◯グループ分け

第101話 明かされる集団序列戦の概要

—1—


 どんなに衝撃的なニュースが世間を騒がそうと、新しいスクープが出れば人々の記憶は新しい方へと上書きされる。

 そうやって日々情報は更新されていくものだ。


 学院でもそれは同じ。

 連日多くの生徒の間で様々な憶測が飛んでいた暗空の掲示板問題。


 誰が掲示板に張り紙を貼ったのか?

 暗空は本当に人を殺したことがあるのか?

 など、未だに真相は闇の中だが、日付が変わった今日6月17日水曜日。

 登校した1学年の生徒の頭から暗空のことは綺麗さっぱり消えていた。


 一体なぜか?

 それはこの状況に関係している。

 体育館に集められた1学年の生徒154人。

 それぞれが不安と期待とが入り混じった表情でステージ中央にあるスクリーンを見つめている。


 スクリーンに映し出された『集団序列戦について』という文字。

 そう。いよいよ新しい序列戦の概要が公開されるのだ。


 ステージの前方には教師陣が横に並び、校長の陣内じんないの到着を待っていた。

 左から教頭の深瀬ふかせ、白衣姿の海藤かいとう、1学年担当の鞘師さやし保坂ほさかがやや緊張した面持ちで立っている。

 そして、赤と黒の袴に身を包んだ特別講師の千炎寺正嗣せんえんじまさつぐも保坂の隣に並んでいる。


「来たな」


 陣内が体育館に姿を見せた。

 白髪混じりの頭を掻き上げ、教師陣に対して右手を軽く上げて挨拶を済ませた。


「ソロ序列戦のときと違って集会を開くぐらいだから気合が入っているのかな?」


 背後から西城に声を掛けられる。

 昨日の放課後、帰り支度をしていたオレの元に西城がやって来て、学院のウェブサイトが更新されていることを教えてくれた。

 新着欄に記載された『6月17日1学年の授業変更のお知らせ』という見出し。


 それが今というわけだ。


「そうかもしれないな。集団序列戦という名前からして戦う場所もそれなりの広さが必要だろうしな」


 ステージに陣内が上がり、マイクを握る。


「おはようございます。前回の序列戦から約2ヶ月ですか。2ヶ月と聞いて長いと思った人、短いと思った人がいるかと思いますが、この先長い人生の中で見れば高校生の3年間は一瞬です。だからこそ、異能力者育成学院を選んだ皆さんには充実した3年間を送って欲しいと考えています。と、前置きはこのくらいにしておきますか」


 陣内がスクリーンにレーザーポインターを向ける。


「皆さんも気になっているかと思います。集団序列戦について私の方から説明します」


 スクリーンの文字が切り替わる。


『集団序列戦=無人島サバイバル』


「集団序列戦とは、ここに書いてある通り無人島で行われるサバイバルになります。1学年の生徒154人で戦い、生き残りを目指してもらいます」


 無人島という言葉を聞き、生徒の表情が驚きに変わる。

 ソロ序列戦のときのようなドームを想像していた生徒が多かったはずだ。

 普通の発想ではまず無人島には辿り着けない。


「ルールは至ってシンプルです。我が校の校章を左胸につけて頂き、それを砕き合うというものです」


 異能力者育成学院の校章は、平和の象徴である鳩の羽がモチーフになっている。

 陣内がお手本として校章を左胸につけて見せた。


「さて、ルールはシンプルと言いましたがそれは勝敗の付け方という意味でして、詳しい概要は口頭での説明が難しいためこちらにまとめました。後ほど、学院のウェブサイトの個人フォルダから閲覧可能となりますので各自確認お願いします。ではまずは日程です」


 確かに1回で覚えるには情報量が多すぎるため、学院のウェブサイトから閲覧できるのはありがたい。ここでメモを取る必要も無いしな。


【集団序列戦・日程】

7月3日(金)バスと船を使い、無人島へ移動。

7月4日(土)『集団序列戦』開始。午前8時〜午後7時。

7月5日(日)『集団序列戦』。午前8時〜午後7時。

7月6日(月)『集団序列戦』午前8時〜午前12時まで。

7月7日(火)午前12時学院到着予定。


「ご覧の通り、集団序列戦は移動を含めて4泊5日のスケジュールとなってます。着替えなど必要になりそうな物は事前に準備しておいて下さい」


 集団序列戦自体は2泊3日か。

 1日目と2日目が11時間、3日目が4時間。なかなかに厳しい戦いになりそうだ。

 日程を頭に入れ終えた頃に再び画面が切り替わる。


【集団序列戦・基礎ルール】

1・左胸に付けた校章を砕かれた者が脱落となるサバイバル方式。(行動不能、体調不良になった生徒も脱落となる)

