜた。

 その結果私の思惑通り、2人をここまで誘い込むことができた。


 私の呼び掛けに応じてくれたのは6人。

 これで7対2だ。


—2—


 私が明智さんの両親を殺した?

 マザーパラダイスに在籍している間は、種蒔さんからの依頼という形でいわゆる悪人と呼ばれる人間を捌いてきたけれどそこに明智という苗字の人間はいなかった。


 それにターゲットの命を奪う役目のほとんどはウシオが担っていた。

 それでも明智さんは私だと疑いの無い強い眼差しを向けてきた。


 私が忘れてしまっただけ?

 いいや、この手で奪った人のことを忘れるはずがない。


 悪人とはいえ、その人の人生を奪ったことに変わりはないのだから。


「丸岡くんと磯峯さんは私と暗空さんを。残りのみんなは神楽坂くんをお願い!」


 明智さんが味方に指示を出す。

 入学してから早い段階で学年の中心人物になったとは思っていたけど、ここまで厄介な存在になるとは思ってもいなかった。


 丸岡くんに磯峯さん、ノーマークすぎて2人の異能力がわからない。


「神楽坂くん」


「オレのことは気にしなくていい。暗空は明智を倒すことだけ考えろ」


「わかったわ」


 どうやら余計な心配だったみたい。

 前方には明智さん、後方には丸岡くんと磯峯さん。


 未知の相手を1人で相手にするのは神経を使う。

 だったら。


影分身シャドー・アナザー


 分身を作って3対2。

 私は明智さんを、分身は丸岡くんと磯峯さんを。


「ッ!」


 よそ見をしていた訳ではない。

 分身を作り出したことで意識を一瞬分身側に割いたこの隙に明智さんが一気に間合いを詰めてきた。


 振り下ろされる光剣を月影で受け止める。

 が、咄嗟の対応で威力を殺しきれない。


 だとしたら押し込まれる前に攻撃を受け流す。

 重心を左に傾けながら明智さんを右に流していく。


 しかし、明智さんはすでに次の動作に移っていた。

 剣を片手に持ち替え、自由になった左手に光の粒が集約されていく。

 前傾姿勢になりながらも左手だけはしっかりこちらを捉えている。


 不味い。


光粒砲撃シャイン・カノン!」


 無数に放たれた細かい光の粒がほぼゼロ距離で襲い掛かる。

 反射的に月影を手放し、目の前に霧状の影を展開するがこれは気休め程度にしかならない。

 せめて校章だけでも守らなくては。


 私は両手で校章を覆うようにして光の雨を全身で浴びた。


「まだまだ足りないよ。暗空さんにはもっと痛い目に遭ってもらわないと」


「なぜ私だと思ったの?」


 全身がヒリヒリする。

 これだけ攻撃をまともに食らったのは久し振りだ。


「随分とおかしなことを聞くんだね。私がこの目で暗空さんを見たからだよ。パパとママを殺した暗空さんをね!!」


 横に薙いできた光剣を滑るように後退して回避。

 思考を巡らせる。

 私と明智さんは過去に顔を合わせている?


 いや、そんなはずはない。

 全く心当たりがない。


「それはいつの話?」


「さっきからなんなの? まだ私じゃないなんて言うの?」


 明智さんの苛立ちが見て取れる。

 でも、確かめなくてはならない。


真実の鏡トゥルー・ミラー!」


 背後が一瞬、太陽の光を反射した。


「流石は磯峯氏。嘘を全て無効化する力には味方ながらに恐れ入った」


「分身は言ってしまえば偽物でしょ。ま、これを思い付いたのは明智さんなんだけどね」


「なんと、そこまで対策されていたとは。つまり勝つべくして勝ったと。納得納得」


 影分身シャドー・アナザーがあっさりと攻略されてしまい、状況は振り出しに戻ってしまった。

 丸岡くんと磯峯さんが近づいてくる気配を感じる。


「決まったみたいだね」


「いいえ、まだ決着はついていないわ。明智さん、あなたが私を見たのはいつの話?」


「しつこいな。去年の冬、12月。クリスマス前だよ。ニュースで見てない? 明智製薬の最高責任者2人が殺害されたって」


 私は首を横に振る。


「テレビを見る習慣がなかったので。でも今のでわかりました。明智さん、あなたは勘違いをしているかもしれないわ」


 去年の12月。

 マザーパラダイスは天魔咲夜の襲撃を受けてとっくに無くなっている。


 私はマザーパラダイスの卒業生である鞘師先生と保坂先生の案内で、種蒔さんが残してくれた家で仲間たちと静かに暮らしていた。


 だから、明智さんが見たという私は

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