第102話 ペア総当たり戦

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 食堂で昼食を済ませて午後の授業へ。

 千炎寺正嗣せんえんじまさつぐが特別講師として学院にやって来てから初めての異能力実技の授業。


 これまでは個人の戦闘技術向上を図った総当たり戦が行われていたが、今回からは集団序列戦を意識してなのか2人組のペアでの総当たり戦を行うことになった。


 正嗣から校章に見立てたバッジが配布され、それを左胸に付けるよう指示される。

 ペアの片方のバッジが砕かれたらその時点で敗北というルールだ。

 つまり味方を守りながら敵を攻めなくてはならない。攻守のバランスが重要になってくる。


「ペア決め、対戦相手決めに時間を割くのは効率が悪いため、私の方で対戦表を作ってきた。名前が呼ばれた者から移動を始めてくれ」


 確かに自由にペアを組んでいいとなると身内同士で固まり、余った人はなかなかペアを組むことができないといった現象になりかねない。

 経験者であるオレが言うのだから間違いない。


 正嗣の口から続々とペアが読み上げられていく。


「次のペア、敷島しきしまふさぎと千炎寺正隆せんえんじまさたか


 集団序列戦では、序列10位以内の生徒同士がペアを組むことは禁止とされているがペア総当たり戦では関係ないみたいだ。

 火野を倒して現在序列5位に位置している敷島と序列6位の千炎寺。

 敷島が守りを、千炎寺が攻めを得意としているからバランスも取れている。


「対戦相手が神楽坂春斗かぐらざかはると氷堂真冬ひょうどうまふゆ


 名前を呼ばれて氷堂の姿を探す。

 向こうもこちらを探していたようですぐに見つけることができた。


「作戦はどうする? 私は攻めと守りどっちでもいいけど」


 氷堂の異能力は氷。

 広範囲で場を制圧する技から氷を剣の形状に変化させた氷剣を武器にして近距離戦闘でも戦える。

 それに加えて氷の盾で攻撃を防ぐことも可能だ。


 正に万能タイプ。

 正直言ってオレがいなくても十分2人と渡り合えるだろう。

 とはいえ、こちらに敷島のデータがほとんど無い以上過信し過ぎるのはよくない。


 序列戦ではなく、授業だからこそ色々試してみるのもいいかもしれないな。


「攻撃の主体は氷堂で行こう。オレはサポートに徹する」


「今更実力を隠す必要もないと思うけど」


 若干眉を寄せながら透き通った青い瞳をこちらに向ける氷堂。

 オレが序列2位になったのは周知の事実。

 氷堂とは反異能力者ギルドを相手に共に戦った仲でもある。


 だが、多くの生徒はオレが全力を出している姿を目撃した訳ではない。

 1人だけいるとすれば対ガイン戦で共闘していた暗空だけだ。


「サポートとは言っても状況に応じてオレも攻めに加わる」


「そう。ならいいけど。千炎寺くんの異能力は炎だから場合によっては手を借りるかもしれないってことだけ言っておく。まあ、負ける気はないけどね」


 氷堂らしい強気な発言。

 異能力には相性が存在する。

 例えば火は水に弱く木に強い。氷は炎の熱で溶けてしまうため、相性があまり良くないのだ。


「試合が始まるまでまだ数分ある。具体的な作戦を少し詰めるか」


 全てのペアが発表されるまでまだ時間はある。

 相手の攻め方を予想していくつか攻撃パターンを作っておいた方がいいだろう。


—2—


「それで、どうすんの?」


 ペアになった敷島ふさぎが人差し指で髪の毛をくるくるといじりながら聞いてくる。

 左手には彼女の武器である白い大盾が握られている。


「どうすんのも何も敷島さんが守りで俺が攻めでいいんじゃないか?」


「千炎寺はそれで勝てると思うの?」


「な、呼び捨てかよ」


 ろくに話したこともないのに呼び捨てにされて、驚きのあまり思わず声が漏れてしまった。


「勝てるのかって聞いてるんだけど。どうなの?」


 小柄な体格だから俺の顔を見上げるような形になっているのだが、敷島の態度や目力から圧を感じる。


「氷堂を抑え込むことはできるかもしれないが神楽坂もとなるとキツい」


「ふーん、そんなもんか」


 敷島はガッカリしたとでも言いたげなため息をついた。


「おい、黙って聞いてればなんだよその言い方は」


「私は私より強い人にしか興味がないの」


「は? 俺がお前より弱いとでも?」


 ソロ序列戦を振り返っても敷島の印象は薄い。

 直接見た訳じゃないが予選最終日に岩渕と対戦して開始10秒で決着がついたらしいしな。


「私の序列は5位。あんたは6位。この学院は序列が全てでしょ。悔しかったら下剋上システムでも何でも使って私に勝ってみれば」


 同学年にピンク髪の小さい物静かな女の子がいるな、くらいの認識しかなかったけど話をしてみて分かった。

 こいつは最悪だ。生意気で礼儀もなっていない。話しているだけでイライラする。


「あー分かったよ! この授業が終わったら下剋上システムで挑んでやるから逃げるんじゃねーぞ」


 売り言葉に買い言葉。

 負けず嫌いの性格が前面に出てしまった。


 しかし、仕方がない。本気でイラッとしてしまったのだから。

 それに序列が上だから何でも言っていいという考え方は間違っている。


「男に二言はないよね?」


「あたりまえだ」


 敷島はこの状況を作り出すためにわざと挑発してきたのかもしれない。

 彼女の歪んだ笑みを見て、俺はそう思った。

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