第98話 急展開


—1—


 迎えた放課後。

 急遽緊急の生徒会会議が開かれることになったのだが、議題の中心である暗空が欠席したことによりあっさりと解散となった。


「神楽坂、暗空から何か話は聞いているか?」


 筆記用具を鞄にしまっていると生徒会長の馬場が声を掛けてきた。

 生徒会室に残っているのはオレと馬場会長と滝壺先輩の3人だけ。

 滝壺先輩は普段通り黙々とパソコンで事務作業をしている。


「いえ、特には」


 授業が終わってから暗空の姿を見ていないため、話す機会そのものがなかった。


「そうか。俺の方でも調べはするが何か分かったら教えてくれ」


「分かりました」


 鞄を肩にかけて生徒会室を後にする。

 反異能力者ギルドの襲撃により生徒の多くは不安を抱えている。

 こういう時こそ学院の中心となる生徒会が支えなくてはならない。不祥事などあってはならない。

 以前の生徒会会議で馬場会長はそんなことを言っていた。


 今回の暗空の件は見事にそのフラグを回収してしまったと言うべきか。


 しかし、一体誰が掲示板に張り紙をしたのだろうか。

 考えられる人物像としては、暗空に恨みを持っている人物。

 ソロ序列戦で優勝し、現在も1学年の序列1位に君臨している暗空。生徒会にも所属したことはすでに周知の事実となっている。


 1学年の中では1番目立っていると言っても過言ではない。

 とはいえ、暗空は他人とそこまで積極的に関わりを持とうとするタイプではないので特定の人物に恨みを買うとも考えにくい。


 ソロ序列戦で暗空に敗北した誰かか。

 個人名を挙げると過去に暗空と衝突経験のある浮谷か。


 どちらにせよ今オレが持ち合わせている判断材料だけでは到底答えに辿り着くことはなさそうだな。


—2—


 寮に帰り自室で何気なくスマホを操作していると着信が入った。

 すぐに出てもよかったのだが、あえて2コール目が鳴り終わるまで待ってから電話に出た。


『あっ、もしもし。神楽坂くんですか?』


「どうした千代田?」


 千代田とはメッセージでのやり取りはたまに行っているのだが、電話は珍しい。


『えっと、その、言おうか迷ったんですけど』


「ゆっくりでいい。落ち着いて話そう」


 恐らく千代田にとって電話を掛けるだけでも勇気を出したのだろう。

 緊張と焦りで言葉に詰まっていたので、ペースダウンさせることにした。


『す、すみません。もう大丈夫です』


「それで、何かあったのか?」


『はい、あの、私聞いちゃったんです。それで怖くて、どうしたらいいか分からなくて。でも絶対関係していると思って』


「何を聞いたんだ? 千代田の話せる範囲でいい。教えてくれないか?」


『あの、つい数日前、暗空さんの悪口を聞いてしまったんです』


「悪口?」


 影で他人の悪口を言うこと自体は珍しいことではない。

 教師の悪口を言ったり、学年の中心人物に対する嫉妬だったり、人は共通の敵を作ることで安心感を覚えたりする生き物だからな。


 だが、わざわざ電話を掛けてまで話すということはただの悪口ではなさそうだ。


『明確な殺意を持っていました。普段そんなこと言わない人だったので怖くなってしまって……それに今朝の掲示板の件もあったので』


「千代田、もし可能だったら悪口を言っていた人が誰か聞いてもいいか?」


「——です」


 千代田の口から告げられた予想外の人物。


 光があれば闇がある。

 仮にこの人物が掲示板の犯人だとしたら一筋縄ではいかなさそうだ。


 さて、この問題に対してオレはどこまで関与するべきか。


 この時のオレはまだ知らなかった。

 他人の心配などしている場合ではなかったということに。

 オレの命を刈り取ろうという刃はすぐそこまで迫っていた。



第3章 殺人ギルド血影編完結。

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