2・校章を砕いた者には1点が入る。

3・得点上位7人には報酬としてバトルポイントが支払われる。

4・安全のため、午後7時から午前8時までの一切の戦闘行為を禁止とする。

5・食料や生活必需品、携帯端末の充電などは全てスタート地点か特定のエリアでライフポイントと引き換えることが可能。

6・1点を支払うことで無人島全域の生徒のGPSサーチをすることが可能。

7・3点を支払うことで特定の人物のGPSサーチをすることが可能。


「5つ目の特定のエリアについてですが、こちらはスタート地点を含めて4箇所を予定しています。東西南北に1つずつというイメージですね。トラブルや困ったことなど、何かあったら立ち寄って下さい」


 特定のエリアもそうだが、ここで注目するのはGPSサーチだろう。

 得点を消費することにはなるが、使うタイミングによってはかなり展開を優位に進めることができそうだ。


【集団序列戦・特別ルール】

1・2日目から教師が参加する。教師は視界に入った生徒を攻撃する。

参加教師:鞘師環奈さやしかんな保坂歩ほさかあゆみ千炎寺正嗣せんえんじまさつぐ、クロム、イレイナ。

2・3日目から得点上位7人のGPSが作動する。


「続いて特別ルールについてです。今回の序列戦は教師も参加します。とは言っても視界に入った生徒に攻撃を加えるというものなので、戦闘を避けたい生徒は教師の視界に入らないように気をつけて行動して下さい」


 正嗣は世界最強の剣士として名を馳せているから実力はわかるとして、他の教師陣に関しては全くわからないな。

 クロムとイレイナは教師ですらないし。

 それと得点を取りすぎても最終日にGPSに引っ掛かる仕組みだと作戦を練りずらい。これは完全に頭脳戦だな。


【集団序列戦・報酬】

1位3000バトルポイント

2位2500バトルポイント

3位2000バトルポイント

4位1500バトルポイント

5位1000バトルポイント

6位500バトルポイント

7位250バトルポイント

教師撃破ボーナス1000バトルポイント

生存者ボーナス50バトルポイント


「教師を倒した生徒と最後まで生き残った生徒にもボーナスが入ります」


 仮に教師を全員倒すことができれば一気に5000バトルポイントを手に入れることができる。

 だが、それはまず無理だろう。

 暗空や馬場会長の話では、鞘師先生は反異能力者ギルドの妖刀使い・ハバネロの攻撃を素手で防いだらしいし、世界最強の剣士を一学生が倒せるはずもない。


「説明が長くて疲れてきたかと思いますが、次で最後になりますのでもう少し頑張って下さい。今日集まって頂いた1番の理由がこちらになります」


【集団序列戦・グループ分け】

1・6月17日から7月2日まで、上限3人までのグループを組むことができる。

2・序列10位以内の生徒同士でグループを組むことはできない。

3・グループの誰かが得点上位7位以内に入った場合、もしくは教師を撃破した場合、報酬のバトルポイントはグループのメンバーで均等に振り分けられる。

4・1度グループを組んだらそのグループから抜けることはできない。

5・集団序列戦が始まってから2日目が終了するまでに150000ライフポイントを支払えば新たにグループを組むことが可能。


「本日、この瞬間から集団序列戦前日までの間、皆さんにはグループ分けを行ってもらいます。もちろんグループを組むかどうかは個人の自由です」


 仲の良い生徒同士で目配せし合う様子があちこちで見て取れる。

 序列10位以内の生徒とグループを組んではいけないとなると、オレの知り合いは浅香と西城くらいか。


 ルールを読む限り、現在序列10位以内の席に座っている生徒は無理にグループを組む必要がないように思える。

 仲間を募るとしたら回復系統などのサポート系の異能力を持っている生徒だろうか。


 集団序列戦の説明を終えた陣内がステージから降壇する。

 それを持って集会は解散となった。


 しかし、新たな序列戦のインパクトは大きかったようで多くの生徒はしばらくその場から離れなかった。

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